「日本vs中国」だけでは語れない、電動化で競争は新たな段階へ…「GIIAS 2026」に見るインドネシア自動車市場の現在地

GIIAS2026は過去最大規模の出展ブランドを集めて開催された。最終的な来場者数は発表されていないが、前年のGIIAS 2025では約48万5000人を記録している
  • GIIAS2026は過去最大規模の出展ブランドを集めて開催された。最終的な来場者数は発表されていないが、前年のGIIAS 2025では約48万5000人を記録している
  • GIIAS2026は7月30日~8月9日の11日間、ジャカルタ近郊のインドネシア・コンベンションセンター・エキシビション(ICE)BSD Cityで開催された。GIIASとしては33回目の開催となる
  • 7月30日にはアグス・グミワン・カルタサスミタ工業大臣が来場。インドネシアを「自動車市場」から「自動車の生産拠点」へ転換することを強調した
  • トヨタは、ランドクルーザー300のHEV、BEVのbZ4X Touring、そしてICEを搭載するランドクルーザーFJを同時に打ち出すことで、ひとつの動力方式に絞らない「マルチパスウェイ」を具体的に示した
  • クラシック・ランドクルーザーを展示して70年以上にわたる信頼性・耐久性・悪路走破性の歴史を振り返り、最新のランドクルーザー300 HEVやランドクルーザーFJを披露した
  • bZ4Xをベースにボディを延長し、荷室容量を約1.4倍に拡大した「bZ4Xツーリング」を発表。マルチパスウェイ戦略を象徴する一台として位置づけられた
  • トヨタの電動化をより身近な層へ広げるモデルとして「Veloz Hybrid EV」を出展。インドネシアで現地生産され、燃費が良く使い勝手の良い7人乗りMPVとして紹介された
  • ホンダは「Culture. Evolved.」をテーマに、小型BEV「スーパーワン」とハイブリッドスポーツ「プレリュード」を出展。電動化してもホンダらしい走る楽しさは変わらないことを訴えた

インドネシア最大規模の自動車ショー「GAIKINDO Indonesia International Auto Show(GIIAS)2026」が、7月30日から8月9日までジャカルタ近郊のICE BSD Cityで開催された。会場には乗用車だけでも43ブランドが集結し、東南アジア最大級のモーターショーらしい活況を見せた。

今回、会場を歩いて強く感じたのは、インドネシア市場が長く続いてきた「日本車中心」の構図から、大きく変わり始めていることだ。

トヨタ、ホンダ、三菱、マツダ、スズキ、ダイハツといった日系メーカーが依然として大きな存在感を示す一方、BYD、CHERY、GEELY、GAC、Wulingなど中国メーカーの勢いも増している。しかも中国勢の戦略は、もはや「低価格のEVを投入する」だけではない。現地生産を進め、BEVだけでなくPHEVやREEV、さらにはICEまで投入するなど、インドネシア市場を本格的に取り込もうとしている。

GIIAS 2026で見えてきた各社の動きを追ってみよう。

◆日系メーカー、それぞれの方法で電動化に対応

【トヨタ】「マルチパスウェイ」で電動化の選択肢を拡大

トヨタは、ランドクルーザー300のHEV、BEVのbZ4X Touring、そしてICEを搭載するランドクルーザーFJを同時に打ち出すことで、ひとつの動力方式に絞らない「マルチパスウェイ」を具体的に示した

インドネシア市場で長年トップを走ってきたトヨタは、GIIAS 2026でも幅広い商品群を展開した。その基本となるのが、BEVだけに依存せず、HEVなど複数の電動化技術を市場環境に合わせて投入する「マルチパスウェイ」の考え方だ。

注目されたのは『ランドクルーザー300』のHEVおよびGR-S、コンパクトな本格オフローダー『ランドクルーザーFJ』、そしてBEV『bZ4X ツーリング』。都市部と地方で充電環境に大きな差があるインドネシアだけに、HEVを現実的な選択肢としながら、将来のBEV需要にも備える。中国勢が電動車攻勢を強めるなか、現地生産や充実した販売・サービス網という従来からの強みを生かして対抗する姿勢を鮮明にした。

