いまや自動車ディーラーも個性の時代。特に昨年からトヨタが展開する“エリア86”は、新型スポーツカーである『86』の登場を機に、新たなビジネスモデルを探る場ともなっている。
このエリア86、ディーラーごとによって力の入れようはハッキリと異なっており、面白いことに地域を跨いで人気ディーラーになる…という現象が顕在化しつつある。
そんなエリア86の構成に力を入れて成功を収めつつある筆頭の事例が、ネッツトヨタスルガだ。同社はハイエンドカーオーディオメーカーであるソニックデザインなどとのコラボレーションを活用しながら、ユーザーとのコミュニティを構築している。
“エリア86”を魅力あるものに…ネッツトヨタスルガの取り組み
ネッツトヨタスルガでは沼津店のマスタースタッフである岡村学さんを中心に、全国で見ても個性的な展開がなされている。
おそらく皆さんも写真を見て真っ先に目に飛び込んで来たのではないか? トヨタ86にしてはちょっと異色とも思えるカスタマイズを施したモデルが。そう、これこそがあの「MOONEYES(ムーンアイズ)」とのコラボによって誕生した「ハチロクMOON」だ。
沼津店のエリア86マスタースタッフ、岡村学さんのアイデアを会社が承認し実現したこのモデルは、先頃名古屋で開催された「オートトレンド」をはじめとして、様々なショーに展示され大きな話題を呼んでいる。86のチューニングやカスタムは数々あれど、西海岸的な方向性を実現した点が異色だ。
そんなハチロクMOONには様々なパーツが取り付けられているが、中でもひと際異彩を放っているのがソニックデザインの86専用スピーカーパッケージ「ソニックプラス」である。そのソニックデザインだが、実はここネッツトヨタスルガとの関係は深く、数年来の歴史があるという。
◆ソニックデザインとの出会いは7年前
ネッツトヨタスルガ沼津店の店長、大里達哉さんは言う。
「きっかけは7年前です。アルファードのお客様から『ソニックデザインのスピーカーやってないのですか?』と問い合わせがあったのです。これを受けて直接ソニックデザインの佐藤社長に直接電話をしたところからお付き合いが始まりました。まずは先代ヴィッツが登場したときに、ソニックデザインの製品をうちのディーラーで展開するのは面白いのではないかと言う話になり、試乗車に全車装着してお客様に聞いてもらいました」
実際に現場でお客様に様々な提案をする立場である岡村さんも、「ハチロクMOONを作るときに、様々なパーツのメーカーさんとお話をしている中で、ソニックデザインさんにご協力いただきました。正直それまでは名前を聞いたことがある程度だったのですが、実際に製品の音を聞いて、聴き比べると違うなと」
◆ディーラーの堅いイメージを払拭
岡村さんは、「86が出るまでは、クルマを売ることが中心でしたが、86の担当となってからはカスタマイズのパーツも含めて、様々な提案する機会が多いのです」86の登場と、その豊富なカスタマイズパーツのラインナップは、営業のスタイルにも大きな変化を与えたと語る。
「ウチがソニックデザインを扱っていることがwebや口コミで広がっていて、他の地域からわざわざ聴きにこられる方もいますし、他店で86を買われた方がウチで取り付けを行うという方もいらっしゃるほどです。これは面白い現象で、今までなかったことですね。結果分かったことは、社外品を扱うことで集客につながるということです。やはりお客様はディーラーはカタいというイメージを持っているので、今回そういったイメージを払拭できたと思います」
◆作り手と売り手の実直な姿勢がもたらした口コミネットワーク
ソニックデザインはもともとハイエンドのカーオーディオを手がけており、そのノウハウと技術をよりリーズナブルな価格で提供したのが社外品として販売されている86専用の4スピーカーキットだ。6スピーカー装着車向けの専用パッケージ(「SP-862」)の販売価格は5万2000円(工賃別)と、専門店と変わらぬ品質のサウンドを生み出すにも関わらず安価という点に目がいくが、それ以上に革命的なのはエンクロージャーをノーマルスピーカー装着部分にそっくり交換で搭載できる点。また密閉性が高いため、耐久性がある上に音漏れも防げるなど、そのメリットは実に多岐に渡る。
しかし今回取材をして気がついたのは、そうした製品を送り出す以上に、ソニックデザインの佐藤敬守社長のビジョンが明確なこと。「ウチはカーオーディオ専業のメーカーです。ですからクルマならではのスピーカーを作りたいですし、そこから生まれた製品がクルマ好きに認知されて口コミで広がる…そんな風にイメージしています」。
こうした想いが優れた製品と相まって今、広がりを見せているのである。そうしてユーザーがわざわざ遠方から、ネッツトヨタスルガを訪ねてくるような面白い現象がおこっている。
優れた製品と実直な想いが、ひとつのムーブメントを起こしている。そう思うと、クルマはまだまだ捨てたものではないし、そこから派生するビジネスにはまだまだ大きな可能性があると思えるのである。