スペイン政府系機関とフィアットの出資により1950年に発足した自動車メーカー・セアトは、78年になると大幅な赤字に転落した。82年にフィアットはセアト株を売却してしまう。そうしたなかでセアトは、フォルクスワーゲングループ(VW)との関係を模索していた。
86年、VWはスペイン政府の承認を得て、51%のセアト株を取得。後年その比率を徐々に高めてゆき、のちの1999年には99.9%を保有するに至った。
その間にもVWは、VW/アウディのプラットフォームを活用した積極的な新セアトの開発を進め、欧州各国への市場進出を図り続けた。デザイン面では、アルファロメオで『156』や『147』を手がけたあとセアトにやってきたウォルター・デシルバ(現VWデザインディレクター)の功績も大きい。
かくしてセアトは、「フィアットの格安版」から、独自のキャラクターをもった若々しい一ブランドへと変貌を遂げるのに成功した。
事実、筆者の経験でも、1990年代後半まで欧州各国のドライバーの間では、セアトといえば初代フィアット『パンダ』をベースにした『マルベーリャ』を思い浮かべる人が多かった。いっぽう、今日は「Auto emocion(自動車、感動)」をキャッチにしたVWの商品&イメージ戦略が功を奏し、セアトは欧州の若者にとって車を選ぶ際の一選択肢となっている。
しかし近年は、経済危機によるVWグループの業績低迷から、「セアトを売却するのではないか」との憶測報道もなされるようになっているのも事実だ。そのたびVWは否定してきたが、具体的な売却先として中国メーカーを挙げるメディアもある。
セアトの未来は、現在いささか持て余し気味ともいえる量のブランドを抱えるドイツ系メーカーが、今後どのように選択と集中を図るかを見極めるうえでも、格好の事例となろう。