レスポンスセミナー「【レべル4自動運転】制度・技術・実装の今とこれから- 日産自動車の実用化へ向けた課題と実現へ向けた取組み(vol.2技術編)」が、4月14日に開催。当日は、日産自動車 モビリティ&AI研究所 エキスパートリーダー 木村健氏を迎えて、自動車ジャーナリスト清水和夫氏をモデレーターとするパネルディスカッション形式で行われる。
このセミナーは、レべル4自動運転の「制度」「技術」「実装」をテーマにした全3回のセミナーシリーズとなっている。第2回目の今回は、技術編ということで、日産が3月に発表した無人走行のロボタクシーに関する技術を中心に、同社の取組みや課題、業界の動きなどを議論する。セミナーに先立ち、木村氏に話を聞くことができた。
日産のレベル4自動運転への取組み
---:さっそくですが日産が取組む自動運転について、どんなものなのかを教えていただけますか。
木村健氏(以下敬称略):当日は、先日公開した横浜での無人走行実験についての現状と、それまでの経緯などをお話しする予定です。どんな車でなにを目指しているのか、プロジェクトの概要や現状をお伝えします。動画も用意しているので、それもお見せしたいと思っています。
それと、イギリスでは2017年から官民プロジェクトに組んでいます。2024年は、「evolvAD」というプロジェクトで、ロンドンの住宅街のような狭い道、障害物や駐車車両が多い道での自動運転と、郊外のカントリー道路を実用的なスピードで走行するという実験を行っています。この紹介もしたいと思っています。
ロンドンで住宅地と郊外の道路で自動運転を実施
---:イギリスのプロジェクトは面白そうですね。住宅街、郊外というのは横浜のみなとみらい地区の自動運転とはまた違う難しさがあるように思います。
木村:はい。イギリスの典型的な住宅街の道路は、自動運転にとって難しい条件があります。加えて、郊外の道もそれほど広くないし、センターラインや路肩などもない道で、しかも舗装の状態もよくないのですが、時速60マイル(96km/h)といった速度で飛ばしています。その速度域でも交通のさまたげにならない自動運転に取組んでいます。
住宅地では、実験した地域が路上のカメラインフラが整備されていたこともあり、一部では、このカメラ映像を使って、駐車車両で見えない先の空きスペースや状況も判断して、行動計画を立てています。郊外の道路でも対向車の状況やカーブなどをみながら、適切な速度調整を行います。
ODD(運行設計領域)を広げるための取組み
---:路車間通信も使っているのですね。高精度3Dマップも使っているのでしょうか。
木村:使っていますが、それでも路肩などはっきりしない部分はLiDARやカメラを使っています。それ以外にも、たとえば雪道でも事前設定や情報なしで走行する実験も行っています。路面のミューなどの情報は与えず、走行しながら路面の滑り具合を判定してスピードやハンドル制御を修正しながら行います。これは、実際の車の挙動をフィードバックしながら目標の軌跡を自分で修正するという技術になります。
このような技術を追求しているのは、日本でも各地で行われている自動運転の実証実験が、非常に限られたエリアや、専用コースでの実験だったり、あるいは低速を前提としたものでは不十分と考えているからです。もっと普通に走れなければ、交通課題の解決にならないだろうという考えがあります。一般道において、制限速度を守りながら、他の交通を妨げない自動運転が大事だと思っています。
しかし、いきなりすべての状況に対応させるのは難しいので、まずは歩道が整備されていて、センターラインもある、交差点には信号があるといった、比較的環境が整備されたところから実証を重ねています。
市街地走行で考えられる2500以上のケースを分析
---:もちろんビジョンシステムでも、自動運転を強化していくことは可能です。しかし、LiDARやレーダーを併用することで単純に認識精度を高めることができます。横浜やイギリスでの実験ではさまざまな技術、センサーを取入れていますが、信頼性や精度を上げるものなら使わない理由はありません。ロボタクシーの場合は、国や地域などエリアや現場ごとのシチュエーション、利用できるインフラもまちまちです。これらに対応すべく、いろいろな技術を取入れています。
木村:日本や欧州は、安全性の担保と制御の説明責任を重視しています。説明責任を果たすためには制御の最終段階はルールベースになります。ルールベースは現実の状況を記述しきれないという不安もありますが、日産では道路の構造ごとに起こりうるシチュエーションを網羅的に洗い出しています。たとえば市街地走行で考えられる2500通り以上のケースについて、事故になりうる状況を分析しています。
自動運転でAIが進路計画を立てたり判断している状態は、人間の運転でたとえると、意識を集中していなくても体が一定の操作をしている状態ということができます。ルールベースのアルゴリズムで運転制御を行うというのは、もっと高度な意思決定、状況判断をしている状態とも言えます。一般道の自動運転でも、かなりの領域をルールベース処理することができるのです。
自動運転システムにおける車両OEMとしての強み
---:自動運転については、日産やトヨタのようなOEMが取組む研究とWaymoなどITベンダーやITプラットフォーマーが進めている研究があります。両者に違いはあるのでしょうか。