SDV:ソフトウェア・デファインド・ビークルの実現に向けて、世界中のメーカーが開発競争を演じている。車載半導体のエキスパートであるNXPが考えるSDVとはどんなものか。それはどのように実現するのだろうか。
まもなく開催予定の無料オンラインセミナー「2030年自動車産業にこれから起こる潮流~SDV時代に向けて~」の開催前に、NXPジャパン株式会社 マーケティング部長 園田 慎介 氏に、セミナーの見どころを聞いた。
オンラインセミナー概要
2030年自動車産業にこれから起こる潮流~SDV時代に向けて~
開催日時:2022年12月13日(火)13:00~16:00 全6講演
申込締切:2022年12月9日(金) 12:00
参加費:無料
<1>2030年自動車産業にこれから起こる潮流
<2>SDV時代のE/Eアーキテクチャーと車載マイコン・プロセッサ
<3>電動化のトレンドとNXPのキーアプリケーション
<4>先行する車載向けUWBの市場状況と応用例
<5>SDV時代の自動車サイバーセキュリティ対策
<6>ソフトウェア・デファインド・ビークルとOTAの進化
E/Eアーキテクチャー 進化の方向性
---:セミナーのテーマであるSDVについてですが、現在大きな潮流が起きていますね。
園田:そうですね。単にEVや電動化だけではなく、車の中のシステム自体がより電動化されます。つまり、データとして扱うものが非常に多くなってきます。そのためには、車の中のアーキテクチャーも大きく変遷させなければなりません。
現時点でのプラットフォームは、どちらかと言えば全てのECUが個々に動作している、言わゆるフラット構造でありそれぞれのECU自身が個別の動作を行っている状態と言えます。
![SDV時代に向けてこれから起こる潮流とは – NXPジャパン[インタビュー]](https://response.jp/imgs/fill2/1824245.jpg)
一方、機能ごとに分散されたものをそれぞれにまとめあげて処理を行うドメインプラットフォームが最近始まっています。ドメインプラットフォームになると、データのやり取りも非常に簡略化されるようになりますが、各機能自体をドメインごとにまとめあげるという点において、車の中の配策や配線については大きく改善されません。
これを改善させるための構造として、ゾーンプラットフォームがあります。ゾーンとドメインとはどのように違うのかというと、これはもう一目瞭然で、車の中のゾーン化された領域について、ボディ系、パワートレイン系、ADAS、インフォテインメントなどの全ての情報を一元的にゾーンのゲートウェイの中に取り込むことによりデータの処理を行う仕組みです。
そのゾーン化の中で取りまとめた情報をセントラルコンピューターに送り、全体処理を行うという仕組みを作っています。
それによって、車の中で扱われる、特にリアルタイムの処理が必要なパワートレイン系やADAS系の処理においては、より高いレベルでこのソフトウェア・デファインが実現できるのではないかと思われます。
さらに、ドメインやゾーン構造は、車の中のデータ処理を効率化を実現するだけではなく、車の外との通信、要はクラウドとの接続をセキュリティやセーフティを十分に担保し実現することで、車両やユーザーが多様なサービスを享受できるようになると考えます。
---:はい。
園田:コネクティビティにおいては、ゲートウェイやネットワークが重要になってきます。車両の制御やボディ系の制御、それに伴うネットワーク処理が非常に重要です。
我々の車載事業で大きな柱となるのは、プロセッサ製品になります。自動車のEV化を含む電動化においては、多くのリアルタイム処理が必要とされ、それらを並行処理できるパワフルなプロセッサが不可欠です。NXPではそのようなタイムクリティカルな通信処理を可能とする専用のネットワーク・プロセッサー32Gと複数のリアルタイム処理を得意とするS32EやS32Zという新しいプロセッサ製品を導入することでよりリアルタイム性を重視した高度な処理が実現できると言えます。
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---:マイクロコントローラについても御社は高いシェアをお持ちですね。
園田:はい。現在、車載MCU/DSP/SoCを網羅するプロセッサ市場でナンバー1のシェア(Source: Strategy Analytics – March 2022)です。その中で一番大きな柱になっているのがネットワークプロセッサ、汎用プロセッサ、車両制御のパワートレイン系のシステムを含むプロセッサです。
半導体不足への対応
---:半導体不足と言われていますが、御社においてはいかがでしょうか。
園田:今一番供給が厳しい汎用的に使っているプロセス領域は、ひっ迫した状況が続いていますので、今後我々としてもプロセスノードを上げていくことにより、供給体制も整えていこうと考えています。またファウンドリとも協調していきます。
最近では、供給のひっ迫は徐々に緩和してきている状況にあるかと思いますが、アナログ系のレガシー製品も供給が厳しいと言われています。
---:御社はアナログ半導体のラインナップもありますよね。
園田:持っております。我々はオートモーティブ用のプロセッサは、もともと非常に強いポジションにいるのですが、それ以外にも汎用アナログ製品からRF製品まで、非常に広い範囲の製品があります。
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電動車のパワートレインでは、モーター制御やバッテリー制御も必要です。そのような領域のアナログ系の製品も潤沢に取り揃えております。
ネットワークプロセッサの要件
---:ネットワークプロセッサについてはいかがでしょうか。
