ミュンヘンは盛り上がっていたのか?…IAAモビリティ2021をふりかえって

IAAモビリティ2021現地最終レポート
  • IAAモビリティ2021現地最終レポート
  • ZF:HPCプラットフォーム(統合ECUを構成する)
  • 欧州セキスイが自社製品によるインテリアやコックピットまわりのデモカーを制作・展示
  • ルノー・メガーヌEV
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  • IBMのAIソリューション
  • クアルコムの5G、6Gの通信モジュール
  • クアルコム:スナップドラゴンによるエッジコンピューティング応用例

ドイツミュンヘンで開催された「IAAモビリティ2021」が閉幕した。脱炭素や電動化に湧くEU市場で、新しいモーターショーはどう変貌を遂げたのか。盛り上がりはどうだったのか。現地取材ならではの視点で全体の特徴をまとめたい。

テーマを大上段に構えると盛り上がらない

近年、各地のモーターショー開催ごとに「あり方」や役割の変化が議論の的になる。MaaSやCASEといったビジネストレンド、技術革新が少なからず自動車業界に影響を与えている。今回はパンデミックという世界的な行動変容とカーボンニュートラル・脱炭素の動きが相まって、従来型モーターショーモデルの改革が進んでいる。

ひとつが「モビリティ」をイベント名に冠し、自動車プロダクツだけではないテーマを押し出している。しかし、モビリティや環境問題など、大上段に構えすぎるとテーマや視点がぼやけやすい欠点がある。結果として理屈っぽい説教みたいな展示やコンセプトがならび、ビジネスとしてはプロダクツや出口が見えなくなる。盛り上がりに欠けるイベントになりがちだ。

しかし、現地で取材するとそのような印象はなかった。GM、ステランティス、日本勢の参加がなく、主要OEMもコンセプトカーや目玉はすべてEVという状態にもかかわらず、会場は例年どおりの活況といっていいだろう。これまでなら海外勢の参加がないモーターショーは、どうしても「この地はグローバルで魅力のある市場ではないのか」「どこも不景気なんだ」という心理が働きがちだ。ローカルイベント色も強くなり盛り上がりに欠ける。

不参加OEMを埋める新興勢力

海外OEM(メーカー)不参加の穴を埋めたのは、マイクロEVとティア1サプライヤー、そしてサービスおよびソフトウェアベンダーだった。マイクロEVはEUの新しい小型車規格を見据えて、ドイツを始め東欧諸国のベンチャー企業が魅力的な小型EVをラインナップする。

すでにドイツやオランダの市街地では、自動車より自転車に移動の足がシフトしている。パンデミックの影響もあり地下鉄やバスが敬遠され、ビジネスマンは電動アシストバイクで通勤するスタイルが広がっている。子供が3人座れるキャリアやワゴンのついたカスタム自転車(当然電動アシストつき)、ベビーカーと自転車を合体させたような製品も任期だ。街中ではレンタルバイク、シェアリング電動キックボードが転がっている。利用者はアプリで手近のキックボードを予約し、その場でスマホをかざして利用する。

マイクロEVがこの市場で有望視されクラウドファンディングや投資が集まっている。

大手サプライヤーは自動運転と電動車向けコンポーネントに新製品と技術をシフトしてきている。ヴァレオは次世代コックピットとして車内天井やフロントダッシュボードに情報を投影するインターフェイスを紹介し、コンチネンタルは統合ECUを意識したハイパフォーマンスコンピューター(HPC)搭載プラットフォームの提案を行う。ADASや自動運転技術には欠かせないコンポーネントだ。

IBMはモビリティプラットフォームとしてのクラウド環境や自動運転AIを自動車業界向けにアピールしていた。クアルコムは5G、6Gの通信モジュールと独自のエッジコンピューティング(ここでいうエッジは、車両ローカルでの処理と、インターネット手前の通信キャリア側のサーバー処理)技術を提案する。象徴的なのはフォルクスワーゲンが発表した「CARIAD」(キャリアド)というソフトウェア会社だ。同社がかねてより表明していた「ビークルOS」を具現化する会社といっていいだろう。

リージョン化が進みビジネスモデルも変わる

主催者の発表では、2021年の出展社数は744社と前回2019年のフランクフルトショーの800社より減っている。来場者数は40万人(前回56万人)。動員では前回を下回ったものの、参加者の平均年齢は40歳以下と現役層の動員に成功している。筆者がCASE車両技術を追っているため、業界視点とは違う見方をしているかもしれない。だが、フランクフルトより盛り上がりに欠けるという感覚はなかった。

モビリティやカーボンニュートラルに関するカンファレンスは多く開催されたが、展示会場では充電器やマイクロEV、シェアリングプラットフォームなど、リアルなビジネスとしての出展が多くポスター展示のようなものが少なかった。それだけ新しい市場が立ち上がっているということだろう。

じつは、現地ではブース担当者、プレスルームの他国記者、街中のタクシー運転手などにも「ドイツ(EU)の電動化状況」を率直に聞いてみた。多くの反応は日本でのそれと変わらない。インフラ整備や補助金も、方向性としては日本や諸外国と同じだ。集合住宅の充電問題も同様だ(ただし、現地の充電は自宅や課金の普通充電が主流で日本ほど急速充電にこだわっていない)。市場の生の声として、充電インフラの問題や政府やEU委員会の主張との乖離は見られた。EV嫌いも少なからず存在した。

しかし、その一方で中国製の電動バイクを乗り回すおじさんがいたりもする。EV嫌いの人でも、話をすると現地のEVはちょっと前のディーゼル車のブームやSUVが流行っているのと同じ感覚だ。自分は嫌い・興味はないが、新しい市場としては受け入れている。

ただし、経済圏事情に合わせたリージョン化が強まったことは否定できない。事情はどこもも同じはずで、今後、中国以外のモーターショーはこの傾向が強まるだろう。ブランドごとのプライベートショーに細分化する可能性もある。テスラはすでに独自のバッテリーデイやAIデイを開催し、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどIT業界では10年も前から独自のプライベートイベントでの発表にシフトしている。結局、製造業主体の視点では、モーターショーは年々縮小しているが、CASE視点では業界モデルの変革に合わせマーケティング手法やビジネスモデルが変わってきているということだ。

《中尾真二》

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