日本の自動車産業の大変革において重要なテーマが、OEMと下請けからなる垂直統合モデルから、IT産業的な水平分業モデルへの転換だ。
モバイル分野で長らく活躍してきたITジャーナリストの石川温氏が、マイクロソフトの自動車市場に向けた動きの取材を元に、自動車産業の向かうべき方向を考察した。
マイクロソフト=Windowsの会社ではない
クルマの作り方が変わろうとする中、これからますますソフトウェアの比重が高まろうとしている。100年に1度の変革期と言われる中、このタイミングで自動車業界での存在感を増していこうとする企業も相次いでいる。
マイクロソフトも、100年に一度とされる自動車業界の変革期にチャンスを見出そうとしている企業のひとつだ。
マイクロソフトと言えばパソコン向けの基本OS「Windows」のイメージが強いが、2014年にサティア・ナデラ氏がCEOに就任して以降、もはやマイクロソフトの主力商品はWindowsではなくなった。WordやExcelといったOfficeソフトは販売モデルからサブスクリプション型に移行。また、パブリッククラウドサービス「Azure」はアマゾンの「AWS」としのぎを削っている。

現在、マイクロソフトが注力しているのが、あらゆる業界の「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」だ。さまざまなデバイスに通信機能とコンピューターを加えることで情報を集め、クラウドのAzureで処理することで、経営の効率化につなげることを得意としている。
マイクロソフトは自治体や医療、教育、建設、運輸などあらゆる業界にAzureとエッジコンピューティングを持ち込み、DXを促進している。

クルマのSDV化を支援するマイクロソフトのクラウド技術
自動車業界のDXにおいては、マイクロソフトはSDV(Software Defined Vehicle)向けソリューションを展開している。日本には自動車メーカーや関連企業も多いということで、グローバルの巨人であるマイクロソフトの中でも、日本市場に特化した部門や人材が配置されている。
ただマイクロソフトとしては、既存の自動車メーカーやティアワンメーカーなどと競合する製品を作る気はさらさらない。自動車メーカーやティアワンがSDVを開発する際の手伝いに徹するというスタンスだ。
マイクロソフトのコーポレーション 自動車・モビリティ産業担当である江崎智行ディレクターは「クルマに限った話ではないが、マイクロソフトがエンドツーエンドのソフトウェアを開発して提供することはない。マイクロソフトは、お客様がSDVを開発する際に足りないものを提供することで、お客様がSDVを製品化するお手伝いをしたい」と語る。
すでにマイクロソフトでは、ZFやボッシュなどのティアワン部品メーカーが中心となって設立した「The Eclipse Foudation」のSDVワーキンググループに設立時から参加している。欧州では非競争領域の開発においては企業が集まり、オープンソースで開発することで効率化に繋げている。
マイクロソフトとしても、Azureという同社のクラウドサービスを提供することで、ティアワン部品メーカーがSDVの製品化をしやすくするという環境を整備しつつある。
また、GMでは「General Motors Ultifi」というクラウドサービスが、マイクロソフトのAuzreを使って提供されるという。