EV時代の「自動化」が意味するもの
---:EV時代のモビリティの進化の先に「自動化」を挙げられています。具体的にはどのような意味なのでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 川原英司氏:自動化というのは、自動運転だけを指すのではありません。お客様がいま置かれてる状況を認知し、それに対して、どういったサービスを提供すればよいのかを自動的に判断し、サービス提供がなされるという「サービスの自動化」もあります。IoTの世界ではこのような方向性は一般的です。IoTで車以外の様々なモノが繋がり、その繋がったデータ基盤の中でサービスが行われ、その構造に自動化が加わる世界になるということです。
---:例えば、移動ニーズが高いエリアに配送のシャトルを多めに回したりなど、そういったことでしょうか?
川原氏:配車のアルゴリズムが自動化されることもそうですし、さらに進化すれば、お客様の置かれているシーンや好みを自動的に判断し、リコメンドするというようなことも含め、様々なことが自動化されます。IoT/CPS*化されているからこその自動化ができるということです。
*CPS:Cyber Physical System。実世界(フィジカル)のデータをサイバー世界で分析し、フィジカル側にフィードバックすることで付加価値を創造する仕組み
ハードとソフトが分離、プラットフォーマーを狙う動き
川原氏:こういった世界の中で、車のハードウェアはソフトウェアと分離し、その結果、新しい製品開発のビジネスモデルが出てきています。
現在は、自動車メーカーが車両全体をインテグレートし、部品メーカーが組込みソフトとともに自動車メーカーに部品を提供しているという関係ですが、(EV化に伴い)メガサプライヤーがソフトウェアプラットフォームを用意し、それに組み込むハードを揃えて車両全体としてインテグレートしていくという形もあり得ます。
また、よりオープンに部品やシステムの実装を容易にしたプラットフォームも出てきています。このような開発環境が用意されれば、新規参入のベンチャーや異業種も含め、このプラットフォームを使いさえすれば比較的容易に車が開発できるようになり、ハードやシステムの選定もそのメガサプライヤーやオープンプラットフォームのコンソーシアムの部品も含め容易になります。オープンプラットフォーム型の例では、開発する企業が増えればその車両の「量産」を請け負うというビジネスも拡大するという戦略とも考えられます。
EVにおけるサーキュラーエコノミー
川原氏:今までのやり方でEVを作っても、収益を出すのが難しくなっていきます。車の構造も、造り方も、ビジネスモデルも変革が求められており、そのうちの1つとして、サーキュラーエコノミーの実装があります。特にEVの電池では、欧州グリーンディールの中で「サーキュラーエコノミーアクションプラン」の中の取組みとして、EVバッテリーや産業用充電池を対象に、カーボン・フットプリントの申告を2024年7月1日から義務化する規則案が発表されています。
このような規制案は義務でもありますが、同時にサーキュラーエコノミーというのは、無駄を富に変えるという意味もあります。稼働していない車両のバッテリーを使ってサービス化したり、バッテリーをリユースするなど、バッテリーの価値をライフタイムで向上させていく取組みが必要です。
---:車の稼働率が低いことも、確かにムダと捉えることもできますね。
川原氏:そうですね。クルマは90%くらいは稼働してないので、クルマの中にある100万円以上するバッテリーが眠っている状態とも言えます。これは無駄なので、モビリティサービスに利用して稼働率を上げたり、電力グリッドに繋いでエネルギーサービスとして使うなど、非稼働時間を最小化しようという考え方ですね。そのうえで、どのような時間帯やシーンではどのサービスに活用すべきかなど、オペレーションを最適化することをしっかり考えなければなりません。
バリューチェーンのあらゆる段階でイノベーションが起こる
---:このような新しいビジネスが、バリューチェーン全体で必要だということですね。
川原氏:バリューチェーンイノベーションは各レベルで必要となります。例えば、車のハードウェアについて、コアとなるボディフレームを標準化して、外装パネルは自由に張り替えられるようにすれば、今までにないカスタマイズが提案できるでしょう。
またクルマの企画・設計開発では、E/Eアーキテクチャ、モジュラーアーキテクチャのコンセプト、ソフトウェアやサービスの開発のところではシミュレーションを駆使したモデルベース開発やアジャイル開発、製造においては、デジタルツインを活用してPoCをアジャイルに回しながら継続進化する生産ラインなど、いくつも挙げられます。
また、バリューチェーンがデータで連携しつつ分断される構造になるからこそ、それぞれのバリューチェーンレイヤーで最適なプレイヤーを組み合わせることもできるようになります。
イノベーションなしにEVは成立しない