園田:我々の製品ラインナップでは、パワートレイン系やリアルタイム系の領域として前述のS32Z/Eというものがあります。通常の汎用ECUやレガシーのコンポーネントに対する汎用プロセッサに関してはS32Kシリーズがあります。また、それぞれのネットワークを支える専用のネットワークプロセッサとしてS32Gを展開しています。
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車の中で多くのデータを扱うようになってくると、広帯域で高速なデータをリアルタイムに扱うようになってきますので、ネットワークプロセッサが非常に重要になってきます。当然、ドメインやゾーンから上がってくるデータ情報を一元化し効率よくて取り込む上においても重要です。
車内通信においてはCANだけではなく、イーサネット、マルチギガイーサネットを含め、非常に広帯域で高速のデータネットワークを使ってデータを処理する必要があります。S32Gはそれらを効率よく低遅延で通信を行う専用のプロセッサと言えます。
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このネットワークプロセッサはゲートウェイ通信用機能として十分な各種車載インターフェースと、PFE(Packet Forwarding Engine)やLLCE(Low Latency Communication Engine)といったネットワーク向けのアクセラレータを持っており、あらゆるニーズにも対応できる製品と言えます。
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タイムクリティカルなデータを送らなければならないので、当然低遅延である必要があります。イーサネットに関しても、パケットごとのデータ処理効率が要求される状況においてPFE、CAN/LINなどのトラディショナルなネットワークに関してもLLCE機能を用い、低遅延通信を可能とする高速なネットワークソリューションが実現できます。
もちろん、走る・止まる・曲がるといったクルマの根本にかかわるデータ処理が求められますので、ASIL Dの機能安全は元より機能冗長性を持ちながら、セキュリティ性も確保しています。
リアルタイム系への対応
---:リアルタイム系のソリューションはいかがでしょうか。
園田:リアルタイム処理は、ソフトウェア・デファインド・ビークルにおいて非常に重要な要素になってきます。
走る・止まる・曲がる、という領域に対するデータは、常にリアルタイム処理が要求されてくると同時に、非常に膨大なデータが常にやり取りされる状況にもなってきます。
その結果、高速なリアルタイム処理が実現できるプラットフォームへの要求が高まり、それに伴うアーキテクチャーの最適化が求められると考えます。
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個々の機能で言えば、各種安全処理やブレーキ、ステアリング、トラクションコントロール、横滑り防止用の装置、トラクションモーター制御のようなものが想定されます。
またバッテリー制御やバッテリーのモニタリングも非常に重要になってきます。充電管理であったり、電池の消耗管理であったり、各セルごとの充電制御も常に管理をしなければなりません。
そういったリアルタイム系データに対する解析機能も要求されてきていますので、そのような機能も含めてリアルタイム処理が実現される必要があります。
そのような状況の中で、S32ZもしくはS32Eという製品は、xEVに関するECUの統合を実現するもので、各機能ブロックがリアルタイム系の処理をひとつのプラットフォームで処理できるというものです。
例えば、モーター、インバーター、BMSのECU、DC/DC、オンボードチャージャーのECU、またエンジンやパワートレイン系のECUも含めて、それぞれが確実にアイソレーションされて、リアルタイム系のデータ処理ができなければならないので、一般的にはこのマクロ系のドメインコントロールの中にそれぞれの信号が入った形で処理をされていたのが、これまでの方式です。
それを今回のS32Z/Eというプロセッサを用いることで、バーチャル・マシンを使った形での並行処理が可能になります。当然、Hypervisorを用いる形になります。、S32Z/Eの中にはArm Cortex-R52コアが4系統入っています。ロックステップ構造になっていますのでR52コアは実質この倍の8個という事になります。
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それぞれのリアルタイムで要求される処理機能を各アイソレーションブロックの中に組み込む形になります。
それぞれのプロセッサに使われるOSも、異なるOSのプラットフォームをHypervisorに乗せることによって並行使用ができるということが、大きな強みの1つになります。かつ、それぞれの機能自体が完全に切り離すことが可能です。
これにより、タイムクリティカルな車両データの処理の一元化処理が実現可能になります。これが実現できることで、これまでそれぞれの各ECUを介して処理中心であったハードウェアドメインの領域から、ソフトウェア・デファインな構造へ、より高いレベルで実現できます。
---:ECUをまとめることによって、中央化とコストダウンを両立するということでしょうか?
園田:そうですね。1つはアップインテグレートという考え方です。通常は各機能毎のECUで処理されていたものが、ゾーン化になるとそれぞれの機能自体の集約をしなければならないようになってきます。
この集約すべきECUを1つの大きなゾーンプラットフォームにすることにより、処理の効率を上げていくということと、本来大変クリティカルなシステムなので、プラットフォーム上で今まで分散化されたものが集約可能になり、配策も含め最終的にはシステムのコスト効率が上がると考えます。
無料のオンラインセミナー「2030年自動車産業にこれから起こる潮流~SDV時代に向けて~」は12月13日開催。詳細・お申込はこちらから。