セレンス、得意の音声認識技術に“+α”を加えたUXやUIの研究成果を解説

プロジェクト同士を単につなぐだけでは求められるUXは提供できない

UIは今や音声アシスト機能にとどまらず、ジェスチャーや視線にまで広がる

ユーザーがリッチな体験できるようにする調査研究は今後も続く

セレンス・ドライブラボの所長であり、セレンスのユーザーエクスペリエンス部門 シニアマネージャーであるアダム・エンフィールド氏
  • セレンス・ドライブラボの所長であり、セレンスのユーザーエクスペリエンス部門 シニアマネージャーであるアダム・エンフィールド氏
  • セレンス・ドライブラボについて
  • ドライブラボの活動領域
  • デザインチームの活動拠点は北米に3カ所
  • テスト・評価チームは北米に3カ所、ドイツに1カ所ある
  • ドライブラボがデザインを担当したセレンス製品
  • フックとなるウェイクアップ・ワードを使わなくても自然な会話の中で話しかけるだけで音声アシスト機能がONとなる「ジャストトーク」
  • 将来へ向けて「自動運転とシェアリング」についても語られた

自動車向けソフトウエアを開発するセレンスジャパンは2月13日、米セレンスのユーザー体験研究機関「セレンス・ドライブラボ」の活動状況についての説明会を開催。同社が得意とする音声認識技術だけでなく、全般的なユーザーエクスペリエンス(UX)にまで及ぶ活動報告を行った。

プロジェクト同士を単につなぐだけでは求められるUXは提供できない

そもそも「セレンス・ドライブラボ」とは何をする部門なのか? 同ラボの所長を務め、ユーザーエクスペリエンス部門シニアマネージャーも兼務するアダム・エンフィールド氏は、「主として自動車の車室内におけるUXの向上に向けたリサーチを行いつつ、将来に向けたイノベーション創出を手掛けるセレンスの研究チームで、自動車メーカーと協業して将来に向けた共同研究なども進めている」と説明する。それらを担当するデザインチームが拠点としているのは、北米のカナダ・モントリオール、アメリカ・デトロイト、ボストンの3カ所にあり、テスト・評価チームの拠点はアメリカのデトロイトを主としてアメリカ・ボストン、カナダ・モントリオール、ドイツ・ウルム4カ所。

エンフィールド氏によれば、「これまでの車両インフォテイメントシステムは、OEMやティアワンがそれぞれに各コンポーネントを開発し、最終的にそれを統合するという手法がとられてきた。しかし、音声認識技術などプロジェクトを単につなぎ合わせるだけでは、エンドユーザーが求めるUXを提供することはできない。私たちは全般的に見てどう設計すればいいかという観点から研究を進めるようになった」と話す。その成果として披露されたのが、「人とのコミュニケーションとして音声以外、たとえばジェスチャーや視線、フロントガラスに投影するといったマルチモーダルなユースケースも対象としている」(エンフィールド氏)という考え方だ。

UIは今や音声アシスト機能にとどまらず、ジェスチャーや視線にまで広がる

セレンスは前身であるニュアンス時代から音声アシストを最大のウリとしてきたが、それだけに拘っていると、他の技術を組み合わせたときにUXとして最適なものにならない可能性もある。そこで、「音声以外にたとえばジェスチャーや視線、フロントガラスに投影するといったマルチモーダルなユースケースも対象とすることになった」(エンフィールド氏)のだという。同ラボではそんな潜在的なニーズにまで踏み込んでリサーチを行っている。たとえば「人間と機会のコミュニケーションを見て、機械との会話でもチームメイトのように感じられたならうまく行くことがわかった。ツールではなくチームメイトであると思えるようなシステムなら信頼性は高まる」(エンフィールド氏)というわけだ。

では、そうした活動の結果、どんな成果が生まれたのか。その筆頭としてエンフィールド氏が挙げたのが、イノベーション・ショーケースとして今年のCES2020で紹介されたデザイン事例だ。それはスクリーンが小型から大型へとスケールアップした際のインタラクションがどう変化するかを研究したもので、それは人とのコミュニケーションとして音声以外、としている。また、ユーザーの方から働きかけがなくても積極的に支援し、緊急車が近づいたことをいち早く検知してドライバーに知らせることも含まれるという。

別のデザイン事例として、CES2020に出展した「e.GO」と呼ばれる小型バスの事例も紹介された。そこではバスに乗車する大勢の中でプライベートゾーンを設けてバスに語りかけるという実験を行ったのが一つ。これは大勢の中で話すことを不得意とする人がいることを想定して用意したものだ。二つ目は多言語によるアシスタントへの対応で、話しかけた言語にリアルタイムで対応し、話しかけられた言語と同じ言語で返すことができるというもの。さらに状況に応じて感情を込めたTTS(テキストtoスピーチ)で乗客に対して案内を行うということにも対応している。

ただ、アシスタント機能は今や一つではなく、自動車メーカーが提供しているアシスタントもあるし、有名なアレクサとかグーグルホームの音声アシスタントもある。自動車メーカーがどのタスクにはどのアシスタントを採用すればいいかを決めてもらい、セレンスとしてはドライバーが好むアシスタントを提供していくスタンスだ。重要なのはユーザーにきちんと合わせたものでなければならない、ということ。でないとユーザーはアシスタント機能を使うのにストレスさえ感じてしまうだろう。

ユーザーがリッチな体験できるようにする調査研究は今後も続く

その解決策としてセレンスが提案している音声アシスタント機能の一つが「ジャストトーク」だ。これは音声アシスト機能を使う際に、フックとなるウェイクアップ・ワードを使わなくても自然な会話の中で話しかけるだけで音声アシスト機能がONとなるものだ。他にも、ユーザーのストレス軽減を可能とするために最適なタイミングで返答する「プロジェクト・デレイ」や、視線トラッキングと音声入力を組み合わせ、ドライバーが見た店舗の情報などを伝える「ノッチフィケーションズ」、キャッチした情報をドライバー前面のウインドウなどに表示する「スマートウインドシールド」などが挙げられるという。

将来に向けたプロジェクトとして紹介されたのが「自動得運転におけるセレンスの役割」だ。この実現にあたっては、システムに対する信頼感が重要であることは言うまでもない。しかし、運転の自動化は完璧ではなく、重要なときに信頼を低下させることも確かだ。一方で、人間は自動化された技術に満足してしまう一面もある。満足した人間は運転に注意を払うことをやめていくのは容易に想像できるし、完璧ではない自動運転に対して人間が介在すればそういった問題を解決へとつなげられる。そこにシステムとの会話が使われることで、システムをチームメイトとして見ることができれば相互の信頼性向上につながっていくというわけだ。

エンフィールド氏は「ユーザーが将来どのようなものを求めていくのか、今後もリサーチをいく。その中身はその都度更新されていくとしても、ユーザーがリッチな体験できるようにする活動自体に変化はない」と、今後もユーザーインターフェースにおける調査と研究を続けていくとした。

《会田肇》

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