特許から読み解く22年の自動運転市場…日本政策投資銀行 産業調査部 前川大氏[インタビュー]

特許から読み解く22年の自動運転市場…日本政策投資銀行 産業調査部 前川大氏[インタビュー]
  • 特許から読み解く22年の自動運転市場…日本政策投資銀行 産業調査部 前川大氏[インタビュー]

自動運転を「無人タクシーが街中を走り回っている」イメージで捉えると、まだまだ先のことで実感が湧かないかもしれない。しかし、足元をみるとレベル3の車両は商用化されレベル4も市販車両に実装されようとしている。

利用者レベルでは大きな動きが見えにくい自動運転だが、水面下ではさまざまな技術革新やトレンドの変遷が起きている。どんな技術が有望で、どんな応用が広がるのか、全体像を掴むのも簡単ではない。技術動向やその価値の指標として、特許を利用する方法があるという。そう語るのは、日本政策投資銀行 産業調査部 産業調査ソリューション室 副調査役 前川大氏。

前川氏は1月28日開催のオンラインセミナー 「2022年自動車業界展望~CES2022調査報告・市場動向と技術トレンド~」で、自動運転に関する業界動向、今後の業界予測、課題について講演を行う。

どんな内容なのか、セミナーに先立ちインタビューを行った。

新型コロナは自動運転市場にも影響

――さっそくですが、21年までの自動車業界の動向はどう分析されていますか。

前川氏(以下同):21年に入り、全体として新型コロナによる影響からは回復基調にあるかと思います。しかし、深刻な半導体不足や東南アジアでの新型コロナ再拡大による部品供給制約等によりOEM各社は生産調整を余儀なくされ、需要は回復しているものの供給が追いつかない状態が続いています。需要はあるので作れば売れる状態といえますが、米中摩擦、オミクロン株、寒波やエネルギー問題など不確定要素もあります。

――新型コロナの拡大以降、自動車産業のあり方も変化してきているかと思いますが、今後の変化についてどのように考えていますか。

新型コロナによる社会や市場の変化は、ポストコロナ社会においても継続すると考えています。巣ごもり需要で拡大したEコマースは、ラストワンマイル輸送の増加、ドライバー不足など物流にも影響を与えています。こうした変化が自動運転の社会実装を後押しする可能性があります。

――自動運転は自動車産業全体でも大きいトピックになるということでしょうか。

CASE革命では、自動運転(A)はそのひとつの要素ですが、個別の技術やトレンドとしてではなく、それぞれを複合的に考える必要があります。自動運転はコネクテッドなしには成立しないですし、制御技術は電動化(EV)とも相性がいいです。自動運転や電動化は車両価格を押し上げることにもなり、車の所有からリース、シェア、サブスクリプションといった利用への流れも進んでいくと考えています。

自動車産業全体では、CASEの動きによってソフトウェアの重要性がさらに高まるでしょう。年始に車載ソフトウェア基盤のひとつトヨタ アリーンの外販について報道がありました。自動車の価値は、車両プラットフォームにエンジンやサスペンションなどのハードウェアコンポーネントの組み合わせや機能だけでなく、車載ソフトウェア基盤(ビークルOS)をベースに、必要なハードウェア機能やセキュリティ、サービスアプリケーションの組み合わせで決まるものになります。自動運転もそのアプリケーションの一つということになります。

22年は制度面でも動きがある

――自動運転は、商品技術であると同時に社会的技術としての側面も強く持ちます。自動運転の社会実装について22年の動きはどう見ていますか。

22年は国内でもレベル4自動運転を見据えた法整備の動きがあります。ドイツは動きが速く、21年5月にはレベル4公道運転を可能にする法改正が行われました。ホンダが世界初となるレベル3車両を市販しましたが、各国もレベル3、レベル4を見据えた動きをしており、中国は2030年までにレベル4~5の実用化を掲げています。

自動運転は、技術的課題だけでなく法整備や社会受容の問題が常につきまといます。自動運転によって、移動の効率化、交通事故の減少、駐車場問題、地方交通問題、ドライバー不足への対応などさまざまな恩恵が期待できます。反面、ドライバーの雇用や失業問題、事故の責任所在、コネクテッドカーのセキュリティ対策などの課題も指摘されています。

これらの課題に対しては官民が連携してバランスよく進めていく必要があります。インフラ整備・法整備は官、技術開発は民とうまく連携・配分ができればよいと思っています。

特許評価でどんな技術が延びるのかを探る方法

――その場合、企業が注目すべき自動運転技術はどのようにして確認すればよいのでしょうか。

技術動向の分析を通じ、どのような技術への注目が集まっているか確認することが可能と考えています。そのひとつとして、特許を元にした技術価値分析についてご紹介させて頂きます。これまで、特許による分析は取得件数を指標にすることが多かったのですが、それでは技術(特許)の価値まではわからず、その国や企業の注力分野がわかる程度でした。しかし、特許が引用される件数や出願国の市場規模など、複数の要素に重みをつけて分析すれば、その特許の価値を定量化できます。さらにテキストマイニングにより技術分野を特定・分類することで、分野や技術ごとの価値や動向もわかります。

――なにか事例で説明できますか。

事例の詳細はセミナーでお話しできるかと思いますが、当行では国際的な特許分析企業と連携し、上記の様な分析を実施しています。例えば、自動運転に関する特許を分析すると、2000年代半ば頃はパーキングアシストに関する特許の平均価値が高かったことがわかります。一方、現在ではマップインフォメーションに関する特許の平均価値が上がってきています。

パーキングアシスト関連の特許はOEMが強く、マップインフォメーションではソフトウェアベンダーやサプライヤーが強いという傾向も確認されました。

また、隊列走行について調べると、ドライバーアシスタント、レーンキープなど車を動かす領域の技術と、IVC(Inter Vehicle Communication)と呼ばれる車両間通信技術の2つの領域が浮かび上がりました。

このようなトレンドを定量的に把握することで、自社にとって注目すべき技術動向の把握、開発手法や市場スタンスの取り方に役立てることができるでしょう。

――なるほど。自動運転といっても単にAIをやればいいというものでもなく、関わる技術や産業も広いわけですね。

前川氏が登壇するオンラインセミナー 「2022年自動車業界展望~CES2022調査報告・市場動向と技術トレンド~」は1月28日開催です。
《中尾真二》

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