エネルギー分野と自動車分野の連携による新たなビジネスチャンスとは…関西電力 西村陽・大阪大学 太田豊[インタビュー]

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カーボンニュートラルに向けて、発電の再エネ化だけでなく、電力システムの100年ぶりの転換が求められる。電力業界とEVの協調であるVehicle Grid Integrationとは何かを聞いた。

西村氏は、12月24日開催のオンラインセミナー エネルギー分野と自動車分野の連携による新たなビジネスチャンスに登壇し詳説する予定だ。

話し手:
大阪大学大学院 工学研究科 招聘教授
早稲田大学 先進グリッド研究所 招聘研究員
関西電力 ソリューション本部 シニアリサーチャー 西村陽(にしむらきよし)氏

FITの失策とその影響

---:これまで日本では再エネ化が進んでこなかった理由は何でしょうか。

西村: 日本の場合、再生可能エネルギーの中心は太陽光になります。ソーラーパネルを普及させるため、2012年からFITとして高値で買い取られてきた太陽光由来の電力は、買取価格が徐々に引き下げられるとともに、発電量も減り続けました。

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買取価格の低下に伴い利益率も低くなってしまったため、投資対象からは外れ、今では銀行も融資してくれません。さらには、災害などで使用できなくなったソーラーパネルが放置される問題も起きています。ソーラーパネルは定期的なメンテナンスやリプレイスをする必要があるのですが、利益にならないためそれができなくなっているのです。

もし新たにソーラーパネルを設置するとしても、場所を探すのが困難です。新たなメガソーラー計画も、地域の反対運動が起きており難しい状況です。政府は2030年に再エネ36%~38%という目標を掲げていますが、達成は極めて難しいといえます。

---:となると、カーボンニュートラルを達成するためには原子力ということになるのでしょうか。

西村:そもそもカーボンニュートラルが本当にできるのかという話です。現状、世界でも実現できそうなのは、水力発電がほぼ100%であるノルウェーや、バイオマスと水力発電でほぼ100%のワシントン州などに限られています。

いっぽう日本では、原子力を復活させ、再エネも増やし、火力発電はアンモニアと水素を入れるというシナリオにはなっていますが、そんなに簡単ではないのが現実です。

---:フランスは原子力発電が7割以上ですね。

西村:日本でわずか30年で原子力発電を7割以上にするというのはいかにも現実的ではありません。

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蓄電池としてのEVの役割

---:とはいえ、住宅やEVなど、需要側の脱炭素化は進み始めている状況です。

西村:経団連は、(需要側の)電化からまずやるべきだと言っています。特に家庭やオフィスの電化、自動車の電動化です。マンションが一度ガスやプロパン前提で建ってしまったら、30年間はCO2を出し続けるので、これを先取りしてやっていかなければいけないということです。

そしてEVについては、現在、需要側フレキシビリティといって、需要側の電力利用をピークシフトする取り組みが世界中で広がっており、この主役の一人になっています。

---:EVを蓄電池として利用するということですね。

西村:ユーザー側も、自分で保有するソーラーパネルやEVを活用して、エネルギーの調整力になったり、エネルギーをネットワーク側に売るということができるようになっていきます。

また、大電力で充電すると設備量に対する料金が掛かるところ、電力ネットワークの負担にならない時間帯に充電すれば設備料金をゼロにするという検討もされています。

エネルギービジネスは、オールドエナジーからニューエナジーへと変化しています。電力システムは変わりつつあり、脱炭素のためにも、今のうちからルールメイクをしてEVの電力系統への導入を進めようというのが全体像です。

---:再エネは変動が大きいので、EVを蓄電池代わりに利用して、その変動をうまく吸収するということですか

西村:それもありますし、逆に、皆が同じような時間帯にEVを充電すると、(電力が過大なので)電力系統が落ちて停電してしまうことがあるので、きちんとルールメイクをしなければいけないという問題もあります。

---:EVのバッテリーは、家庭用蓄電池よりもかなり大きいですから、電力のコントロールが必要ですね。

西村:そうなんです。EVをうまくコントロールすれば、送配電設備をよりスリムにできます。ネットワークコストを抑えて国民の負担を軽くできる可能性もあります。

またSDGsへの取り組みから、EVをフリートで所有している企業も増えていますので、何台かのEVをまとめて蓄電池に利用できれば、電力システムに大きな貢献になります。そういうことも含めて取り組んでいくことになります。

