【土井正己のMove the World】エネルギー問題と人口爆発、日本企業に課せられた期待と使命

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ジェフリー・サックス教授(左)と筆者
  • ジェフリー・サックス教授(左)と筆者

今もってなお「モノづくり大国」であり続ける日本

今月より「Move the World」というタイトルでコラムを担当させていただくことになった。私がどういうキャリアかは、「プロフィール」にも記載したが、トヨタ自動車で31年間勤務し、先日卒業した。だが、トヨタだけを見てきたわけではない。自動車という窓を通して、「世界の動き」、「地域社会の動き」、「人々の動き」を見てきた。自動車というのは、3万個ものプロダクトから成り立っており、この動きを見るというのは経済全体を見るに等しい。そして、自動車工場ができれば、その国、その地域の社会に経済面、雇用面などで大きな影響を与える。ほとんどの国が国家政策として自動車産業を育成しようとしていることを考えれば、如何に自動車産業が経済・社会の発展に重要かということがわかる。

日本の自動車産業は、ブランド国別販売でみると「世界1位」である。つまり、トヨタや日産、ホンダなど「日本ブランド」のバッジをつけて走っているクルマの数を合わせ、国別にソートすると日本が30%強を占めて、1位だということだ。この巨大産業で1位ということは、日本はまだまだ「モノづくり大国」と言えるということである。この火は何としても絶やしてはならない。私は、日本自動車工業会の仕事もお手伝いしていたので、この想いは強い。

◆ジェフリー・サックス教授との対話

昨年12月は、ニューヨークに1か月間滞在した。この間、色々な識者と議論をしてきたが、特にコロンビア大学地球研究所所長のジェフリー・サックス教授との対話は、生涯忘れることのできない内容だった。サックス教授は、国連事務総長のアドバイザーも務められており、経済学をアカデミーの場だけでなく、社会発展のツールとして実践されてきた「現場叩き上げ経済学者」である。

彼は世界銀行のデータをもとに「世界の人口は、2050年までに4割増える。一人あたりGDPは4.5倍になり、今の新興国の所得レベルは米国並みになる。その時の世界GDP合計は現在の6.3倍になる」という。つまり、自動車の市場も6.3倍に拡大するということでもある。

しかし、ここで喜んではいけない。サックス教授はさらに「このGDPの増加は、アジアを中心に起きていく。そして都市に集中する」ということなのだ。つまり、都市化問題が2050年に向けて、どんどんと拡大していく。これには、公害問題、都市交通問題、水問題、スラム化問題(格差問題)や暴動など様々な問題が考えられる。中国のPM2.5の騒ぎは序の口で、これからこうした環境問題はアジア全域に拡大する。しかし、サックス教授は「これらの問題は対応可能と思う。人間は解決できる。最も重要なのは技術である。日本の技術に期待したい」と続けられた。

2050年に向けてのもう一つの大問題は「エネルギー」である。世界GDPが6.3倍になれば、エネルギー争奪戦となることは明らかである。

これからの世界経済、アジア経済の発展において、まさに、「日本の出番が来た」といってもよい。狭い国土と高い人口密度、産業発展と共に拡大した都市化問題を解決してきた経験が日本にはある。さらには二度のオイルショックを潜り抜け、世界最高レベルの省エネ技術が日本にはある。

現在、日本で「エネルギー問題」というと原発問題などサプライサイドの問題に傾注しがちであるが、本来はデマンドサイドを如何に効率化するか、もしくは平準化するかということとセットで議論されるべきだ。世界が日本に求めているのは、明らかにデマンドサイドの技術である。それは、自動車や住宅、道路を含めた「スマート都市交通システム」と言い換えることができる。その構築を前提として、そこに必要なエネルギー(蓄電などを含めたインフラ)を考えればよい。サックス教授にこうした考えや現在の日本の技術レベルについてお話したところ、大変興味深く聞いて下さった。

◆さあ、はじめよう!“Move the World”

世界で自動車を購入できる経済力を持つ地域は、まだ少数である。世界総人口の10分の1くらいであろう。自動車は人々や物を自由に動かすことができる「自由経済」、「自由社会」の象徴的な文明の利器である。50年後、100年後、間違いなく世界中に普及していく。 

ただし、それが社会の問題を作り出すものではなく、社会の持続的発展に寄与していなければならない。そこには、日本の技術が必要なのである。

2020年に開催される「東京オリンピック・パラリンピック」では、是非、日本の最先端技術を駆使して、「スマート都市交通システム」のデモンストレーションを世界の人たちにご披露頂きたいと思う。「Move the World」、日本の技術が世界を動かせる。社会や文化の発展に貢献できる。私はそういう想いでこのタイトルつけさせていただいた。これから、読者の皆様と一緒にこうした議論をこのページで展開していきたいと思う。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年のトヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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