新しい交通政策基本計画とは…国土交通省 総合政策局 交通政策課 課長補佐 小澤勇人氏[インタビュー]

新しい交通政策基本計画とは…国土交通省 総合政策局 交通政策課 課長補佐 小澤勇人氏[インタビュー]
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交通政策の基本的な方向性を示す新たな交通政策基本計画が2021年5月28日に閣議決定された。社会情勢が大きく変化する中で、どのような目標を掲げ施策を取組んでいくのか。国土交通省総合政策局交通政策課の小澤勇人課長補佐に話を聞いた。

小澤氏は、7月30日開催のオンラインセミナー 官民ITS構想・ロードマップと新「交通政策基本計画」に登壇して詳説する予定だ。

---:交通政策基本計画とはどのような経緯で作られたものなのでしょうか?

小澤氏:交通政策基本計画は、交通政策基本法に基づいて、内閣総理大臣、経済産業大臣、国土交通大臣が共同で案を作成し、閣議で決定するものです。前計画である第1次計画は平成27年2月に策定され、計画期間は令和2年度末までとされています。

今回策定された第2次計画は、2年前の令和元年10月から約1年8カ月、交通政策審議会と社会資本整備審議会で審議いただきました。その途中で新型コロナウイルス感染症が拡大したため、感染症が交通に与える影響についても、活発に議論がなされました。この計画は、現在交通が置かれている状況、動向、課題などを踏まえて策定されたもので、計画期間は令和3年度から7年度までとしています。

---:その中で、交通が抱える課題をどのように定義したのでしょうか。

小澤氏:交通が抱える課題には様々なものがありますが、まず、人口減少と高齢化による影響が挙げられます。高齢化が進み、生産年齢人口は減っていく、これが交通を取り巻く基本的な背景としてあります。高齢化に伴い運転免許を返納する人が増えており、特に地方部では、公共交通がないと生活が難しくなるのではないかと不安を抱く方が多くいらっしゃる、という調査結果もあります。地域の公共交通をいかに確保していくのかは、地域の生活と直結する非常に重要な課題です。

交通をめぐる状況を長期的に見ていくと、特に地方部では、人口が減少する割合以上に、輸送人員が減少する傾向にあります。不採算路線からの撤退や減便が進行し、感染拡大前の時点でも7割超の一般路線バス事業者、地域鉄道事業者が赤字となるなど、地域公共交通は非常に厳しい状況にあります。

そうした中、新型コロナウイルス感染症が拡大し、交通に深刻な影響を与えました。外出・移動の自粛により、旅客の輸送需要は大きく減少し、特に都市部では、通勤や移動のあり方の変容などにより、コロナ前の水準まで需要が回復することは期待できないとの声もあります。例えばコロナ前においては、不採算の一般路線バスを、高速バスや貸切バスの収益により維持に努めているバス会社もありましたが、新型コロナウイルスの影響で高速バス・貸切バスの需要が大きく減少しており、独立採算制を前提として事業を存続することがこれまでにも増して困難となっています。

また鉄道や旅客船も需要の減少が大きく、航空は、ご承知のとおり特に厳しい状態が続いています。運輸業全体としても、他の業種と比べ、営業利益の落ち込みが大きくなっています。従来から人口減少や高齢化で地域公共交通をとりまく環境は厳しい状況にありましたが、コロナ禍の影響で、それがさらに厳しくなっています。

また、近年、毎年のように記録的な豪雨や台風が続いており、南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、甚大な被害をもたらす災害の発生も懸念されています。激甚化する自然災害への対応は交通における重要な課題ですし、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現という政府の目標があるなかで、我が国の二酸化炭素排出量の約2割を占める運輸部門においては、抜本的な脱炭素化に取り組む必要があります。

---:そのような課題をふまえて、交通政策基本計画には3つの基本的方針が策定されていますね。

小澤氏:今後の交通政策の柱として、「基本的方針A:誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に不可欠な交通の維持・確保」、「基本的方針B:我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化」、「基本的方針C:災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現」の3つの基本的方針を定めています。

一つ目の生活に不可欠な交通の維持・確保という観点では、地域の輸送サービスの維持確保、ダイナミックプライシング等の混雑緩和策の検討、MaaSや更なるバリアフリー化、多様なモビリティの普及などを進めていきます。

