自動車業界は再編および構造改革の波にさらされている。これまで業界の象徴でもあったOEMを頂点とするピラミッド構造のサプライチェーンさえ変わろうとしている。ここで注目されるのがプロダクトエンジニアリングサービスだ。
クエスト・グローバルは、シンガポールに本社を持つプロダクトエンジニアリングサービスの老舗の1つ。日本はその支社。製造業における同社の戦略や、近年伸びているという自動車業界の動向について、貫名 聡 クエスト・グローバル・ジャパン 代表取締役社長とクエスト・グローバル Automotive部門 ジャパン ジェネラルマネージャーの藤間真樹氏に話を聞いた。
技術革新だけではないフロントローディングの意味
製造業DXとして注目されているモデルベース開発(MBD)は、単にシステムやコンポーネントの開発を効率化・最適化するだけでなく、商品企画から量産、運用メンテナンスといった製品開発ライフサイクル、エンジニアリングチェーンにまで影響を及ぼしている。
モデルベース開発では、要件定義や詳細設計のような上流工程にシミュレーションモデルを活用する。さらに商品企画や車両設計の段階もビッグデータ処理やAIを活用したモデルベース開発の考え方が広がっている。フロントローディング(業界によってはシフトレフト)と呼ばれる動きだ。
モノづくりやハードウェア製造に関しても、IVI(In-Vehicle Infotainment )やOTA(Over The Air)、EVが標準となるこれからの車両ではこの動きはさらに顕著になる。技術競争や市場原理から、中国など先行するメーカーに対して、高付加価値な車両を効率よく、スピード感を持って作る必要がある。国際的な安全基準(機能安全・サイバーセキュリティ)は製品出荷後の性能維持を求め、環境基準は廃棄処理やリサイクルについても企業責任を課している。
これらのニーズを満たすには、ソフトウェアシフト、ハードウェアコンポーネントやプラットフォームの標準化、オープンアーキテクチャ、制御ソフトウェアの共通API化が避けられない。
グローバル展開に欠かせないオープンアーキテクチャとパートナーシップ戦略
ただでさえ人手不足に悩んでいた業界は、SDV、ソフトウェアシフトによって、さらなるエンジニア不足という事態に直面している。
ソフトウェアシフトや電動化には垂直統合が有効との認識から、主要メーカーはアウトソーシングや調達より内製指向に向かうのでは、という声もあるが、これはスケールメリットが狙いやすい工場ライン(ギガキャスト)や蓄電池製造の話であり、設計やソフトウェア開発ではそうとも限らない。ソフトウェア開発には依然として膨大なヒューマンリソースが必要で、ウォーターフォール型を基本とする限り、膨大な人月が必要だからだ。
次世代車の開発を強化しなければならないのに、エンジニアが圧倒的に不足している。そのような中で注目されているのがエンジニアリングサービスだ。これまでも、自動車メーカー(OEM)がレースカー、コンセプトカー、実験用のプロトタイプ開発で、外部のエンジニアリングサービスプロバイダーを利用することはあった。だが、近年では量産車の設計や開発においても、外部のパートナーと連携する事例が増えている。
パートナーシップは長期戦略で考える
クエスト・グローバルは、1997年にシンガポールで設立されたプロダクトエンジニアリングサービスに特化した会社だ。25年以上にわたり、世界で最も困難なエンジニアリングの課題に対して最も信頼できるパートナーになれるよう努力を続けている。エンジニアリングサービスを提供する業界は、航空・宇宙産業、自動車、エネルギー、ハイテク、医療機器、鉄道、半導体、通信と多岐にわたる。20か国に拠点を持ち、従業員数は2万人を超えるという。
クエスト・グローバル・ジャパン 代表取締役社長の貫名 聡氏は、「クエスト・グローバルは、プロダクトエンジニアリングに特化して世界中でサービスを提供しています。今日、クエスト・グローバルが世界でも日本でも成功することができているのは、“Trusted Thinking Partner”として、それぞれの業界・企業としっかり向き合って長期の関係づくりに注力しているからです」と語る。

貫名氏によれば、パートナー企業との関係は10年、20年という長いスパンで構築・発展させていくのがクエスト・グローバル流であり、日本国内のパートナー企業のうち8割以上が10年以上のつながりを持つという。このような関係を構築するために、同社では次の3つ柱とする戦略(パートナシップトライアングル)をとっている。
1. 顧客中心主義
2. エンジニアリング・フォーカス
3. アイデアから実行まで一貫したアカウンタビリティ

