オンライン環境でカーマルチメディアを実現するための端末としては、カーナビが最有力である。ディスプレイと記憶媒体を備えるうえに、内部の基本構成はコンピューターと変わりないからだ。
現在発売されているほとんどのカーナビは、マイクロアイトロンという国産OSを使っている。それ自体のサイズが小さく、比較的安価なハード(少ないメモリ、速くないCPU)でも充分に動作し、起動時間が速いなどのメリットがあるからだ。このため、現在のカーナビの機能、つまり地図情報を使ったルート案内という1つの機能に関しては、かなりの完成度になっている。
しかし、カーマルチメディア端末に求められる性能、つまり、ミュージックデータのダウンロードに始まり、Eメールの送受信、ショッピング&グルメガイドなどのデータを活用できる端末となると、マイクロアイトロンOSでは役不足は否めない。機能が追加されるごとにカスタマイズが必要で、コストがかさみ、発展性に欠けるのだ。
ここにマイクロソフトのビジネスチャンスがある。今年の東京モーターショー開催時、隣接する幕張プリンスホテルにおいて、マイクロソフトはカーマルチメディア端末用OS「Windows CE for Automotive V3.5」(以下ウィンドウズ)を発表した。これこそ、残された巨大市場に討って出るためのマイクロソフトの布石である。
「マイクロアイトロンベースで、開発に100人がかりで1ヶ月かかることを、ウィンドウズベースなら、お絵かきソフトでボタンを並べるような感覚で開発できる」と、マイクロソフトプロダクトディベロップメントの平野元幹部長は胸を張る。
そのほかにもウィンドウズならではの利点は数多い。プラットフォームとして広く普及しているうえ、オンラインの窓口であるブラウザとも親和性が高く、様々な形式のデータをカスタマイズなしに扱える。もちろん、携帯電話やPDA端末との接続も容易だ。
もちろんデメリットもある。まず、OS自体がハードのパワーを要求する点。今以上のCPUパワーとメモリ容量はコストに直接影響するし、それでもなお地図描画やルート案内といったカーナビ本来の機能の完成度はマイクロアイトロンにはかなわないという。
カーマルチメディア端末は、その便利さをユーザーにいかに理解してもらうかが普及のカギとなる。前出の平野部長は、「ワープロが普及していったプロセスに似ている」と説明する。
「以前はワープロと言えばワープロ専用機のことを指したが、今ではワープロといえばPCの一機能を指すのみになった。いまやワープロ専用機は絶滅状態だ」と。つまり現在のカーナビ専用機は、カーナビ機能つきのウィンドウズ端末に取って代わると言うのだ。
そのような流れは出展メーカーにも現れている。クラリオンは、「次世代のハイエンド機はウィンドウズを採用する」と宣言、実際に作動する試作機を展示し、デンソーもウィンドウズ試作端末によるデモンストレーションを披露した。自動車メーカーでは、BMWがすでに新型「7シリーズ」にウィンドウズ端末を搭載している。
もちろん他のカーナビメーカーでも水面下で検討が進んでおり、「単機能カーナビとしてのマイクロアイトロンOSは無くならないが、ウィンドウズへの大きな流れは変えられない」というのが共通の見方だ。