【池原照雄の単眼複眼】脱原発に票を求める悲惨な選挙戦

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大飯原子力発電所
  • 大飯原子力発電所
  • 大飯原子力発電所、原子力安全・保安院による調査の様子

夏を乗り切ったので脱原発は可能?

衆院選が迫り、最大の有権者勢力ともいえる「無党派層」の困惑は深い。にわか政党の乱立もあって投票すべき候補者や政党を決めるのは容易でないのだ。筆者は自動車産業など製造業が日本でのモノづくりを維持するためにと、1票を投じることにしているが、それも難しい。まず、「エネルギー」と「交易条件」という2つのテーマで消去法的に政党を絞り込んでいくしかないという考えに至っている。

エネルギーとは、東京電力の福島第1原子力発電所の事故によって揺らぐ安定供給の立て直しであり、交易条件とはTPP(環太平洋経済連携協定)への参加である。この2つのテーマは、日本の製造業が置かれている「6重苦」の構成因子でもある。

エネルギーでは脱原発が票になると安直に判断した政党が実に多い。衆院の解散後に発足した即席政党は、卒原発という表現でそれを前面に打ち出している。今年の夏は関西電力大飯原発の2基による稼働だけで乗り切ったので、すぐにでも脱原発は可能という主張も多くの政党首脳が訴える。

コストも環境負荷も無視したやりくり

短絡極まりない思考に耳を疑う。実情は休止していた老朽の火力発電所などを総動員し、ユーザーの需要抑制協力と電力会社間の融通で何とか凌いできた。コストは無視、CO2の排出増といった環境負荷にも目をつぶったうえでのやりくりだ。冬に需要のピークが来る北海道は、今そうした厳しいやりくりの季節に入った。

原発停止のコストは電力会社に重くのしかかり、今期(2013年3月期)の業績は原発を保有しない沖縄電力を除く9社がすべて赤字になる見込みだ。原発への依存が高い電力は、過去最悪の赤字決算となる。勢いユーザーへのコスト転嫁が相次ぐ。9月に料金を値上げした東京電力に続いて、関西電力、九州電力も11月に政府に値上げを申請。年が明けると、東北、四国、北海道の電力各社も申請に動く。

雇用喪失の社会実験をやるのか

役員や従業員が高禄をはんできた電力の高コスト体質の是正は当然だが、遺憾ながらエネルギー産業の中核を担う企業の赤字体質を放置すれば、経済の停滞や国民生活への影響は避けられないのが現実だ。今のままの状況が続くと電気料金の値上げは1回や2回では終わらず、製造業の海外移転の加速、雇用の喪失へとつながるのは火を見るより明らかだ。

現時点での事故の教訓を総動員して、新たに原子炉の暴走を多重に防ぐ手立てのできたものから動かしていく。そのうえで、日本は原発をどうしていくのかを考えていくことだろう。製造業が超円高による空洞化と待ったなしの闘いをしている折に、更なる電力コストの上昇という雇用喪失をもたらす“社会実験”を行うべきではない。

無責任なのは、脱原発を掲げる政党のいずれもが、どのように原発のないエネルギー社会を築くのかという肝腎の道筋を明快には示していないことだ。その能力すらもない政党が、ひたすら有権者の情緒に訴えるという、悲惨な政治レベルを露呈させた選挙戦を演出している。

《池原照雄》

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