【トヨタ アクア 試乗】最良のハイブリッドは“最新”のハイブリッドだ…桂伸一

試乗記 国産車
トヨタ・アクア
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遂にトヨタのハイブリッド技術はコンパクトクラスにまで降りて来た。『アクア』を前に、デザインは砲弾型に見せるサイドビューとリヤハッチのデザインが斬新。カタチは好みによるが、それよりも、そのあまりにも自然な走行性能に驚き、感動した。

どういう意味か? 普通のガソリンエンジン車に乗る感覚と何も変わらずに走行できるのだ。赤信号で停止する。気が付けばエンジンが停止している無音状態。ま、これはアイドルストップ機能が付くガソリン車ならば得られる状況。青信号に変わりアクセルに足を軽く乗せると無音、いやモーター音のみでスタートした瞬間に「ああ、ハイブリッドだったんだ!!」となる。ブレーキを踏んだ時の減速の自然な立ち上がり。ペダルの操作量と減速感が正確にリンクする。ハイブリッドを知るヒトならその自然な感覚がどれほど難しいことかがわかるハズ。そこをアクアは見事に克服して見せた。

ハイブリッドといえば『プリウス』だから、比較対象もそうなる。アクアは何が違うか。「軽快感」である。試乗車は車検証によると1110kg。トヨタハイブリッド史上最も軽量な仕上がりだ。そこに型式こそ初代〜2代目プリウスと同じだがブロックを含め70%が新設の1.5リットルエンジン(74ps/11.3kgm)+モーター(61ps/17.2kgm)による新しいコンパクトなハイブリッドユニット(THS2)を搭載。絶対的な加速力では、300ccの排気量差+300kgの車重差を考慮してもプリウスに軍配は上がる。でもアクアの良さは、エンジンがかかろうが停止しようが、モーターのみだけでもスルスルと流れるように街なかを進む軽快さにある。

インテリアはポップな色使いのなかで、基本をしっかりと押さ込んでいる。アップライトなドラポジから小柄なドライバーにも優れた視界を確保。シートはレールを含めたガタの少ない剛性感の高さがドイツ車的である。後席は3名分の3点ベルトが用意され、落とし込んだ座面と背もたれの角度が良く、実に自然な姿勢がとれて長距離走行も問題ない。

唯一残念なのは、もはやスイッチだけでもいいはずのシフトレバーが、ニョキッと生えていること。「ハイブリッドだからこそ先進的にすべき」という意見と「普通のクルマからの乗り換えで違和感を持たせたくない」というトヨタ社内でふたつの意見に分かれた。後者を採用したが、個人的にはハイブリッドだから、しかもエントリークラスまで降りた今だからこそシフトレバーのあり方を変える最大のチャンスだったと思う。

街乗りでは「S」の15インチタイヤに乗り味の良さがあり、高速に行くと直進性の高さにはプリウス(現行初期型)以上の安定感がある。特にリヤがどっしりと構えた安定感があるから、大型トラックを抜き去る時の横風や旋回中もリヤの落ち着きに助けられる。フロントもやはり轍など外乱の影響を受けにくいビシッと直進状態を保つ。だからステアリングに手を添えて保舵すれば直進状態を維持することは安楽。

ただ安定性が高いだけではない。直進状態から切り始めると、応答性は思いのほか鋭い。安定したリヤがあるからこそフロントの自由度を高めたともいえる。15インチタイヤでもなかなかシャープなハンドリングを示すが、「G」の16インチは“スポーツ仕様”だと思えば納得だが、そこまで“鋭くなくても”と個人的には思う。そこは「G's」の領域ではないだろうか…。

操縦安定性とエンジンとモーターの協調制御の自然さに、ブレーキ操作フィールの洗練の度合には拍手モノである。長年プリウスで評価、あるいは酷評された部分を、初代プリウスからハイブリッドを担当する小木曽さんだからこそ、重箱の隅を突つくような細かな意見にも対応し、最良のハイブリッドカー、アクアが誕生した。

追伸、ステアリングやハイブリッドの協調制御、自然なブレーキフィールはすべてマイナーチェンジしたプリウスに盛り込まれていた。しかも最大のネックであるリヤからの突き上げによる乗り味の悪さ、安っぽいドアの開閉感と共振もものの見事に抑え込まれた。現行プリウスの初期型オーナーとしては悩ましい限りであります。

■5つ星評価
パッケージ:★★★★★
インテリア:★★★★ 
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
お薦め:★★★★★

桂伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてリポーター活動を開始。幼年期からの憧れだったレース活動を編集部時代に始め、「乗れて」「書ける」はもちろんのこと、読者の目線で見た誰にでもわかりやすいレポートを心掛けている。レーシングドライバーとしての戦績は、アストンマーティン・ワークスからニュルブルクリンク24時間レースに参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。10年は…!? レース直前にスポンサー絡みのドライバーに割り込まれて不参加。世知辛い世の中であります。

《桂伸一》

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