ホンダの新世代エコカー戦略第1弾となるハイブリッドカー、新型『インサイト』。その開発において、快適性を左右するNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス=騒音、振動、突き上げ)の低減にはとくにこだわったという。
キャビンに透過してきた騒音が打ち消されるような音響設計を徹底的に煮詰め、遮音材に頼らない静粛性向上を目指したのが特徴だが、ノイズの侵入そのものをカットする必要があると判断された部分には、あえて上級車種に使われるような部品、素材をおごったという。
「フロントウインドウには、UV(紫外線)、IR(赤外線)、遮音の機能を持つガラスを使用しました。これは国産のなかでも高級車のみに使われるスペックのものです。断熱では真夏におけるインパネ上の温度が普通のガラスに比べて10度くらい低くなるという実験結果が出ましたし、騒音低減効果もかなり高いです」
こう語るのは、本田技術研究所で長年、NVHを担当してきた大萱真吾氏。
「ガラスだけではありません。エンジンルームからの透過音を低減させるための遮音材には、塩化ビニールで高密度のウレタンを挟み込んだ構造のものを採用しました」
インサイトの1.3リットルエンジンは、効率を高めるため混合気が一気に燃える急速燃焼マネジメントを徹底追求したもの。燃費向上に効く一方、燃焼が激しいためノイズ面では不利になるという両刃の剣だ。
「騒音を低減させるためのこの部材は、スイスのリエター社が開発したもので、日本車ではごく一部の高級車に採用例があるだけ。われわれはそれを大衆車のインサイトにあえて採用しました。実は最上級モデルの『レジェンド』でも使われてないのですが…」
また、ルーフやドア、また熱を持ちやすいハイブリッドユニットまわりには、米3M社が考案した軽量な遮音断熱材「シンサレート」を、現在考え得る最良の素材チューニングを施したうえで採用したという。
「シンサレートは軽くて遮音性に優れるだけでなく、断熱材としても優秀。ルーフにこのシンサレートを使用することで、太陽熱の遮断率もかなり向上しました。これは10・15モード燃費には反映されませんが、実用燃費の向上にはかなり寄与すると思います」(大萱氏)
低価格ハイブリッドという側面がクローズアップされがちなインサイトだが、快適性確保など、クルマの質的な部分の向上に、相当の努力が払われているのは注目されるポイントだろう。