【トップインタビュー】ホンダ 伊東孝紳社長、北米市場は大黒柱…NSX開発は「世界的視野で」

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ホンダ伊東孝紳社長
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  • ホンダ アーバンSUVコンセプト(デトロイトモーターショー13)
  • ホンダ伊東孝紳社長とアーバンSUVコンセプト(デトロイトモーターショー13)
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2017年3月までに世界販売600万台を掲げるホンダ。「大黒柱は北米」としながらも、『フィット』をベースとしたグローバルコンパクトシリーズを同時多発的に各国、各地域で積極的に生産・販売していくことで土台を固めて行く。

北米での部品の現地調達、現地生産にいち早く取り組んで来たホンダは、グローバルコンパクトシリーズの生産拠点としてメキシコ工場を選んだ。デトロイトモーターショー13の会場で伊東孝紳社長が、ホンダ生産現場の“現在と未来”を日本メディアに向けて語った。

----:日本市場では軽自動車の販売が好調で市場が活発化していますが、軽自動車に資産が傾いている状況について考え方をお聞かせ下さい。

伊東孝紳社長(以下敬称略):大変好評で良かったなと思っている。一方で登録車(の販売)が落ちているという実態がある。これから軽ももう少し増やしていくし、新しいフィットシリーズを投入することで(登録車も)堅調に伸ばしていける。過渡的に軽に力を入れていることでこのバランスを生んでいるが、早晩是正されて狙い通りの市場割合にともなった我々の販売台数になると思う。

本音で言えば軽が売れると財政的には苦しいが、それを乗り越えていける企業運営をしていかないと将来残っていけないと思っている。ここが頑張りどころ。ただ現場に「頑張れ」と言っているつもりはなく、もっと少人数でもっと一人ひとりが能力を発揮できる生産、開発現場であってほしいと思っている。

軽のビジネスは鈴鹿(製作所)に集中し、コンパクトに完結する組織運営のトライをしている。今のところ上手くいっており、これを成功例として他の開発や生産方面にも水平展開していきたい。軽でもなんとかやっていけるビジネススキームをホンダ全体に行き渡らせたいと考えている。

----:2017年度にグローバルで600万台という計画を発表されています。この中で北米拠点、市場の重要度は。

伊東:大きく言うと600万台のうち300万台が先進国、残りの300万台を新興国で売りたいという中で、先進国の300万台の大黒柱となるのは間違いなく北米市場。この柱をしっかりしないことには我々の事業計画の達成はない。『シビック』や『アコード』の力の入れ方を見てもらえればわかると思う。競合はもっと厳しくなるし、ここで手を抜くわけにはいかない。「絶対アメリカで伸ばすぞ」という意識がないと先進国方面で300万台には届かないと思っている。

ひとつひとつの商品が売れて行ってホンダはアメリカで成長してきた。これは先輩達が良い歴史を歩んできてくれたということ。コアな商品シリーズへの執着はものすごいあって、そのおかげで昨年はシビック、アコード、『CR-V』がそれぞれトップ10に入った。我々のビジネスのねらい通りに動いている。これからもこだわりは持ち続けたいと思っている。そこに今回新たにコンパクトSUV、フィット、さらにプラスアルファのメキシコ生産によってもうひとつの柱に育てたい。それが我々の北米での一番大きい源泉になると考えている。

----:今回のショーで発表したコンパクトSUVの意義とは。

スモールコンパクトシリーズにSUVを持つのは、ホンダに限らず自動車業界全体のトレンドであり、皆さんも驚くようなことではないと思う。世界的な自動車の売上げの中でSUVカテゴリーは伸びて行くという確信がある。コンパクトSUVは事業運営上、非常に大きな意味合いがある。先進国だけでなく新興国でも同様に時間差無く同じ傾向が進んでいくと思われるので、戦略的車両ととらえている。

