トヨタの新型コンパクトカー『iQ』。世界のユーザーの耳目をもっとも集めそうなのは、4人乗りのガソリンモデルでありながら、EU混合モードで1kmあたり99gという超低CO2排出量を実現するという環境性能の高さだろう。
今日、欧州では“アンダー100gカー”がクルマの環境性能のキーワードのひとつになっている。
イギリスでCO2排出量が100g/km以下のクルマは自動車税が非課税、大量に排出するクルマには重税とかなりメリハリの利いた自動車税システムが採用されているのをはじめ、自動車税の主流はすでにCO2課税となっている。
iQは4人乗りガソリン量産車としては、アンダー100g一番乗りとなる可能性が大だが、面白いのはこの環境性能を、これといった“飛び道具”なしに達成していることだ。
エンジンは新開発だが、特殊なスペックのものではなくほかのモデルにも搭載予定の量産エンジン。ほかの環境対応車では当たり前の装備になりつつあるアイドリングストップ装置すら持たないのである。
高い環境性能を実現するため、エンジン・トランスミッションのチューニングをはじめ、駆動系のフリクションロスの徹底削減、車体の軽量化、空力特性の向上など、クルマの基本性能を徹底的に磨いたと、中嶋裕樹チーフエンジニアは語る。
「もっとも苦労したもののひとつが空力でした。全長の短いクルマ、とりわけボンネット先端が短いクルマは空力的には不利なのですが、低CO2性能を追求するため、どういう空力チューンが可能なのか、さまざまなパターンを試しました」
今日、クルマのデザインはCATIAなどコンピュータ上のシミュレーションを多用しておこなわれる。空力も同様だが、iQのように前例があまりない空力デザインになると、計算のベースとなるデータ自体が存在しないため、細部の最適値までコンピュータが自動的に計算してくれるわけではない。
「空力設計の前提として、ボンネットからボディ側面ではなく、なるべくボディ上面に空気を流してやったほうがいいことはわかっていました。しかし、ボンネットが短いと、普通にデザインしているだけではどうしてもタイヤハウスのほうに空気がたくさん流れてしまう。そこで、バンパーの両端にパッド形状の膨らみをつけて、空気を整流してやったらどうかと考えたのです」
実際に試してみると、大きな空力改善効果を得られたという。そこでさらに空力を改善するべき、フロント以外のボディ各部にも空力パーツを設けることにしたという。リアバンパーのフィレット状の膨らみやリアクォーターウインド部に装着されたガーニッシュも、飾りではなくボディをなめる気流の整流効果を狙ったものだ。
「空力をはじめ、iQを作ってみて初めてわかったことはたくさんありました。その中には、コンパクトカーに限定されない、すべてのクルマに適用可能なものも少なからずありました。iQ開発で得られたノウハウは、トヨタのクルマ作りをさらに進化させると思います」