【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その4

作業中のタイン氏(ピッカーズ)
  • 作業中のタイン氏(ピッカーズ)
  • 板金塗装ブース(ピッカーズ)
  • 技能実習生との面談(山田石油)
  • 採用が決まった2名の技能実習生(山田石油)
  • タイン氏(ピッカーズ)

日本における人材の不足、グローバル化、激変の日本企業。この時代の課題を解決し、生き残り、そして成長を実現するために、外国人と向き合いことが必要だ。外国人労働者の活用、そのための受け入れ態勢の構築にもっと真剣に目を向ける時期ではないだろうか。

◆外国人整備人材とどのように向き合うか?

山田石油株式会社(山田社長、山口県周南市)では、4名の技能実習生が働いている。「最初は人手不足の解消にはならないということを理解しておく必要があるかもしれません。即戦力として彼らをあてにしてもダメです。1年目は0.5人前に育ってくれれば良いくらいの気持ちがちょうど良いかと思います。しかし現実的には外国人の活用の道しかないのではないでしょうか」(宇多川副社長)。更に「彼らの学んだ技術を本国でも活用できるように教育をしていきたいと考えています。彼らの人生の夢を叶えられるように教育していくことで、日本人スタッフのモチベーション向上につながると思っています」と指摘する。

独自に行った自動車整備会社の経営者へのアンケートでも「整備の外国人技能実習生について検討しています」「自社の課題として整備人材の採用は課題であり、その解決の一助が海外からの人材の受け入れにあるのではと可能性を感じている」「外国人を受け入れたい。しかしマネジメントやコミュニケーションがきちんとできるか不安だ。そこが外国人雇用における大きな壁となっている」などの声が出ている。

一方で、活用に向けた最初の1歩を踏み出す企業は意外と少ない。しかし、受け入れてみなければ何もわからないし、何も始まらないというのが現実ではないだろうか。今、第1歩を踏み出せるか踏み出せないかが、あなたの会社のその後に大きな影響を与えることは間違いない。

「外国人を受け入れることに、社員は不安がっていました。言葉が通じない中で仕事をしていくことに不安を感じていたからです」(山田社長)。しかし、「一緒に働いてみてわかることですが、極めて優秀です。しらない国に若い人が1人で来るということはすごいこと。外国人は夢を掴み取りたいと頑張っていますので、まず受け入れてみることです。彼らの稼ぎよりも技術が上達し、長期的には考えれば必ず戦力になります。彼らはサボらないですし、真面目です。元気な外国人の挨拶などを聞いて日本人が学ぶことも多いです。受け入れてから良い感じで社内が変わってきているのを実感しています」と指摘する。実は、外国人の活用は人手不足の解消だけではない。私(川崎)がかかわったほとんどの自動車整備会社は、外国人整備人材の活用を通じて、日本人スタッフの意識が変わり、何かしらの組織活性化が起こっている。

日本の自動車関連会社は外国人整備人材とどのように向き合っていかなければならない時代に突入している。自ら考えていく必要がある。外国人を安い労働者としてではなく共存できる戦力として考え、同じ釜の飯を食べ、信頼関係を構築していくことが大切だ。

◆受け入れ前は両者が不安、上司の存在が重要

ピッカーズ株式会社(蜂須賀元宏社長、東京都新宿区)は、ベトナム人エンジニアのタイン氏を雇用した。大学の自動車学部で自動車メンテナンスを学び、日本語も勉強したタイン氏は、日本の進んだ技術と知識を身につけ自分を成長させたいと思い日本で働くことにした。

ピッカーズの今村常務は、「タイン氏を受け入れたのは、ベトナム進出の足掛かり。タインさんが数年頑張ってもらって、ベトナムに帰って、お店を出してもらいたい」と語る。将来的には、タイン氏が整備、鈑金・塗装のインストラクターとなり、新しいベトナム人を指導できる体制を構築していきたいと考えている。

「受け入れに際して不安な点は、やっぱり日本語です。言葉の対応として、最初はポケトークを使ってみましたが、むしろジェスチャーを使いながらゆっくり話すことを心掛けて接するようにしています」(今村氏)。更に「やはり、頭がいいです。技術は焦らず、車にしっかり慣れてもらうところから始めています」と指摘する。タイン氏も「1番困ったことは日本語です。日本人はよく敬語を使いますが難しいです」と語る。毎日、家で日本語の動画をみて一生懸命勉強をしている。

外国人の受け入れがうまくいっている会社では、外国人の魅力をわかっている上司の下につける、もしくは外国人をしっかり評価している上司の下につけるなどの工夫をしている。更に、外国人が孤独にならないよう外国人の採用の必要性・重要性を社内に(特に、人事社員や配属先の現場責任者へ)しっかりと伝えている。お兄さんのような存在として日本人上司をつけ、仕事だけでなく日常生活も2、3か月つきっきりで面倒をみる。日本語コニュニケーションの言語のケアだけでなく、心のケアもしてあげる配慮をする。そのような会社では外国人が戦力となって働く。

◆外国人を信頼し、本気で付き合う心構え

優秀な外国人材は売り手市場。受け入れ体制を構築しないと彼らは他国に行ってしまう。今は、グローバル化によって、人も国境を超えて争奪戦になっている。このような時代に質の高い外国人を確保するという視点で問題を捉えなおす必要がある。私(川崎)自身は、アセアンビジネスにかかわって20年以上の月日が流れた。新卒で香港の会社に就職し、入社2年目にマレーシア現地法人の代表になったため、20代前半の若造の頃から、10名以上のマレーシア人の部下をマネジメントする経験を得た。アセアン各国で駐在を経験し、アセアンを中心とした多くの海外の方々、香港人、マレーシア人、タイ人、インドネシア人、シンガポール人、インド人、アメリカ人などと一緒に仕事をさせていただいた。どの国でも人と人との信頼関係がビジネスの大前提だとつくづく感じる。アセアンに進出した日本人の中には彼らは信頼できない、などといっている人もいるが、そういう人に限って日本人同士としか付き合っていない。しかし、アセアンの人材と本気で付き合っていかなければならない時代に突入している。

<川崎大輔 プロフィール>大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集