川原氏:このようなことを実現するためには、ソフトウェアの開発リソースの必要性が加速的に高まり負荷が大きくなっていきます。それゆえ、これまでのやり方を変え、効率よく外部を使ったり、内側の開発の仕方も簡単にしていかなければ成り立たなくなっていきます。プラットフォーム化し、オープン化しないと、この競争優位を保てなくなるでしょう。
ここでポイントになるのが、車載OSを含めた統合開発環境です。この車載OSを使えば、簡単に搭載モジュールやソフトウェア開発ができ、車に実装できるようになる、といった開発環境が重要です。
---:スマートフォンのアプリの開発環境を連想しました。やりたいことに対して、機能ごとにSDKやライブラリが用意されていて、それを組み合わせたり改変したりして開発していく、ということですか。
川原氏:そうですね。さらに言えば、そういった開発環境で開発される車をしっかりメンテナンスできるプラットフォームがいずれ求められると思います。ライブラリのソフトのバージョン管理や、それと連動する車側のバージョンも管理しつつ最適なOTAをかけていく、といったことが求められるようになると思います。
IMFが提案する途上国支援の仕組みとは
---:外的要因として脱炭素の動きもありますね。
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー 山中鋭一氏:ちょうどCOP26が開催されていましたね。岸田首相が今回、アジアなどの脱炭素を巡る技術革新に、5年間で最大100億ドル(約1兆1000億円)の追加支援をすると表明しました。しかしながら、 各国のCO2削減目標、日本で言うと2030年までに46%削減という目標ですが、その他の先進諸国がコミットしている目標、および途上国への資金提供による削減目標が達成されたとしても、地球温暖化をプラス1.5度に抑えるというCOP26のルールはおろか、プラス2度水準にすら達しないという状況です。
そのような状況に対して、IMF(国際通貨基金)からの提案がなされています。インターナショナルカーボンプライスフロア(ICPF)というもので、高所得国は温室効果ガスの排出1トンあたり75ドル、中所得国であれば1トンあたり50ドル、発展途上国になると1トンあたり25ドルを拠出するものです。日本は高所得国にあたり、中国などは中所得国に入ります。
ここで日本の排出量を見てみると、10億トンを超えるくらいなので、これに75ドルをかけると約800億ドルになります。
---:規模が全然違いますね。
山中氏:そうですね。もしこれを世界中で一緒にやりましょうという話になれば、我が国としては800億ドルを我が国のオペレーションから集めて来なければなりません。
---:その800億ドルは何に使われるのですか。
山中氏:先進国が集めたお金を、中所得国や低所得国での脱炭素活動の推進や影響を受ける産業や家計への支援のために使っていくことになります。先進国が発展途上国に対して資金を出すという行動自体は、100億ドルの追加支援と同じなのですが、ただ金額が全然違うので、非常に大きなインパクトになり得ると考えています。
もちろん、最終的にやることになった場合には、少なくともその資金管理は透明性が高く、かつ安全でなければならないということが条件になってきます。
---:そこまでやれば、目標に対して十分な効果があるということなのでしょうか。
山中氏:はい。いくつものシナリオを分析した結果、このICPF導入がされれば、各国のコミットメントが実現した後の削減量からさらに、最大で12.3%を削減できるのではないかと考えています。
これは確かに大きな金額ですが、全世界的な視点で考えれば、地球温暖化の結果生じるであろう社会的コストを勘案すると、充分に元は取れるのではないかということや、徴収した資金を、CO2削減によってビジネスにダメージを受けてしまった方々に支援するということもできます。そして最も大きいのは、この提案と分析結果が、政策立案者をはじめ色々な人たちが検討する時の材料になるのではないか、ということです。
---:なるほど。しかし各国が足並みをそろえるのは難しそうですね。
山中氏:そうですね。この取組みは各国が一致してやらなければ意味がありません。ある国は75ドルで合意したとしても、とある国は、先進国ですが75ドルは払えないので50ドルにします、という話になると、期待している効果が出ないということになってしまいます。
---:この提案の実現は、どれくらいのリアリティがあるのでしょうか。金額が大きすぎて飲み込みにくいのですが。
山中氏:そうですね。これはCOP26ですら各国首脳の足並みが揃っているわけでもないので、不確実な状況の中ではありますが、IMFが提案したことですので、我々としても示唆の提供ということで分析しているものです。確度という意味では正直分かりません。
---:なるほど。いずれにせよCOP26以外にも、このようなグローバルな取組みが始まってきているということですね。
山中氏:そういうことですね。例えば自動車産業においても、CO2の排出量の削減に向けた活動が始まっています。ゆえにCO2を削減することは、経済的な観点からも非常に合理的な行動だということになります。
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