二つ目の高性能で生産性の高いネットワークという観点では、デジタル化やデータのオープン化、行政手続のオンライン化、物流DXや労働環境の改善、自動運転技術の社会実装などを進めていきます。

三つ目の安全・安心やグリーンという観点では、交通事業者の防災力向上・事業継続の取組を促進・支援する「運輸防災マネジメント」の実施、災害時の代替ルートの確保、輸送モード間の連携、日頃からの関係者間の協力体制の構築、そしてインフラメンテナンスや衛生対策にもしっかりと取組みます。また、輸送に関わる人材の確保と育成に向けて、働き方改革を進めていきます。

このように、交通を巡る状況変化に対応して、第1次計画では取り上げられなかった様々な新しい取組みを今回の計画の中で多数盛り込んでおり、しっかりと取組んでまいりたいと考えております。

---:5年間の計画で取組む施策を具体的に教えてください。

小澤氏:今回の計画では、行っていく施策ごとに、その数値目標、KPIを設定しています。施策の進捗状況やKPIの達成状況は、毎年発行される交通政策白書等を通じて、適切にフォローアップを行います。

具体的な取組みを挙げると、基本的方針Aでは地域公共交通の維持、MaaS、まちづくりとの連携、バリアフリー化、観光客の受け入れ環境整備など、基本的方針Bでは、交通インフラの整備、デジタル化や自動運転、物流DX、再配達の削減など、基本的方針Cでは、交通インフラの防災・減災対策、予防保全対策や、感染症対策、水際対策、担い手確保のための働き方改革、公共交通の利用促進や、次世代自動車、省エネ車両、グリーン物流、ゼロエミッション船などの新しい技術を活用した脱炭素化の取組み等の施策を盛り込んでおり、それぞれの施策の多くに、数値目標を設定しています。

それぞれの施策の進捗状況や、国民にもたらした成果について、交通政策白書等を通じて、どのくらい達成できているか、達成できていないとしたらそれはなぜか、継続的にフォローアップを行い、PDCAサイクルによる継続的な改善に努めてまいります。

---:この計画で、特に注目すべき点はありますか?

小澤氏:注目していただきたい点は、様々ありますが、例えばバリアフリーについてご紹介したいと思います。今回の計画では、今年4月から施行されている新しいバリアフリーの整備目標を着実に実現するため、バリアフリーに関する施策・目標を拡充しています。例えば、バリアフリー化の目標の対象とする駅などの旅客施設を、従来では、1日当たりの平均利用者数3000人以上としていたものを、移動等円滑化基本構想の生活関連施設に位置付けられた2000人以上の施設に対象を拡大させております。

さらに、全ての事業従事者や利用者が高齢者、障がい者等の困難を自らの問題として認識するよう、心のバリアフリーなどソフト対策にしっかりと取組んでいきます。また、新幹線における車椅子用フリースペースの導入に取り組みます。

---:あらためて計画の目指す姿を教えてください。

小澤氏:昨年11月に地域公共交通活性化再生法が改正・施行され、全ての自治体において、地域交通に関するマスタープランとなる計画、地域公共交通計画の作成が努力義務とされました。

このように、地域公共交通等の分野においては、地方公共団体が、これまで以上に主体的かつ積極的に取り組む必要がありますが、公共交通専任の担当者が1人又は担当不在の地方公共団体もあり、依然として、人材や組織体制が不足しています。まずは、各地方公共団体が自分たちの地域の交通の状況をしっかりと認識・把握し、データに係る分析力等の向上に努めることが重要と考えています。

また、昨年11月に施行された独占禁止法特例法により、乗合バス等に関して共同経営等の特例が設けられました。こうした動きと連動して、複数の事業者による連携の取組を促進し、さらには、地域の交通をデザインする人材の確保・育成に向け、コンサルタント、NPO等の活動に携わる一般市民、さらに大学等の学識経験者など、人的ネットワークづくりとその拡大を促してまいりたいと思います。

今日あまりご紹介できていませんが、デジタル化、安全安心、グリーン等の観点も含め、交通分野が対応すべき課題は重要かつ広範に跨りますが、計画が目指す次世代型の交通システムへ転換すべく、多様な主体が連携・協働しつつ、あらゆる施策を総動員して全力で取り組んでまいります。

小澤氏は、7月30日開催のオンラインセミナー 官民ITS構想・ロードマップと新「交通政策基本計画」に登壇して詳説する予定だ。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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