BEVで勢いを増す中韓勢、「日本車の牙城」インドネシアで日本メーカーはどう戦うのか

ヒョンデのMPV『スターゲイザー』。インドネシアで昨年夏に発表して以来、大ヒットとなっている。
  • ヒョンデのMPV『スターゲイザー』。インドネシアで昨年夏に発表して以来、大ヒットとなっている。
  • 日本車が居並ぶ中、中韓勢は存在感を主張するかのように出展していた
  • インドネシア人の伝統でもあるバティック柄を取り入れた『アイオニック5』を発表
  • ウーリンは「エアEV」の多彩な活用法を提案した
  • ジャカルタ市内では「エアEV」をPR活動に活用する例も多いという
  • ライドシェア「Grab」ではEVを申し込むことができる
  • ダイハツが今回のショーで出展した『VIZION-F』。商用EVでの活用をイメージした
  • 昨年のインドネシア国際モーターショー2022では、LCGCカー『アイラ』をベースとしたBEVプロトタイプを披露した

インドネシアは長いこと日本車が90%以上のシェアを持つ、いわば“日本車の牙城”として知られてきた。そんなインドネシアで急速に勢いを増しているのが中韓勢だ。8月に開催された「GAIKINDO インドネシア国際モーターショー2023」ではまさにその勢いを目の当たりにすることとなった。

◆ショーでも存在感あるイケイケで出展していた中韓勢

インドネシアの道路を走るクルマのほとんどは日本車だ。しかし、近年は中韓勢の参入により、その勢いは失われつつあると言われる。とはいえ、現在もインドネシアにおいて日本車は9割を超えるシェアを獲得しており、他のASEAN諸国同様、その存在感は大きい。

GAIKINDO(ガイキンド/インドネシア自動車工業会)統計による2023年1月から7月のインドネシア国内における新車総販売台数は58万6401台。その中で日本車は54万1547台でそのシェアは92.3%となった。圧倒的なシェアは今も変わらないと言っていいだろう。ただ中韓勢もそのシェアを着実に拡大してきているのも事実だ。

中でも順調にシェアを伸ばしているのが韓国のヒョンデだ。23年に入ってからは前年同期比で48.1%もシェアを伸ばし、シェア別順位でも6位にまで躍進。昨年比で大きくシェアを落とした三菱に迫る勢いだ。背景には22年8月に投入したMPV『スターゲイザー』のヒットや、富裕層を中心に売れているBEV『アイオニック5』の存在が大きい。

2018年から本格販売を開始した中国のウーリンは、多目的車(MPV)の投入で一定の需要を獲得。さらに22年からはコンパクトBEV『エアEV』が加わり、一時は2.9%ものシェア獲得するまでになった。しかし、23年に入ってからはその勢いは失速気味とはなっているが、それでもベスト10に入っている状況に変わりはない。

こうした状況を受け、今回のモーターショーでも中韓勢は“イケイケ”の様子がハッキリと読み取れた。大規模なスペースで展開するトヨタやホンダなどに混じって、ヒョンデやウーリンがほぼ同規模で展開。他にも日本メーカーが居並ぶ展示の中で、MGやチェリー、DFSKが存在感を見せ、その様子はまるで日本メーカーを追い落とさんばかりだ。

◆電圧が220Vでも充電環境が追いついていないワケ

そして、インドネシアにおける自動車市場において見逃せないのが低炭素排出車(Low Carbon Emission Vehicle:LCEV)の動向だ。2022年に電気自動車(BEV)の生産が始まったインドネシアでは、都市部の富裕層を中心に通勤用としてBEVが使われるなど普及が始まっている。特にもともとコンセントから送られる電圧が220Vであるインドネシアでは、W数の契約さえ対応しておけば充電環境としてはふさわしい。

しかし、エアコンの普及率が3割程度しかないインドネシアでは、家庭が契約しているワット数が極めて低いのが現状だ。さらに地方都市では電圧が低くなってしまうこともあり、とてもじゃないけどクルマへの充電に対応できるはずもない。この状況下でそれが行えるのは自宅のインフラが整った一部の富裕層だけと考えるのが妥当だろう。

ならば屋外の充電ステーションで対応できるかとなるが、実はそれも難しい。2022年11月現在で充電ステーションは全国でも500か所程度しかなく、しかもそれは都市部に集中しているからだ。政府は2030年までに普通充電を含めた充電ステーションを3万か所以上にまで増やす目標を掲げているが、現状は遅々として進んでいないという。

そうした状況を鑑み、日本メーカーはインドネシアにおいて、当面ハイブリッド車(HEV)で対応していく考えだ。HEVなら充電する必要はなく、少なくともエンジンをアシストすることで低炭素排出に貢献できる。その結果、HEVの販売台数も急速に増えており、日本のメーカーによるLCEV販売台数は2020年の1100台から2022年に4976台まで増加。まだ都市部での需要が中心ではあるが、インドネシアの実情を踏まえた環境に対する低負荷需要が生まれていると言えるだろう。

◆2050年に全EV化を目指す政府の下、日本勢はどう戦うのか

とはいえ、中韓勢は、政府が掲げる2050年までに同国で販売される四輪車と二輪車を全てBEVとする方針の下、その勢いは増すばかりだ。ジャカルタ市内では、現地生産を開始したヒョンデの「アイオニック5」や、ウーリンの「エアEV」に遭遇する機会が相当数増えた。一部では、PRのためにデモ走行する機会を増やしているとの話も出ていたが、都市部には富裕層がセカンドカー、サードカーとしてBEVを購入することが増え、実数でも着実に伸ばしてきているようだ。


《会田肇》

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