自動車向け半導体不足の構造的な要因を読み解く…日本政策投資銀行 産業調査部 調査役 佐無田啓氏[インタビュー]

自動車向け半導体不足の構造的な要因を読み解く…日本政策投資銀行 産業調査部 調査役 佐無田啓氏[インタビュー]
  • 自動車向け半導体不足の構造的な要因を読み解く…日本政策投資銀行 産業調査部 調査役 佐無田啓氏[インタビュー]
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半導体不足が経済全体に大きな影響を与えている。もともと米中対立による半導体規制から始まった需給ギャップが、コロナ禍によって深刻化したものだ。車載向け半導体不足の構造的な要因とこれからの展望を、日本政策投資銀行 調査役の佐無田啓(さむたひろむ)氏に聞いた。

佐無田氏は、11月16日開催のオンラインセミナー 車載向け半導体不足の影響と今後の見通しに登壇し詳説する予定だ。

---:半導体が不足するようになったそもそものきっかけは何だったのでしょうか。

佐無田氏:最初のきっかけとして、2015年からの米中対立があると考えています。中国が「製造2025」を打ち出して以降、米国のトランプ大統領による2016年のZTE規制、JHICCという中国のメモリーメーカーに対しての制裁、さらには米国製半導体製造装置の販売停止という措置がとられました。

米中貿易摩擦と並行して、2019年頃に中国や新興国を中心とした景気減速により自動車市場が落ち込みました。さらに、半導体関連の米中貿易摩擦が深刻化するなか、2020年12月には車載用等に用いられる28ナノから65ナノの製品発注が、中国の主要ファウンドリであるSMICから台湾のTSMCにシフトしていく動きがありました。

そして車載用の半導体不足については、2020年の夏ごろから新型コロナの影響で新車販売が落ち込み、そのため半導体の注文を自動車業界側が減らしたことがきっかけです。

当時は巣ごもり需要が起き、パソコンやタブレット、ゲーム機器などの需要が伸びてきており、自動車向けの失注を補う形で、コンシューマー機器のメーカーからの発注が増えていたという状況でした。

その後自動車の販売台数が徐々に回復をしてきたのですが、半導体自体はすでに売り先が決まっていました。

そういった状況に追い打ちをかけたのが、そのころ続けて起きた災害です。まず2020年10月に旭化成の工場火災が発生しました。その供給不足をルネサスと富士電機が代わって受託することで問題の長期化が避けられるかと思いきや、2021年3月にルネサスの工場で火災が発生します。この災害で数万台の自動車の生産に影響すると言われていました。

その後さらに、米国のテキサス州・オースティンで寒波による停電がありました。現地のサムスンとインフィニオン、NXPの半導体工場が止まり、これによって2021年に150万台から200万台ほどの自動車生産に影響するという予測が2021年春にはもう出ていました。

自動車向けの半導体が旺盛な需要で不足をしているという状況の中、災害による供給減が最後のとどめを刺してしまったのです。

自動車向け半導体不足の構造的な要因を読み解く…日本政策投資銀行 産業調査部 調査役 佐無田啓氏[インタビュー]自動車向け半導体不足の構造的な要因を読み解く…日本政策投資銀行 産業調査部 調査役 佐無田啓氏[インタビュー]

そもそも、生産サイドにもこのような状況を招いた要因がありました。中古の半導体製造装置の流通量が少なかったのです。

手っ取り早く製造装置を集めるには、中古機器を購入すれば早いのですが、 200ミリウェーハの中古機器がそもそも流通していませんでした。中国において監視カメラ向けなどの生産を増やすために、積極的にそれらの機器が買い集められていたといわれています。そのため生産サイドは、機器の購入による生産拡大という対応を取ることができませんでした。

また、新しい機器を購入して工場を立ち上げる場合、半年から一年ほどのリードタイムが必要となります。

もう一つの要因として、半導体メーカー側の投資姿勢があります。新たな設備投資は、5ナノなど収益性の高い先端プロセス向けの投資が中心となり、おもに車載に使われる20ナノ~40ナノといったノードには各社慎重な姿勢を示しています。

半導体業界はこれまで、シリコンサイクルと言われている大きな供給過剰と供給不足の波に翻弄されてきました。投資をして増産したとたんに、供給過多で値崩れし大きな損失を被るというパターンです。そういった経験が、各社を慎重にさせているのです。

---:では、この半導体不足の状況が解消するのはいつ頃になるのでしょうか。

佐無田氏:来年の中ごろまでは不足が続き、車両の生産に影響が出るという見方をしているアナリストが多いです。

問題の解消に向けては、生産サイドの生産能力が徐々に増えていくことと、リモート機器などのコロナ特需がピークアウトし始めており、供給と需要の両面で解消に向かっていくと捉えています。

---:まだしばらくこの状況は続きそうですね。

佐無田氏:そうですね。足元では東南アジアに集積している後工程関連の半導体製造に新型コロナの影響が出ています。これは主に東南アジア、マレーシアにおけるロックダウンの発生によるものです。

ウェーハから半導体を切り出しチップに組み立てていく工程が後工程になるのですが、主にマレーシアにおける後工程工場の稼働率が落ちてきています。このことが出荷の遅れにも影響をしています。

そんな中、値上げに関しては各社受け入れざるを得ない状況になっています。今年度の交渉についてはほぼ終了したと言われていますが、300ミリウェーハのファウンドリでは10%から15%の値上げに落ち着くと言われています。

これまでは価格と品質と納期の部分で、ある程度均衡が取れて落ち着いていましたが、今回の半導体不足でその均衡が崩れたのではないかと思います。

---:つまり、売り手側が強い状況ということですね。

佐無田氏:そうですね。先日TSMCが今後の投資について、3年で11兆円という莫大な金額を発表しました。それと同時に8月以降の調達について一律20%の値上げにするという通達がなされていますが、こういった部分を見るとかなり売り手側の圧力というものは強まっており、値上げはこれだけでは済まない可能性もあるかもしれません。それを見越した対応が自動車メーカーに求められています。

来年以降もTSMCは需要の8割程度にしか応えられないと予想されておりますので、引き続き売り手が強い状況が続く可能性があります。

---:今後の半導体市場の全体はどうなるのでしょうか。

佐無田氏:今年については半導体全体の売り上げが591億ドル、昨対比で26.9%の上昇と予想されています。

その後、調整局面を2023年くらいに迎えると言われているのですが、それを加味すると2021年から2025年にかけて年間ひと桁%の成長が半導体市場全体で予測されています。

車載向けに関しては2021年から2025年にかけて年平均成長率で16.3%程と言われております。高成長の背景としては、自動車に搭載されるソフトウェアの付加価値が高くなっていることがあります。これにより、自動車一台あたりに搭載される半導体の数が増えてきています。

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---:車のIT化に伴い、より高度なチップの必要性が増していくということですね。

佐無田氏:はい。その必要性に対し、例えば同じ部品を調達するサプライヤー同士で連携をして、買い手側の購買力を高めるという方法もあると考えます。

しかし、最終的に金額的に折り合いがつかないという場合、一定程度政府がサポートをすることなどにより、需給のギャップを解消することが議論されると思います。

投資に慎重なファウンドリサイドと旺盛な需要というギャップは今後の前提となる可能性があります。こういった状況が新しい定常状態ととらえて対応を検討することが重要となります。

佐無田氏が登壇するオンラインセミナー 車載向け半導体不足の影響と今後の見通しはこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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