【ホンダ サ・ラ・ダCG FFV300 発表】ホンダの新型カセットガス式耕うん機の性能を試す

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女性でも楽々ドライブ。デファレンシャルギアをロックすればほぼ直進する。
  • 女性でも楽々ドライブ。デファレンシャルギアをロックすればほぼ直進する。
  • 正逆転ロータリーシステムは威力大。写真の土もかなり粘性が高いが、楽々と耕すことができた。
  • ホイールドライブでクルマへの積み込みも力いらず。

ホンダが2月13日に発売した小型耕うん機『サ・ラ・ダCG FFV300』。既存モデルの『サ・ラ・ダ FF300』のガソリンエンジンをLPガスエンジンに換装、コンロ用カセットガス1本を本体に装着することで最大150坪ほどの農地を耕せるというマシンだ。その性能を実際のフィールドで試す機会を得たのでリポートする。

粘性の高い土も高速で砕く「正逆転ロータリー」のパワーを実感

始動はメーンスイッチを入れてから紐を引っ張ってリコイルスターターを回すことで行う。排気量57cc単気筒エンジンを回すのに強い力は不要で、女性でも簡単に起動できそうに感じられた。アイドリング状態からギアを耕うん1速に入れ、把手型のスロットルを操作すると、自動遠心クラッチが接続状態となって土を撹拌(かくはん)する耕うんロータリーが回り出す。

ガスエンジンはガソリンエンジンに比べて2割がた出力が低いが、耕うん性能にそれほどの違いはないという。実際に畑を耕してみると、たちまち土が細かく砕かれ、空気を適切に含んだふわふわの土壌が形成されていく。定期的に作付けされ、土の状態が良い畑なら、高速運転の2速で十分に事足りそうに感じられた。

ホンダの小型耕うん機の技術的特徴のひとつに、耕うんロータリーのドライブ方式「正逆転ロータリーシステム」がある。向かい合わせになっている1対のロータリーの爪が、片方は前進方向に、もう一方は後退方向へと、飛行機の二重反転プロペラのように回るというもので、パテント供与も行われている独創的な機構だ。

耕うん中、ロータリーの勢いでマシンが前に引っ張られるようなことがなく、車輪の駆動力だけでじわじわと微速前進させることができた。また、耕地を掘り起こすだけでなく、もみほぐすような効果もあり、空気を適度に含んだ土を作る能力はかなり高いものだった。

水分の少ない土壌は問題なし。では水を含んでベタベタになっている赤土はどうか。粘土質を含む赤土は耕すのが結構大変なものだ。クワで耕す場合、刃を入れるたびに掘り返しに力はいるわ、刃に土がべっとりとくっついて振り落とすのは面倒だわ、土自体も10回同じ所をクワ入れしてもさっぱり砕けないわと、汗みどろの作業を強いられるところだ。

サ・ラ・ダCGがそんな赤土をどれだけのスピードで耕せるか。1速に入れ、前に走ろうとするコンバインの動きをバーを引っ張って抑制し、定点耕うんをやってみた。すると地面がまず破砕され、次第に赤土が小さな新じゃが程度の大きさになり、やがては作付け可能な土へと変貌していった。クワだと30分以上はかかるような面積の開墾作業が1分もかからずに終わるくらいの作業効率差で、農作業における機械化の圧倒的な威力を実感させられた。

プチ農ブームを後押しできるか

今日、退職後に都市部を離れて地方に住み、花や野菜の栽培を自家向けに行う“プチ農”を楽しむ人が増えている。別に本物の過疎地でなくとも、ちょっと都会から離れるだけで地価は劇的に安くなるため、100坪程度の自家菜園を持つのは、少し豊かな財力を持っている層にとっては容易なことだ。もともと草木の成長を見守ることは高揚感を覚えるもの。子供の頃に二十日大根やチューリップなどを植えたり、ヒヤシンスの水栽培を行ったりといった経験がある人なら、その面白みは十分に理解可能なところだろう。

サ・ラ・ダCGはそのような趣味的農園の作業に適していると思われた。カセットガスはガソリンに比べて燃料コストがやや高いが、入手性、保存性はガソリンより優れている。また、ガソリンエンジンは使わない時にキャブレターから燃料を抜いておかないと揮発成分がとんで調子が悪くなるが、ガスエンジンは長期間使わない時に特別なメンテナンスをする必要がない。この点も、耕うんを行うインターバルが長い趣味農園向きだ。

ライバルとなるのはクボタ、三菱農機、マキタ沼津(旧:富士ロビン)などの農機メーカーが発売しているカセットガス式、電動式の耕うん機だろう。ライバルモデルと比較してサ・ラ・ダCGが優れている点は、まず小排気量エンジンの採用による燃費の良さ。他メーカーの運転時間がカセットガス1本で概ね30分なのに対して、サ・ラ・ダCGは50分と60%以上長い。

正逆転ロータリーシステムとコンピュータシミュレーションを駆使して設計された爪形状のロータリーの合わせ技による耕うん能力の高さも魅力だ。また、前進3段、後退1段の細かい変速が可能で、速く移動させたいとき、スロープを使ってクルマにゆっくり積み込むとき等々、幅広いシチュエーションに対応した“走りの性能”を持っているのは、ライバルにない特色といえるだろう。短所を挙げるとすれば価格。税込の希望小売価格19万9500円はライバルの同等機に較べて2割以上高いことか。

農業の衰退にともなって農機の国内市場は冷え込むなか、家庭用耕うん機は唯一好調な分野だ。その小型機分野でトップシェアを持つホンダが新型機でどれだけ潜在需要を掘り起こせるか、お手並み拝見である。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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