----:6極経営を部品の調達にまで広げて行くということですが、メキシコ生産について、どれくらい現地化が進められそうか、それによるコスト低減の見通しについては。

伊東:アメリカの中で現地調達は決して遅れているわけではない。むしろ我々のグローバル運営の中では最も進んでいると言って良い。コンパクトシリーズは今まで輸入に頼っていた。そういう意味では、新しくメキシコに生産拠点を持って来るということは当然そこで現調率を大幅に上げないと、ないしは当たり前のごとく他の北米地域でやっている車種並みに一日も早く引き上げないと、商売ベースに乗らないということ。幸いメキシコは自動車業界の銀座のような状態になっていて、部品メーカーも潤沢にあるので、我々は順調に現調化が進んでいると見ている。

コンパクトシリーズの特異的な事象として、アメリカで伸ばすぞといいながらもアジアで大きい商売をしている。そちらで集中した生産をメキシコに持っていくという事も同時に動いているので、シビックやアコード、CR-Vであげている現調率ほどいかない可能性もある。それはビハインドではなく、グローバルに部品、リソースを運用するという進め方をしていると理解して頂きたい。

----:北米では生産が追いつかない状況と聞いています。輸出拠点としての北米についてどのように考えているのでしょうか。

伊東:(アメリカからの輸出は)「勘弁して」というのが本音だが、ホンダグループとしてのノルマであるとお願いしている。グローバル運営の中で、各地域での生産、販売は自立してくださいと、社長就任以来ずっと言っている。例えば日本は日本の中で100万台やるぞと言って自立しようとしている。日本の中で沢山売れるのはやはりスモールカー。合理性で言えば、北米で売っているアコードクラスを日本で量産することは現実的にありえない。かつては韓国や中近東にしても、日本で生産、輸出してまかなってきた。(今は)アメリカで沢山作っているんだからアメリカでやればいい。原資を利用する形でお願いをしている。日本は得意領域であるスモールカーをやっていく、というように地域ごとのコア商品を他の地域に融通するというグローバルの相関関係を築こうとしている。象徴的なのがアコードを中心とした北米からの輸出だ。

基本的に地域で売る商品の8割くらいは自局内でやる、残り2割でグローバルに貢献してくれというイメージでやっている。日本の円高状態のように、急に為替が変動し輸出しても元が取れないということもあり得る。そうなると事業上、輸出を止めようとなる。生産能力に対し8割程度が事業的に安定運営できる目安でもある。単体の事業運営では7割に減算してもやっていける体力をいつも持ち続ける、というコンセンサスはあるが、さらに1割上乗せした8割というのがラフなイメージとしてある。

----:北米での生産についてはかなり進んでいると思うが、デザインや開発を全て北米に移管するということはあり得るのでしょうか。

伊東:北米の開発能力はかなりの実力を持っている。例えば『オデッセイ』(北米専用車)は、コンセプトからデザイン、生産まで全部北米でやっている。アコードは、エンジンやプラットフォームが変わった場合はまず日本から、商品に近づくにしたがって北米に移管するというステップを踏んでいるが、開発現場の負荷に応じてケース・バイ・ケース。アキュラ『TL』は、全てを北米でやるというのを10年続けているし、基本は地域固有の商品はコンセプト段階からデザイン、生産まで全てその地域でやろうと動いているが、北米はすでにそのステージに入っている。アジアにおいてもタイで発表した小型車『ブリオ』も始めは日本でやったが、セダン、MPVは完全に現地でやっている。

ハイブリッドも生産が増えれば(移管することも)もちろん考えている。その地域でどのくらいの販売が見込めるかによるもので、複雑な話ではない。ただ現地調達は簡単ではない。バッテリーはどこの会社でもできるという代物ではない。EV用はともかく、ハイブリッド用というのは同じバッテリーでも充放電の特性や期待値が全く違う。そこをやっている会社はあまりない。ただ将来的には可能性はある。あとは量の問題だろう。

NSXの開発も途中から北米に移管してやっているが、ネガは感じていない。メイン市場である北米でその商品が熟成されていくことは、先代NSX同様に順調にステップを踏んで行っていることだし、現場も積極的に捉えている。日本のメディアや現場からは寂しいという声も聴こえるが、「いいじゃないか、世界的視野で考えようよ」という気持ちでやっている。

《宮崎壮人》

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