【トヨタ安全技術12】トヨタ東富士研究所、高度道路交通システム(ITS)実験場の存在価値とは

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トヨタ東富士研究所内に設けられた高度道路交通システム(ITS)実験場
  • トヨタ東富士研究所内に設けられた高度道路交通システム(ITS)実験場
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トヨタ自動車はマスメディア、ジャーナリストを対象に行なった安全技術説明会で、東富士研究所内に建設した高度道路交通システム(ITS)の“実験場”を公開した。

テストコースといえば高速周回路、ワインディングロード、悪路などが連想されるが、次世代交通システムのコースは既存のテストコースのような特別感のあるものではなく、ごくありふれた狭い市街路を模したものだ。複数の交差点に信号、横断歩道などが設置され、敷地にバリアを任意に作ることで、いろいろなパターンの死角を持つ町並みを再現できるのだ。

その試験路で、クルマと道路が情報を交換しあう路車間通信、クルマ同士が車両情報をやりとりする車車間通信を統合した高度道路交通システム(ITS)の試作装置を搭載した実験車両を運転してみた。

交差点での右折。対向車線には右折しようとしている商用車が停まっており、先を見通すことができない。普段なら少しずつ前方にクルマの鼻先を出して右折実行の意思表示を出しつつ、首を伸ばして死角の向こう側を必死にのぞき込むといった、緊張を強いられるシーンだ。が、では死角になって全く視認できない直進車が来るというアラートが出され、危険な状態に陥ることはなかった。

右折における罠は対向車ばかりではない。横断歩道の歩行者、自転車に注意力が及ばないということも、意外によくある事態だ。ただでさえ斜め前はAピラーの死角に入りやすいうえ、対向車の切れ目を見てこれ幸いと急いで発進しがちなこともあって、歩行者をはねてしまうという事故は結構多い。スピードの速い自転車相手ではさらにリスクは大きい。

ITSでは、そんな歩行者の存在もクルマに伝えてくれる。路車間通信によって、曲がった先に歩行者がいますよというアラートを出してくれたため、対向車の通過後に慌てて発進するようなこともなかった。

車車間通信では、死角のきつい路地から大通りに出る際の出会い頭衝突防止を想定したレイアウトが組まれていた。交差点右側には建物を模したバリアが設けられ、右側から進行してくるクルマはまったく見えない。交差点右折と同様、鼻先を少しずつ出しつつ、右方向が見えるところまで進まなければならないが、試験路では車車間通信により、接近車両を目視なしですぐに認識できた。

俗にプラチナバンドと呼ばれる700メガヘルツ帯の電波を使った豪華なITSだが、これらはもちろん完成形ではない。ITSを既存の交通システムにインストールしていく段階では対応車、非対応車が混在するという状況が長年にわたって続くことは避けられない。とりわけ車車間通信については、完全普及がシステムの信頼性の前提であるが、それは相当先のことになるだろう。現時点では莫大な費用をかけてインフラ整備をするより、交差点に死角を映すカーブミラーか何かをつけたほうがずっと効果的という有様である。

にもかかわらずトヨタがこうした大掛かりなITS試験路を建設したのは、フィールドでの経験を積み重ねることで提言力を高め、世界各国の政府や自動車業界団体と協調していく必要があるITSの研究開発や実用化において、リーダーシップを取っていきたいと考えているからだ。半世紀単位の長い取り組みになるであろうITSに対するトヨタの取り組み姿勢が垣間みられる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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