【ホンダ】「スーパーワン」でEVにも走る楽しさ

限定100台で販売される「スーパーワン」。コンパクトなボディにワイドフェンダーを組み合わせた個性的でスポーティなスタイルが来場者の関心を集めた

ホンダで注目を集めたのは小型EV『スーパーワン』だ。東南アジアではGIIAS 2026が初披露となり、2026年は100台限定で販売される。

特徴は単に環境性能を追求するのではなく、EVにも「運転する楽しさ」を持ち込もうとしていることにある。ホンダは「Culture. Evolved.(進化する文化)」をテーマに掲げ、電動化時代になってもホンダらしいドライビング体験を残す姿勢を打ち出した。価格競争力を前面に押し出す中国製EVとは異なる価値で市場に挑もうとしている。

【三菱】新型「エクスフォース HEV」で得意のSUV市場を深掘り

「エクスフォース」は、三菱がインドネシアで販売する初のHEVであり、同国で現地生産する初のハイブリッド車となった

三菱の主役はコンパクトSUV『エクスフォース HEV』。三菱がインドネシアで正式販売する初のHEVであり、現地工場MMKIで生産されることも大きなポイントだ。HEVは4億4500万ルピアからで、ガソリン仕様もラインアップする。

都市部では激しい渋滞が日常的に発生する一方、長距離移動も多いインドネシアでは、外部充電を必要としないHEVは現実的な選択肢となる。三菱はそこに現地生産を組み合わせることで、中国メーカーとは異なる電動化への回答を示した。

【マツダ】新型CX-5と「6e」でブランドの転換点を示す

BEV「マツダ6e」は、中国の長安汽車と協業して開発された「EZ-6」をベースに、マツダらしい「魂動デザイン」と人馬一体の走りを融合した

マツダは新型『CX-5』『CX-30』、そしてBEV『マツダ6e ファストバック』の3モデルを投入した。

なかでもCX-5はインドネシアにおけるマツダの中核SUVだ。従来からの「魂動デザイン」を発展させながらボディサイズを拡大し、実用性を向上。プレミアム寄りのSUVというポジションをより明確にした。一方、CX-30はインドネシアで現地組み立てを開始したことが大きなポイントとなる。

マツダ6eは、マツダがBEV市場へ本格的に踏み込む姿勢を示すモデルだ。中国メーカーとの協業による電動化技術を活用しながら、デザインや走行感覚にはマツダらしさを盛り込むというアプローチも興味深い。

【スズキ】「XL7」を核に生活に密着した実用車で勝負

スズキが発表した3列シートSUV「XL7」。新デザインのフロントグリルやバンパーガーニッシュによってSUVらしい力強さを高め、内装の加飾も刷新している

スズキは現地生産SUV『XL7』、マイルドハイブリッドを設定する『フロンクス』、BEV『eビターラ』という3本柱を打ち出した。

なかでも注目されたのが、世界初公開となったXL7のマイナーチェンジモデルだ。7人乗りという実用性を維持しながら内外装や装備を刷新し、上級グレードにはSHVS(Smart Hybrid Vehicle by Suzuki)を採用した。

フロンクスでは手頃なマイルドハイブリッド、eビターラでは将来のBEV需要に対応する。価格や充電環境を踏まえながら、段階的に電動化を進めようとするスズキらしい現実的な戦略が見えてくる。

【ダイハツ】電動化と現地ニーズを両立させた“小さいクルマ”の可能性

商用車Gran Maxをベースに、日本の「ムーヴ キャンバス」を思わせる丸みを帯びたフロントマスクに仕立てたカスタマイズモデルを出展した

ダイハツはインドネシア市場の主力商品と将来の電動化技術を組み合わせた展示を展開した。注目は軽自動車向け「e-SMART HYBRID」を搭載したコンセプトカー『K-VISION』。エンジンを発電専用とし、モーターで走るシリーズ式ハイブリッドによって、小型車ならではの効率的な電動化を提案した。

一方、現地で重要な量販モデルでは、7人乗りLCGCの新型『Sigra』を出展。デザインをリフレッシュし、ファミリー層への訴求力を高めた。 商用車『Gran Max』では、日本の『ムーヴ キャンバス』を思わせる洒落た仕様も披露。SigraとGran Maxは現地販売を支える二本柱でもあり、未来の電動化を示すe-SMARTと、生活・ビジネスに密着した実用車を同時に展示した点に、ダイハツらしい「小さいクルマ」の戦略が表れていた。

