【池原照雄の単眼複眼】「抗円高」体質への転換担う…マツダのメキシコ工場が稼働

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マツダ メキシコ工場
  • マツダ メキシコ工場
  • マツダ メキシコ工場の開所式で挨拶する山内孝会長
  • マツダ メキシコ工場(キットサプライ方式)
  • マツダ メキシコ工場(MMVO) 江川恵司社長
  • マツダ メキシコ工場(MMVO) 富永修副社長
  • サプライヤーパーク内のワイテック・キーレックス・メキシコ社
  • マツダ メキシコ工場 車体溶接ライン

内外比率均衡へのグローバル戦略拠点

マツダのメキシコ工場(グアナファト州サラマンカ市、法人名=MMVO)が量産を開始し、国内外比率の均衡に向けた生産体制の再構築が動き出した。北米から南米までの米州全体と欧州への供給拠点として、2015年度には年23万台(トヨタ車5万台含む)の生産を目指す。長年の課題であった為替変動への抵抗力を高め、次世代技術群である「SKYACTIV」の展開とともに収益基盤の強化につなげる。

「当社の社運をかけた構造改革のなかで、最も重要なグローバル戦略拠点となる。この工場を必ず成功させ、マツダの新たな歴史を築きたい」――社長時代にメキシコ進出を決めた山内孝会長は、2月下旬に同工場で行った開所式の挨拶で、こう強調した。マツダの「構造改革」とは、08年のリーマン・ショック直後の最悪期に社長に就いた山内会長が打ち出したもので「SKYACTIVの展開」や「グローバル生産体制の再構築」など4項目から成る。

現在も実行途上にあるが、今期(14年3月期)の連結業績が過去最高益見込みとなるなど、着実な成果をもたらしつつある。構造改革に沿って15年度には世界販売を170万台(13年度見込みは133万台)に拡大させるとともに、国内外の生産比率を13年度見込みの国内7割強から半々とする姿も描いている。これにより「円高のたびに厳しい経営を強いられてきた」(山内会長)体質を、いわば「抗円高」体質へと転換させる狙いだ。

サプライヤーパークの3社と同期生産し現調率を高める

メキシコ工場は11年に住友商事(出資比率30%)との共同出資で設立、今年1月に米国向け『マツダ3』(日本名アクセラ)の量産に着手した。15年までには2番目の車種としてSKYACTIVを全面導入する次期『マツダ2』(同デミオ)も加える。能力も現行の年14万台から、15年度には23万台に引き上げる。今年10月には、エンジンの機械加工工場も追加投資して稼働させる計画。15年度までの総投資額は7億7000万ドル(約770億円)となり、同年度の従業員は約4600人を見込んでいる。

メキシコは50を超える国・地域とFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を締結しており、マツダは量産当初から北米に輸出可能な50%超の現地調達率を達成した。その原動力ともなっているのが新たな試みとして工場敷地内に併設した「サプライヤーパーク」だ。車体部品や足回り部分を生産する「ワイテック・キーレックス・メキシコ社」など、マツダと取引関係の強い部品メーカーがそれぞれ共同出資で3社を設立、パーク内でマツダの工場と同期生産を行っている。

日本の「モノ造り革新」を海外で初移植

メキシコ工場は、マツダが06年に着手した開発・生産部門の一体的な業務改革策「モノ造り革新」を海外で初めて本格展開する拠点でもある。MMVOの江川恵司社長は「マツダのモノ造り技術のすべてを、メキシコ工場に注ぎ込んでいる」と話す。メキシコの生産モデルである新型マツダ3は、日本では防府工場(山口県防府市)で昨年秋に立ち上げたばかりだが、ここでのモノ造り革新の取り組みがほぼそっくり移植されているのだ。

例えば、車体のプレス加工における廃棄鋼板を抑制する「歩留り向上」。この取り組みでは「サイドパネル外板」の歩留りを、旧モデルの47.5%から53%に高めている。歩留りは、一度打ち抜いて出た端材を、より小さい別の部品の材料として使うことで高める。旧モデルのサイドパネルの端材からは4部品(左右合計)しか再利用できなかったが、メキシコと防府で生産する新モデルでは一気に12部品(同)に再利用できるようにした。

メキシコでの「最適解」を追求

最終組立工程では、個々の作業員が組み付ける部品を、予め部品箱にセットして供給する「キットサプライ方式」を採用している。車種グレードや仕向け地などによって異なる部品の組み間違えを防ぐととともに、作業効率を大幅に高める方式だ。日本でも導入しているが、「メキシコでは新設の利点を生かし、ライン(=ベルトコンベア)幅を広くすることで、歩きながらや後ずさりの作業を排除した」(生産担当の富永修MMVO副社長)という。

日本のモノ造り革新で実践した技術をもち込みながらも、設備や労務のコスト、従業員のスキルなどを総合的に吟味しながら、メキシコでの「最適解」に基づいて生産方式を構築しているのだ。キットサプライ方式では、熟練度に配慮し1人が担当する部品点数も日本よりは少なくしている。

また、車体部品の溶接ではロボットではなく人手によるスポット溶接の工程も少なくなく、自動化率は「おおむね日本の四〇%程度」(江川社長)。これはコスト面の要素が大きい。もっとも、将来をにらんで車体溶接ラインには8車種の混流が可能な「セッター治具」と呼ぶ独自の位置決め装置などを導入済み。「グローバル戦略拠点」(山内会長)は、将来の車種展開や増産にフレキシブルに対応する能力も備えているのだ。

《池原照雄》

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