パートナーから信頼を得るための考え方
3つの柱について、貫名氏は次のように詳細を説明する。
「まず1つ目の顧客中心主義については、その実践のため、『バーチャルビジネスユニット』という業界・顧客に特化した組織を持っています。顧客専門チームを組織し、このチームは意思決定を含む全権限が与えられます。このような体制をとることで、都度本社と調整する必要がなく、顧客に対してレスポンスや対応を素早く行うことができます。
2つ目のエンジニアリング・フォーカスについては、機械設計、電気設計、組込ソフトエンジニアリング、半導体設計など、技術領域ごとのエキスパートを揃えています。取引先の数を増やすのではなく、1社と深く長く付き合うことを社是としていますので、エンジニアも顧客や業界に精通し、製品ロードマップを深く理解して次の設計開発の提案を行うことができます。技術指向の強い会社であることを自負しています。
そして、顧客中心主義、エンジニアリング・フォーカスの強みが3つ目の一貫したアカウンタビリティにつながります。弊社では人材派遣業も行いますが、本業はローカル・グローバルモデルと弊社が呼んでいる請負型のソリューション事業です。ただ、弊社のローカル・グローバルモデルは、クロスボーダーでガバナンスモデルを構築しますが、現場主義でありつつ、マイクロマネジメントではなくマイクロアウェアネス(提案や気づきを与える)を実践するというユニークなモデルを強みとしています」
昨今の日本における深刻なエンジニア不足の中で、プロダクトエンジニアリングにおいては、世界中のエンジニアタレントを活用できるローカル・グローバル型へと舵を切る必要性に迫られているということだ。
クエスト・グローバル・ジャパンの採用に関して厳しい環境下でこそ顧客のニーズに応える自動車業界のエンジニアリングサービス
クエスト・グローバルが日本において、近年事業を拡大しているのが、自動車、半導体だという。
クエスト・グローバル Automotive部門 ジャパン ジェネラルマネージャーの藤間真樹氏は「自動車関連の事業は今伸びている分野です。理由の1つはソフトウェア開発のニーズが日に日に高まっていること。EVやADAS/自動運転、そして最近話題のSDVなど、自動車開発においてソフトウェアの比重は大きくなる一方、人材の育成が需要に追い付いていません。クエスト・グローバルは、日本のエンジニアがブリッジとなり、インドのエンジニアリングセンターが擁する豊富なリソースを活用し、顧客の課題を解決しています。
もうひとつの理由は、顧客の稼働に合わせ、柔軟な対応ができるということです。自動車は要素開発から適用開発、量産開発まで、数年にわたる長い開発期間が必要です。将来必要となる商品を市場に導入するため、短期的な経営環境を理由に開発を止めることができません。クエスト・グローバルが提供するエンジニアリングサービスは、人件費・開発費の固定費を調整する役割も担っています。顧客から長期的なヴィジョンを共有されない限りこのような対応は極めて困難ですが、1社と長く深く付き合う戦略でパートナーシップを構築し、顧客の稼働に応じた柔軟なサービスが可能となっています」と話す。

求められるのはコンサルができるエンジニア
藤間氏によれば、特に強みを発揮しているのがコネクテッドカーやデジタルコックピット、ADAS、SDVの領域だという。
「CASEが話題になったころから、ソフトウェアエンジニアの不足が叫ばれるようになりました。統合ECUというキーワードに代表されるように、自動車では様々な部分でシステムの統合が進んでいますが、SDVの登場はECUの統合を一層加速させ、アーキテクチャに大きな変化をもたらします。
ここでエンジニアリング企業に求められるのは、単に車両開発、システム開発におけるソフトウェア開発の知見や経験、能力だけではありません。どのような機能を車両に持たせるのか、コンセプトフェーズから顧客と一緒に考え、話し相手となり、必要となるアーキテクチャを構築し、そして実現するためのエンジニアリングをクエスト・グローバルは提供しています。
クエスト・グローバルは、自身の仕事を車両開発のロードマップから見ることのできるエンジニアを育てています。いわば、“技術が分かりコンサルティングができるエンジニア”です」
エンジニアリングサービスというスキルアップの場
以上のような強みは、同社で働く従業員(エンジニア)にとってもスキルアップやキャリア形成にプラスとなる。
「現場の技術に精通し、車両レベルのアーキテクチャにも携わることができるというキャリア面でのメリットもありますが、何よりOEMメーカーで仕事ができるというのも魅力の1つでしょう。R&Dや市販車両の設計という最先端技術に触れることができます。また、自動車の開発は3年単位、5年単位です。腰を据えたスキルアップが可能と考えます。自動車業界はEV、ADAS/自動運転、デジタルコックピット、SDV、AIと、常に最新の技術が投入されていることもポイントです」(藤間氏)
クエスト・グローバルは、上述の通りインドにエンジニアリングセンターを構え、日本の自動車メーカーにオフショア開発のサービスを提供している。インドオフショアをつなぐ日本側のブリッジエンジニア役割を大きい、日本にいながらにしてグローバルな舞台で活躍したいエンジニアにとって理想的な環境と言える。
デジタルコックピットの設計に携わりたい、SDVをベースとした体験型の新しい車両を開発したい、自動運転を研究したいといった若手に、「ぜひ将来の日本の自動車産業を支えるチームに加わっていただきたい」と藤間氏は語った。
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