トヨタ自動車が2012年1月にリリースしたプラグインハイブリッドカー(PHV)『プリウスPHV』。
ハイブリッドカー(HV)『プリウス』のバッテリーを、外部電源からの充電が可能な大容量リチウムイオン電池パックに換装し、短距離であれば電気自動車(EV)として使用可能なことから、石油エネルギー依存からの脱却をめざす次世代エコカーとして関心を集めている。
加えて充電が可能であるというだけでなく、通常のハイブリッド走行時にノーマルプリウスとどう違うかという点も大いに興味がわくところ。プリウスPHVの商品化に深く関わった製品規格本部の金子将一主査に話を聞いた。(インタビュアー:ジャーナリスト井元康一郎、レスポンス編集長三浦和也)
市販車として適切な装備、価格を設定
井元:プリウスPHVのリース販売開始(2009年12月)から2年あまり、ようやく本格的な市販がスタートしました。かなり長い時間がかかったようですが、技術的な課題が多かったのでしょうか。
金子氏(以下敬称略):いえ、プリウスでエネルギーマネジメントの技術的なノウハウは相当蓄積されていましたから、ハードウェアづくりそのものが難しかったということはありませんでした。むしろ予想外に難航したのは、ノーマルのプリウスよりずっと価格が高いプリウスPHVを、ユーザーの皆様に喜んでもらえるようなクルマにするにはどうすればいいかという、具体的な商品づくりのほうでした。
井元:リースモデルとの大きな違いとして思い浮かぶのは、リチウムイオン電池のセルがパナソニック製のニッケル酸タイプから三洋電機製の三元系(ニッケル-マンガン-コバルト酸)になり、バッテリーパックも小型化されたことですが、それ以外に難しいことがあったのでしょうか。
金子:市販モデルはスペックさえ良ければいいというわけではありません。PHVといえども、市販する以上は量販にふさわしいグレード体系、装備を考えたりといった、通常のモデルと同じようなプロセスが必要でしたので、特にそういったところへ注力しました。
三浦:金子氏はいつごろ開発チームに。
金子:私がチームに加わったのは2010年夏でした。私はそれまで『アヴェンシス・バーソ』(日本名:『イプサム』)やグローバル版『カローラ』、『レクサスCT』などの製品化に関わっていたので、その経験を生かして市販に向けた仕様書を作り、生産部門やサプライヤーさんと交渉し、試作の手配を行いました。
三浦:経営陣はもともと「300万円を切る価格で(プリウスPHVを)市場にリリースしたい」とアナウンスしていましたが、少し高くなりましたね。
金子:装備も含め、300万円のクルマを作るつもりで策定してたのですが、スマホを通じて電池残量や充電スポットなどの情報を得られる新しいカーテレマティクスの「PHVドライブサポート」を3年間無料でつけたり、リチウムイオン電池のリサイクル費用なども加味して、今回の320万円からという価格に落ち着きました。EVとしても通常のクルマとしても使える、まさに次世代のクルマであるという価値をご理解いただけるものと思っています。
“電費”と燃費の情報を開示
三浦:私もプリウスPHVのオーナーのひとりですが、ユーザーとしてとても面白かったのは、インターフェースで燃料を何リットル、電力を何kWh使ったかというのが全部わかるということ。
三浦:プリウスPHVが納車されてから今回の取材の前まで、トータルで1874km走りましたが、そのうちEV走行が27%相当の520km。電気代は最も高い24円/kWhで計算して2337円、その場合1kmあたりの走行コストは約4.3円になりました。ハイブリッド走行は73%の1344kmで、その際の燃費は21km/リットル。レスポンスが運用している燃費サイト『e燃費』でのノーマルプリウスを上回るスコアでした。その間に払ったガソリン代は約9600円で、1kmあたりの走行コストは約7.6円。クルマのエネルギーに関する情報がここまで詳細に表示されるようになったことは、エコドライブをより楽しいものにするのに役立っていると思いました。
金子:電力につきましては、充電時などにロスが10〜15%あるため、本来のコストは少し高くなるでしょうね。EV・HV走行時の数値を可視化し、それを元にコストが算出できるのは、これまでのHVにはないプリウスPHV大きな特徴のひとつです。また、実走行でのハイブリッド燃費が良いということは、開発に関わった者としてはとても喜ばしいです。EV走行時にゼロエミッション(排出ガスなし)で走行できても、ハイブリッド走行時にノーマルより燃費が悪いのでは、PHEVの意味がないと思って頑張っていましたから。大容量リチウムイオン電池の回生受け入れ性が高いことがモード外燃費の良さの一因になっていると考えられます。
(つづく)