【神尾寿のアンプラグドWeek】好循環期に入る「iPod」ブランドのパワー

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2005年、デジタル市場の幕開けは『iPod』(アイポッド)というフレーズで満ちあふれていた。

既報のとおり、今年最初で最大の家電・デジタル見本市である「2005 International CES」(2005国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、アルパイン、クラリオン、ソニーなどカーナビメーカー各社がiPodコントロールユニットを続々と出展。

続く1月14日に開催された「Macworld Conference & Expo/San Francisco 2005」では、シリコンメモリータイプの新iPod、『iPod shuffle』(アイポッドシャッフル)の登場が世界の耳目を集める一方、従来型のiPodにメルセデスベンツ、ボルボ、日産、アルファロメオ、フェラーリなど自動車メーカー各社が対応するという発表が行われた。

iPodには昨年、北米BMW/Miniが対応済み。プレミアムブランドを有する自動車メーカーを中心に、iPodは「お墨付き」をもらった格好だ。

実際、iPodは売れに売れている。アップルコンピューターによると、04年12月の段階でiPodの累計出荷台数は1000万台の大台に乗り、昨年のホリデーシーズンに重なる第1四半期には、前年同期を525%上回る458万台のiPodを販売したという。

iPodの販売は“弾みがつく”どころか、ロケットブースターでもついているかのような加速度的な伸びを示している。日本市場においては北米市場ほどの熱狂はないものの、音楽に興味のある高感度なユーザーや若年層を中心に、iPodはひとつのファッションになっている。

一般誌やファッション誌、テレビなどでもiPodは紹介されており、その認知度や存在感は、ソニーや東芝のハードディスク型ポータブルオーディオプレーヤーに対して圧倒的だ。

●コンセプトがブランド化し、選別されるiPod

なぜ、多くの人がiPodに夢中になるのか。そこには多くの理由がある。例えば「デザインが美しい」というのは大きな要因であるし、「クリックホイールの操作感がよい」というのも納得できる理由だ。パソコンとシンクロするための「iTunesの使いやすさ」やドック端子による「拡張性の高さ」、海外での「iTunes Music Storeの魅力」を評価する人も多いだろう。

しかし、iPodが特別になった最大の理由は、音楽の文化とビジネス、リスニングスタイルを変えたコンセプトにある。

例えば従来型iPodの特徴であるクリックホイールは、ユーザーの音楽ライブラリすべてをポータブル化して持ち歩くというiPodの機能に対して、明快で使いやすい操作性を与えている。音楽をCDやMDといったパッケージメディアの枠組み・単位で管理して聴くのではなく、ハードディスクによるデジタルライブラリ化ならでの「新しい聴き方」を提案したのだ。

また、ビジネス面では1曲99セントで登場したiTunes Music Storeのインパクトは大きく、音楽ビジネスを変える力になった。

iPodの提案した新しい音楽のかたち。これを高感度ユーザーや若年層が積極的に受け入れたことで、そのコンセプトとスタイルがブランド化した。かつてのソニーの「ウォークマン」がそうであったように、iPodは新しい音楽文化・スタイルの代名詞になったのだ。それこそが、iPodが他社のポータルオーディオプレーヤーとは別格と、ユーザーに選別される理由だ。

今回、Macworld Conference & Expoでお披露目されたiPod shuffleは、ハードディスクという大容量メディアを持たない点で、従来型のiPodとは違う製品になっている。

アップルは、iPod shuffleから液晶画面を削ぎおとし、ユーザー側に聴きたい曲を探させるのではなく、ランダムにパソコンから転送された楽曲を聴く「シャッフルリスニング」をメーンとする新しいスタイルを提案した。このスタイルをユーザーがどう評価するかは現時点で不分明だが、コンセプト段階から商品開発するという姿勢は、従来型iPodの時と同様である。

●自動車業界にとっても都合がいい「iPod」

自動車業界にとってもiPodは都合のいい存在だ。クルマの中で「音楽」がキラーコンテンツなのは言うまでもない。ラジオや音楽CDの再生機能はクルマの標準機能になっているし、日本ではAVNを中心にHDDへの音楽リッピング機能がカーエンタテイメントの中で重要な機能になっている。

その中で「iPod連携」は3つの点で、自動車メーカーやカーナビメーカーにメリットがある。

ひとつは「音楽ライブラリ」機能をカーナビから切り離せる点だ。日本でのAVNの趨勢を見ると、これは矛盾しているように思える。

しかし、カーナビ機能の点だけで見ればハードディスクは必ずしも必要なデバイスではなく、むしろコストアップや地図の書き換えに手間がかかるといったデメリットを持っている。長期運用時の信頼性についても、ハードディスクはDVD-ROMに及ばない。カーナビユーザーの裾野をエントリーレベルまで広げてクルマの基本機能化する上で、ハードディスクは最良のデバイスではないのだ。

特に自動車メーカーの純正カーナビでは、DVD-ROM型のカーナビ+iPodは、幅広い顧客層に対応する手頃な価格のカーナビを実現しながら、ハイエンド層の“音楽ライブラリ”ニーズにも応えられる合理的な選択肢だ。

市販(後付け)カーナビにおいても、DVD-ROMや専用HDDによるカーナビ機能と音楽ライブラリ機能を切り離せば、ユーザーがリッピングした音楽コンテンツの著作権保護や保全に腐心することなく、地図の書き換え手段を提案できる。

2点目は接続性の部分だ。iPodのブランドが今後も強力になり、圧倒的なシェアと存在感を持ち続ければ、カーナビメーカー側は「iPod連携コネクター」だけを用意するだけですむ。逆に複数のメーカーの製品がデジタル音楽プレーヤー市場で群雄割拠する状況になれば、カーナビ側では複数の製品との接続ケーブルを用意し、作動検証の作業をしなければならなくなる。

自動車メーカーとカーナビメーカーにしてみれば、このままiPodがデファクトスタンダードになってしまった方が、コストや対応の手間を減らす上で都合がいいのだ。

3点目はクルマやカーナビのブランド戦略におけるシナジー効果だ。北米、欧州、日本のそれぞれの市場で、iPodのブランド戦略は奏功している。iPodは名実ともに「センスのいい製品」であり、それを持つことが高感度な人たちの間でファッションになっている。

BOSEやJBLなどオーディオメーカーの老舗ブランドがiPod周辺機器を出したことからもわかるように、急速にブランド力をつけたiPodとの連携は、ブランド力のシナジー効果を生み出す。

BMW/Miniを皮切りに、ブランドを重視する自動車メーカーが相次いでiPod連携を表明しているのも、北米を中心としたiPodブランドとのシナジー効果に期待しているからだ。実際、すでにiPod連携に名乗りをあげるメーカー各社は、どれもブランドのプレミアム化を実現している会社ばかりだ。

●好循環期に入るiPodブランド

iPodは独自のコンセプトにより、音楽市場のルールを変えて、高いブランド力を手にした。そこにユーザーが惹きつけられ、さらにオーディオや自動車、家電など、様々なブランドが「連携」という形で吸い寄せられる。iPodは紛れもなく、好循環期に入ったと言えるだろう。

ソニーをはじめとするオーディオ/家電メーカーやマイクロソフトは、デジタル音楽市場の奪取に向けた打倒iPodに執念を見せている。しかし、いちど好循環期に入ったブランドを引きずりおろす難しさは、かつてのソニー「ウォークマン」が証明している。

05年内に日本でのiTunes Music Store開始も噂される中、日本のカーエンタテイメント市場においても、iPodは見逃せない存在になりそうだ。

《神尾寿》

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