急ブレーキで衝突事故を誘発した行為に「殺意はなかった」

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後方から猛スピードで迫り、何度も追い越しを挑んだことで「自分にケンカを売っている」と信じ込み、故意に急ブレーキを掛けて衝突事故を誘発し、後続車のドライバーを死亡させたことで殺人の罪に問われた男の判決公判が2日、静岡地裁で開かれた。

裁判所は検察側の主張する「未必の殺意」は認めず、傷害致死罪が適当として懲役5年の実刑判決を言い渡している。

問題の事件は昨年8月21日に発生している。同日の午前5時ごろ、静岡県島田市相賀の県道を走っていた大型ダンプトラックの運転手から「前のクルマが急ブレーキを掛けたため、こちらも回避のために急ブレーキを掛けたら後続車が突っ込んだ」という内容の110番通報が寄せられた。

通報を受けた島田署員が現場に急行したところ、トラックの後部に潜り込むような形で潰れている乗用車を発見。車内にいた男性を病院に収容した。

警察が実況見分を進めたところ、運転手の主張とは異なり、現場にはトラックのブレーキ痕しか残されていなかった。しかもその長さが14mもあり、不審に思った警察官が追及したところ、「後続車のドライバーに煽られて腹が立ち、脅かすつもりで急ブレーキを掛けた」と供述したため、殺人未遂容疑で逮捕(後に被害者死亡で殺人容疑に切り替え)した。

後の調べで、この運転手は低速で走る自分のトラックを追い越そうとしていた男性のクルマが「ケンカを売っている」と勘違いし、80km/hまで急加速した直後、急ブレーキを使って同様にスピードを上げたクルマに急ブレーキを使わせることで威嚇を試みたという。しかし、後続車のブレーキタイミングが遅れたことで追突事故が発生。結果的に男性が死亡したことがわかった。

検察も「未必の殺意による殺人」を支持。公判中も「相手が驚いたり、傷ついたりするかもしれないということを承知で急ブレーキを使ったことが“未必の故意”にあたる。故意に急ブレーキを掛け、大型車を走る凶器として使用したこと自体が言語道断で、非常に悪質である」として殺人罪が成立すると主張してきた。

弁護側はこれに対して「急ブレーキの使用は執拗に追いかけてくる後続車に抗議しようとした意味合いが強い。そもそも後続車が必要な車間距離を確保していれば事故は防げたはずだし、意図したものと違う結果になったと以上、未必の故意も成立しない」と反発してきた。

2日の判決公判で静岡地裁の姉川博之裁判長は「事故直前には両車の間隔は約10mしかなく、急停止すれば後続車が衝突し、運転者が傷害を負うことは必至だった。したがって事故直前に被告は“相手を負傷させることは止むを得ないと思っていた”という状態にあり、この部分で未必の故意は成立する」として、弁護側の「被告は後続車と衝突することを予想していなかった」という主張を退けた。

しかし、弁護側の主張する「未必の殺意」について裁判長は「無思慮で短絡的だが、殺意があったとまでは言えない」と認定し、殺意は無かったと結論づけた。その理由として「急ブレーキを使って事故を誘発するというのは殺害方法としては確度の高いものといえない。面識のなかった男性を殺害する動機も薄弱だった」とまとめており、殺人罪の適用を見送り、「罪状は傷害致死罪が適当とある」として、懲役8年の求刑に対し、懲役5年の実刑判決を言い渡した。

検察側、弁護側双方が控訴するものとみられ、舞台は高裁に移されてさらに続くことになりそうだ。

《石田真一》

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