◆中国勢は「安いEV」から総合メーカーへ

GIIAS 2026で、とりわけ勢いを感じさせたのが中国メーカーだ。数年前まで中国車といえば、低価格EVを武器に市場へ参入するイメージが強かった。しかしGIIAS 2026では、その戦略が明らかに次の段階へ進んでいた。

【Wuling】現地生産を武器とする“日常の足”で存在感

Wulingの「Aira EV」は、都市部での日常利用を狙ったエントリー向け小型BEV。より幅広いユーザーへBEVを普及させようとするWulingの攻勢を象徴するモデルとなった

象徴的だったのがWuling(五菱)の小型4ドアEV『Airr EV』の登場だ。Standard Rangeが1億5500万ルピア(約140万円)、Long Rangeでも1億7500万ルピア(約156万円)という戦略的な価格を設定した。この価格なら、一部の富裕層だけでなく「日常の足」としてEVを選択肢に入れられる。

重要なのは、Wulingがすでにインドネシアで確固たる生産基盤を築いていることだ。その意味で同社はもはや「中国から安いEVを輸入するメーカー」ではない。現地生産によって価格競争力を確保しながら市場に深く根を張るという、これまで日系メーカーが得意としてきた領域に踏み込んでいると言えるだろう。

【CHERY】BEVからREEVまで電動化の幅を拡大

CHERYが披露した「J6T CSH」は、タフなボクシースタイルを特徴とするJ6Tに、レンジエクステンダーE方式のChery Super Hybrid(CSH)を組み合わせた新モデル

CHERY(奇瑞汽車)はBEVだけでなく、PHEVやレンジエクステンダー系まで電動化の幅を広げ、新しいカテゴリーへ挑戦する姿勢を示した。その象徴が電動SUV『J6T CSH』だ。BEV『J6T』のタフなキャラクターを受け継ぎながら、Chery Super Hybrid(CSH)を使ったREEVへと発展。BEVならではの走りと、長距離での航続性能を両立させようとしている。

一方、都市部の若年層に向けてコンパクトBEV『CHERY Q』も投入した。装備を充実させながら、Pureが2億3990万ルピア(約214万円)、Rizzが2億5990万ルピア(約232万円)という戦略的な価格を設定。価格だけでなく、航続距離や充電への不安まで含めて商品を作り分けるCHERYの姿勢が鮮明になった。

【JETOUR】ICEからPHEVへと商品領域を広げる

JETOUR「T2 i-DM」。独自の「i-DM(Intelligent Dual Mode)」を採用したPHEVで、タフなボクシーデザインに、高効率な電動パワートレーンを組み合わせている

CHERY傘下にあって、SUVラインアップを展開したのがJETOURだ。なかでも最大の注目は、インドネシアで初披露された『T2 i-DM』で、独自の「i-DM(Intelligent Dual Mode)」を採用したPHEVを採用。タフなボクシーデザインを特徴とするT2に、高効率な電動パワートレーンを組み合わせている。一方で、従来のICEからPHEVへと商品領域を広げる姿勢を鮮明にしたことも見逃せない。

そのT2にはソニー製プレミアムオーディオが搭載されていた。サブウーファーを加えた12スピーカーを車内に配置し、遮音性を高めたキャビンと組み合わせることで、力強い低音からクリアなボーカルまで楽しめる音響空間を構築る。中国系SUVが走行性能や先進装備だけでなく、車内エンターテインメントにも力を入れていることを示する装備といえる。

【GEELY】電動車にとどまらずCoolray投入でICEにも進出

GEELYではBEVのEX2、EX5、PHEVのStarray EM-iなどを出展。2026年のOTOMOTIF Awardで「Best Compact EV」「Best High SUV 5-Seater」を獲得した

GEELY(吉利汽車)は『EX2』『EX5』『Starray EM-i』などの電動車を展開する一方、BEV、PHEVに加えてICEまでカバーするマルチパワートレーン戦略を鮮明にした。

最大の注目はコンパクトSUV『Coolray』だ。インドネシア市場への再参入後、初めて純ガソリン車を投入したことは、Geelyの戦略転換を象徴している。電動車一辺倒ではなく、依然としてICE車の需要が大きいインドネシアの実情に合わせ、商品ラインアップを広げたわけだ。さらに3列シートSUV『OKAVANGO(オカバンゴ)』も予告展示。BEVメーカーというイメージから脱却し、幅広いパワートレーンを揃える総合メーカーとして市場に根を張ろうとする姿勢が見えてきた。

《会田肇》

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