三菱『コルト』のデザイン・アイデンティティは、フロントからルーフエンドに向かって流れる「ワンモーションフォルム」に結集されているといっても過言ではない。ただし、机上のデザインから実車への反映にはかなりの苦労があったらしい。
「コルトに関してはデザイン側と生産技術担当者の間で何度も激しい衝突がありました」と語るのは、乗用車本部でコルトのデザイン面の監修を行ったプロジェクトマネージャーの大塚弘明さんだ。
「ワンモーションフォルムについては、デザイン本部長のオリビエ・ブーレイがプロジェクトの立ち上がり当初から強く主張していました。流れるような連続曲面をフロントからリアエンドまで通す、というものですが、曲面を活かすというのは生産(技術)側からしてみれば相当に無茶な要求だったらしく、とにかくいろいろ言われました」という。開発初期はコルトのプラットフォームをどういうものにするのかが煮詰まっておらず、デザイン側の要求を100%は聞いていられない状況だったようだ、とも大塚さんは解説する。
「いろいろありましたが、デザイン陣の中でも“ここで引き下がったら後がない”として、それだけは譲らず、結果的には生産側が折れてくれました。まあ、その段階ではストレートプラットフォームの採用も決まり、あとは向こうで何とかすればいいと思ってくれたのかもしれません。完成したクルマを見て、これまで議論を重ねてきた相手が“キレイだな、作って良かった”と言ってくれて、それでようやく肩の荷が下りたという感じでしたね」と微笑む。
新生三菱をイメージするクルマだけに妥協は許されない。そんな覚悟がこのデザインを作り上げた。