【神尾寿のアンプラグド特別編】“地域のインフラ”になる交通IC。nimocaへの期待

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街を変える公共交通事業者の交通ICインフラ

JR東日本の「Suica」を嚆矢に、急速に拡大するのが、公共交通のIC乗車券/電子マネーインフラだ。これはソニーの非接触IC「FeliCa(フェリカ)」を基盤技術として使い、公共交通分野での利用では日本鉄道サイバネティクス協議会の定めた規格(通称、サイバネ規格)に基づいて開発・導入されている。

首都圏では昨年、JR東日本のSuicaと、私鉄・バス・地下鉄の共通ICシステム「PASMO」の相互連携が始まり、利便性が向上。公共交通でのIC利用率が2倍以上に跳ね上がったほか、電子マネーの利用も急増。4月23日には、東日本旅客鉄道(JR東日本)とPASMO協議会が、Suica / PASMOの電子マネー利用件数が1日あたり100万件を突破したと発表した。Suica / PASMOは公共交通を軸に、「東京を支えるインフラ」にまで成長した。

一方、関西ではJR西日本の「ICOCA」と、スルッとKANSAIの「PiTaPa」が着実に成長。こちらもIC乗車券のみならず、電子マネーサービスでも加盟店が急増、利用率も拡大している。

公共交通事業者の交通ICインフラが、街を変える。この波は首都圏と関西から全国に広がり始めている。その象徴的な例になりそうなのが、九州・福岡における交通ICインフラの構築だ。今年5月18日には、その第1弾として、西日本鉄道(以降、西鉄)の「nimoca」がスタートする。

◆当初から大規模連携が予定されているnimoca

西日本鉄道は福岡を中心に鉄道・バス路線を持つ九州最大の民間鉄道会社である。特にバスの所有台数は多く、グループ全体で約3000台に及ぶ。鉄道・バスをあわせた輸送人員数は1日あたり約105万人で、文字通り“福岡県民の足”を担う公共交通事業者だ。

西鉄は商業や不動産業の面でも、福岡経済の重鎮になっている。同社は福岡経済の中心地である天神に大規模な商業施設を複数所有し、この天神を軸として流通小売業や不動産業を営んでいる。

この西鉄が、5月18日にスタートする交通ICカードが「nimoca」である。首都圏のSuica / PASMOと同じく、基盤技術にFeliCaを使い、サイバネ規格に準拠。プリペイド(前払い)方式が基本となり、会員登録不要の「nimoca」、ポイント機能がついた会員登録制の「スターnimoca」、そしてクレジットカード機能と一体化した「クレジットnimoca」の3種類が用意される。

さらにnimocaでは、他社との連携・相互利用化が当初から考えられている。今年2月に、西日本鉄道と、九州旅客鉄道(JR九州)、福岡市交通局、東日本旅客鉄道(JR東日本)が共同で「九州IC乗車券・電子マネー相互利用に関する協議会」を発足。今回スタートするnimocaは、2009年に導入されるJR九州「SUGOCA」、福岡市交通局の「はやかけん」、そしてすでに首都圏で普及しているJR東日本の「Suica」と、2010年から交通IC/電子マネーの相互利用が実現する計画だ。

nimocaから始まる福岡・東京の交通IC連携のスキームは、両都市の公共交通や電子マネーの利便性を高くし、インフラ価値を向上させる。首都圏のSuica / PASMOがそうであったように、駅周辺を中心に地域経済における波及効果は極めて高いと言えるだろう。

◆ローソンも“地域密着”。地域通貨になる交通IC電子マネー

一方、nimoca電子マネーは、サービス開始時、加盟店514店でスタート。その後、福岡を中心に拡大していく模様だ。加盟店の中には西鉄グループや地元流通小売り業者だけでなく、全国チェーンも含まれている。

全国チェーンの中でも、象徴的な取り組みを見せるのがコンビニエンスストアのローソンだ。同社は福岡市内4店舗を皮切りに、今年9月までに50店舗のローソンをnimoca電子マネーに対応させる方針を打ち出している。

「コンビニも全国均一の時代ではなくなった。地域密着企業との連携で差別化を図っていきます。来年度のシステム改修を機に、九州全域のローソンでnimoca電子マネー対応を視野に入れています」(ローソン代表取締役社長兼CEOの新浪剛史氏)

Suica / PASMOを筆頭とする交通系の電子マネーは、ベースが電車・バスなど公共交通用のICカードであるため、“公共交通事業者の営業エリア以外に拡がらない”という弱点があった。しかし、その一方で、駅や路線網周辺での電子マネー利用率は、全国展開をする他の電子マネーよりも圧倒的に高い。

昨今では、都市部を中心に「クルマから公共交通へ」の移動手段のシフトが加速しているが、その流れの中で交通系電子マネーの存在感は強くなってきている。近い将来、これら交通系電子マネーやそれに連携するポイントプログラムが、一種の“地域通貨”として地域経済で重要な役割を果たすようになる可能性は十分に考えられる。

◆地方都市代表の福岡が、交通ICでどう変わるか

交通IC/電子マネーは、公共交通の利用促進と、駅周辺および街中経済の活性化に大きな効果がある。さらに交通ICをベースにした様々な付加価値サービスや連携サービスが生まれる素地になるなど、新ビジネスの創出効果も大きい。これは東京や大阪など、公共交通のIC化で先行した地域に共通して見られた「効果」である。

一方で、日本の地方は、地方都市も含めて“クルマ依存社会”であるとよく言われる。「地方ではクルマがなければ生活できない」という言葉にあるように、街の作りから経済圏までクルマ中心になっている。これはモータリゼーション以降、“クルマと道路”を最優先し、徒歩と公共交通を軽んじた結果に生み出された風景であり、現実だ。

しかし、その地方でも、IC化をきっかけに“公共交通の復権”に繋がる芽が見え始めた。例えば筆者が取材した中でも、愛媛県松山市や香川県高松市では、地元の自治体と電鉄会社が共同で「クルマ依存社会からの脱却」を狙った街作りを行い、その中で交通IC/電子マネーを中核的なインフラとすることで、“公共交通の利用促進”という成果をあげていた。

今回、nimocaを皮切りに「公共交通のIC化」が始まる福岡は、自動車王国である名古屋を除けば、東京や大阪に次ぐ規模の地方都市である。また、福岡には“九州の中心”という役割もある。

nimoca開始以降、拡大する交通IC/電子マネーのインフラによって、福岡がどう変わるのか。地方の交通システムや地域経済の将来にとって、注目のケーススタディになりそうだ。

《神尾寿》

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