モーターショーのテーマはEVより交通安全? その実態と背景【ベンガルール通信その26】

モーターショーの主役がEVだった理由

インドを南アジアのスクラップのハブに

モーターショーの筆頭テーマは「交通安全」だった

スクールバスの大群が道路を埋め尽くす

慣れない子どもは必ず、運転手か上級生が校門まで手を引いて送る
  • 慣れない子どもは必ず、運転手か上級生が校門まで手を引いて送る
  • スズキは1月11日「Auto Expo 2023」(デリーモーターショー2023)にて、EVコンセプトモデル『eVX』を世界初公開した。
  • 道路交通・高速道路省による、全国に50~70の自動車スクラップ施設と75の自動検査ステーションを設置予定するとした2021年12月の「National Vehicle Scrappage Policy 」の発表

南インドに拠点を置き「イノベーションの実験室」を運営して日本とインドのビジネスの架け橋となっている大和倫之氏による「ベンガルール通信」。

今回は3年ぶりに開催された巨大モーターショーのトピックと、インドの交通安全における根幹的な課題について解き明かしていく。

◆モーターショーの主役がEVだった理由

南インドより、ナマスカーラ!

1月中旬、「The Auto Expo 2023」(デリーモーターショー2023)が北インド・デリー首都圏にて行われた。元来、隔年開催を基本とする本展示会だが、前回は疫病騒動が始まる直前の2020年1月だったから、ちょうど3年ぶり。完成車・OEMを中心とした 「Auto Expo Motor Show」と部品・サプライヤーを中心とした 「Auto Expo Component Show」の2本立て、2会場で行われた今回、6日間の一般公開期間を通じて過去最高記録の64万人の来場者があったという。

ちょうど同時期に開催されていた東京オートサロンが3日間で18万人というから、一日あたりに換算しても東京の2倍近くの集客があったことになる。自動車業界に限らず、このところリアルで開催される各種の展示会は、どこも軒並みものすごい客の入り様だ。家族連れや学生が溢れる休日に訪れようものなら、正に人垣を掻き分けて進むような状況となる。

主催者であるSociety of Indian Manufacturers (SIAM、インド自動車工業会) の開会の辞によれば「持続可能なモビリティと脱炭素」がテーマに掲げられた。これを支える5つの注力分野として「Surakshit Safar (交通安全)」、「Jaivik Pahal(バイオ燃料)、Vidyutikaran(電動化)、Chakriyata(リサイクル)、 Gas Gatishilta(内燃機関車) が挙げられた。本展示会は、SIAMとConfederation of Indian Industries (CII、インド商工会)、Automotive Component Manufacturers of India (ACMA、インド自動車部品工業会) の3社による共催だ。

残念ながら、マヒンドラマヒンドラ、シュコダ&フォルクスワーゲン、日産&ルノーといった主要乗用車OEMに加えてメルセデスベンツ、BMW、アウディといった高級車OEMが出展を見送ったほか、Hero MotoCorp、Bajaj Auto、TVS Motor Coといった地場の大手二輪車OEMが希望したフレックス燃料車のプロトタイプ展示に制限を掛けられるなど、必ずしも「今のインド」のフルポテンシャルが完全に発揮される機会とはならなかった。

結果として、話題の中心となったのは電動自動車(EV)だ。コンセプトモデルからほぼ量産向け最終モデルと思われるものまで、電動四輪車の出展は16車種。中でもタタモーターズは、第2世代となる電動・内燃共用プラットフォーム採用モデルを含めて3車種を展示して、乗用車セグメントにおける更なる市場シェア拡大に意欲を示した。

OEMが2社ずつとなった日中韓プレイヤーにおいては、中国がBYDとMGで計6車種、日本はマルチスズキとトヨタ&レクサスで計4車種、韓国はヒョンデとキアで計3車種のお披露目となった。

◆インドを南アジアのスクラップのハブに

Auto Expoから程なくして道路交通・高速道路相であるNitin Gadkari氏の発言が話題に上った。同省の管轄下にある中央・地方政府保有車両の内、車歴が15年を超える90万台相当を4月1日付で一斉にスクラップにする、というなかなか大胆な話だ。より正確には、新年度を迎えるタイミングで該当車両の登録を抹消した上で廃車・スクラップ措置に回し、代替燃料を採用する車両に入れ替える、という施策が表明された。


《大和 倫之》

大和 倫之

大和倫之|大和合同会社 代表 南インドを拠点に、日本の知恵や技術を「グローバル化」する事業・コンサルティングを展開。欧・米の戦略コンサル、日系大手4社の事業開発担当としての世界各地での多業種に渡る経験を踏まえ、シンガポールを経てベンガルール移住。大和合同会社は、インドと日本を中心に、国境を越えて文化を紡ぐイノベーションの実践機関。多業種で市場開拓の実務を率いた経験から「インドで試行錯誤するベースキャンプ」を提供。インドで事業を営む「外国人」として、政府・組織・個人への提言・助言をしている。

+ 続きを読む

特集