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自動車業界と電力業界は街でつながる

話し手:大阪大学大学院 工学研究科 モビリティシステム共同研究講座 特任教授 太田豊(おおたゆたか)氏

---:今回のセミナーでは、EVと電力業界の協調についてお話しいただくとのことですね。

太田:電力業界と自動車業界は共に100年に一度のトランジションを迎えています。このタイミングで、自動車産業はモビリティから街づくり、エネルギーの領域へとその領域を広げつつあります。EVを街に普及させ、テスラのように家とセットで売ったり、スマートシティのように、移動の利便性と快適性とクリーンさをコンセプトとした街づくりが始まっています。

いっぽうの電力業界は、充電インフラの整備や、モビリティサービスを手掛けるなど、自動車業界と互いに近づくように動き出しています。

これら電力業界と自動車業界は、EVのもつ蓄電池としての機能を充電インフラのひとつとして活用するという形でつながっていきます。

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---:EVのバッテリーは、蓄電池としても活用できるほど大きいですよね。

太田:そうですね。EVを蓄電池として利用し、電力調整力として活用するためには、バッテリーの状態のデータが何よりも重要です。どこでどれくらい走っていて、どれくらい電気が必要で、どれくらいのエネルギーを残しているのか、というデータが蓄電池の観点ではすごく大事です。

こういったデータは、EVのテレマティクスのデータを見なければわかりません。現状では自動車メーカーが握っているデータですが、このデータをどうやって流通させ、EVと街のインテグレーションのきっかけにするかというポイントが大事だと思います。

ビークル・グリッド・インテグレーションとは

---:そういったデータを利用したビジネスの事例はあるのでしょうか。

太田:プラグアンドチャージ、スマートチャージ、フリート&エネマネ、フレキシビリティプラットフォームなどのビジネスの事例がありますが、現時点では欧州が先行しています。これに追いつくためには、自動車業界と電力業界の両方がWin-Winの体制を早く描いて、未来を想定することが大事だと思います。

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EVと電力網を統合するVehicle Grid Integration、これによって、電力調整市場への参加や、充電コストの低減、またフリートのTCO(Total Cost Ownerships 総保有コスト)の低減が可能になります。そして、そこからさらに発展し、両業界で街をつくるという観点のソリューションがあるのではないかと考えます。

両業界は、社会インフラを作るという同じ観点から、ビジネスモデルの垣根を超えて、暮らしと移動の利便性を提供するスマートシティ・まちづくりをしようとしています。スマートシティにおけるライフスタイルの変革を提示し、カーボンニュートラルの方に意識を向けてもらうためには、両方の業界の英知を結集した新しい街をつくるのが一番ではないかと感じます。

---:欧州ではVehicle Grid Integrationによって、いろいろなビジネスが出てきているという話がありましたが、日本でその分野が遅れている理由は、単純にEVのシェアが少ないからでしょうか。

太田氏:明確にそうだと思います。EVのシェアが上がらないと、電力側からすると、調整能力としてEV普及が期待できないですよね。再生可能エネルギーとEVという条件が両方揃った地域から、こういったビジネスが始まっている気がします。

---:それが両立しているのが欧州なのですね。

太田:欧州も全体がそうだというわけではありません。風力とEVのシェアが大きいイギリスやデンマーク、水力発電が多いノルウェーなど、局地的です。気象条件やライフスタイルの特徴などもあると思います。

---:日本は再エネもEVもどちらも遅れていますが、先行する市場に離されないように、今のうちからきちんと未来をイメージして動きだすべきですね。

太田:そうです。専門家として見ていると、5年~7年遅れで必ずトレンドが来ると思います。

---:EV購入時の補助金が倍増しますし、軽のEVも出る予定です。その売れ行きが好調なら、消費者側の意識も変わるかもしれません。

太田:私もそう思っています。まずはEVを買って、乗るところから始まると思いますが、せっかく大きなバッテリーを積んでいるのですから、停車しているときも使い倒さないともったいないと思います。停車時の価値を向上させるという、これまでのFun to Driveではない部分をどうやってアピールしていくかということが重要です。

太田氏は、12月24日開催のオンラインセミナー エネルギー分野と自動車分野の連携による新たなビジネスチャンスに登壇し詳説する予定だ。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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