イタリアで新道路交通法いよいよ始まる |
イタリアでは2011年2月9日から、初心期間の運転者は高出力の自動車を運転できなくなる。
これは改正されるイタリア道路交通法によるものだ。普通免許である「カテゴリーB」において、初心運転者期間の1年間は 最高出力55kW(約73HP)を超える自動車を運転できなくなる。
定員9人までの車を運転できる「カテゴリーM1」の初心運転者も、70kWを越える車両は最初の1年間運転できなくなる。
さらに初心者には速度制限も課せられることになる。現在イタリアの制限速度は原則として高速道路が130km/h、主要一般道が110km/hだ。これに対し、カテゴリーBの新規免許取得者は、高速道路で100km/h、一般道路で90km/h以上を出すことが取得後3年間にわたって禁止される。
違反した場合は、148〜594ユーロ(約1万6000〜6万5000円)の反則金や、2〜8か月の免許停止が課せられる。2月9日以降に当該の運転免許を取得した者に適用される。
法改正の最大の目的は、若者の交通事故を減らすことである。イタリア自動車クラブ(ACI)とイタリア中央統計局の調査によると、09年に交通事故で死亡・負傷したドライバー21万人のうち、15〜24歳は約4万7000人に及ぶ。また、若者が遊びに繰り出すことが多い土曜夜の事故件数は、日〜木曜夜の4倍以上に達し、大きな社会問題となっている。06年5月にはブレシア郊外で、免許取りたての18歳の若者がマセラティでスピードを出しすぎて衝突。同乗していた友人2人とともに死亡する事故があった。
「55kW以下」をイタリアの現行市販車ラインナップで確認すると“アウト”“セーフ”の車がわかってくる。
フィアットだと、『パンダ』と、現在も継続販売されている2代目『プント』が全車OK。『500』や『グランデプント/プントEVO』が一部セーフといった具合だ。
イタリア市場で若者に人気で、フィアット・プントシリーズ/パンダに次いで月間登録第3位をたびたび記録するフォード『フィエスタ』も、1.2リットルのベーシック仕様なら44kWなので運転可能である。
韓国車は得だ。キア『ピカント』、シボレー『マティス』など、従来の売れ筋車種であるシティーカーの大半は55kW以下だからである。
トヨタの場合は最廉価の『アイゴ』が全車OK、『iQ』と『ヤリス』(日本名『ヴィッツ』)が一部セーフといった具合だ。いっぽう、ホンダは最も小さい『ジャズ』(日本名『フィット』)でさえ66kWでアウトとなってしまう。
惜しいのはアルファロメオの『MiTo』だ。「1.4 78CV」バージョンの出力は58kWである。発売当初に法改正をある程度見越して設定されたといわれるが、3kWオーバーになってしまった。今後何らかのフォローが行なわれるのだろうか。
ところで、この55kW規制を、当のイタリア人はといえば意外に冷静に受け止めている。ある業界関係者は筆者の質問に対し、人々が冷静な理由を「そう長続きしそうな法律ではないから」と分析した。
実は過去にもイタリアでは類似の法律が制定されたことがあるが、自動車販売に影響するとした業界の圧力で廃止されている。今回の改正も、もともとは07年に施行されるはずだったが、たびたび延長されての実現だった。今回の法改正も、早いうちに改正されるのではないか、というわけだ。
ちなみに1970年代のイタリア道交法では、21歳以下と同時に、65歳以上も最高速180km/hを越える自動車を運転できなくなってしまった。そのため当時は、かのエンツォ・フェラーリもやむなくフィアットのファミリーカー『132』に乗っていたという。
大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』 |