【対談】大変革期に入った自動車産業 果たして日本の自動車産業はどこへ向かうのか 世界中で加速するEVシフトがもたらすものとは!?

【特集】大変革期に入った自動車産業 果たして日本はどこへ向かうのか(左:慶應義塾大学大学院経営管理研究科 岩本 隆 特任教授 右:ローランド・ベルガー パートナー 貝瀬 斉 氏)
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環境と経済の両視点から賢者が激論を交わす

モビリティ革命やCASE車両について、とかく日本は欧米にくらべて遅れているといわれる。もちろん否定できない部分もあるが、メディアの報道だけでは、政府やメーカーのアナウンスがわかっても、現地消費者の声までは見えにくい。電動化や自動運転のトレンドは果たしてどこまで本当なのだろうか。

この点をあらためて探るべく、2人の専門家に対談してもらい、双方の知見や意見をぶつけてもらった。対談をお願いしたのは、慶應義塾大学 特任教授 岩本隆氏とローランドベルガー パートナー 貝瀬斉氏だ。

岩本特任教授は、温室効果ガス(GHG:GreenHouse Gas)削減の視点からEV化による影響を研究している。「地球温暖化対策と経済成長との両立に向けた一考察」という論文では、火力発電に頼る日本はピュアEVが普及しても大してGHG排出量は減らず、同時に産業構造の変化(部品点数の減少による製造業の縮小)から経済にもマイナスのインパクトを与えると述べている。

貝瀬氏は、欧州に強いローランドベルガーで調査・研究を担当しており、とくに自動車関連市場に造詣が深い。

環境対策に積極的に取り組むEU市場の認識とはどのようなものなのでしょうか?

貝瀬氏:まず率直にいって、電動化や自動運転に関するEU消費者の考え方は、静観です。EVや自動運転のメリット、デメリットについて、EU消費者も日本の消費者も意識に大きな違いはありません。EUでは、環境なのか、利便性なのか、経済性なのか、趣味嗜好の問題なのか、個人の価値観ごとに車を評価する傾向にあります。

EUの完成車メーカーも、消費者の意向はわかったうえで、事業ポートフォリオとして(モビリティ革命やCASE車両を)やっていますというアピールも必要なのです。
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岩本氏:消費者からすると、EVや自動運転が購入のインセンティブになっているというより、規制があるからという理由のほうが多いですね。

貝瀬氏:自家保有車としてのEVは充電などの問題もあり、利用者のご利益は必ずしもが大きくはないですが、レベル2の自動運転は、運転が楽になるなどご利益をイメージしやすいので、進展スピードはEV化よりやや早いのではないかと予想しています。

岩本氏:アダプティブクルーズコントロールや自動駐車は普及してきています。当面オーナーカーは、これらの機能がこなれて広がっていくものと思われます。これは日本でも同様かと思います。

ただ、ドイツなどとの違いは、労働者がEV化に対して、雇用が奪われるという声をあげる点でしょうか。日本では組合が騒ぐという話はあまり聞かないですよね。
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貝瀬:なるほど。自動運転の意識調査をしたときも、日米欧であまり大きな違いはありませんでしたが、6~70%前後は興味あると答えていますが、今の車を自動運転にするかというとそういう人は少ないですね。

ロボットタクシーなどは別ですが所有の放棄までする人は少数です。生活スタイルなどを変えるのはハードルが高いようです。

メーカーが注力する理由とはなんでしょうか?

岩本氏:そうなんです。メーカーもそのハードルの高さを理解しているのですが、それでも電動化や自動運転はアピールしなければならない理由があります。ひとつは環境問題です。GHG排出量削減は国際社会では待ったなしなのは事実です。

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もうひとつの理由は、放っておくと、GAFAなどに代表される巨大プラットフォーマ―と新興勢力が、この市場に参入してきてシェアを奪われるという危機感です。

正直なところEVは(スケールしないと)儲からない。かといって長期的にはシェアを食われるなら、自分達でコントロールできるようにしておきたいと考えています。

貝瀬氏:確かに、マーケット的にみてもEVと自動運転は意味合いが異なりますね。現状、EVは純粋な商品価値になりにくいですが、ADAS機能や自動運転支援は付加価値ビジネスとして成立します。電動化は中国のようなマーケットが大きく、政策的にもフィットするところへのアプローチとしては有効でしょう。

ただ、自動運転はEVと相性がいい面もあります。レベル4以上の自動運転は、個人のオーナーカーよりモビリティサービス事業者の車両としてのニーズが高くなります。

事業用車両は、経済合理性が重要ですので、EVのランニングコスト、メンテナンスコストは魅力です。
メーカーは、これを見据えてコンポーネントを揃えておく必要があります。

日本と欧州の戦略の違いとは何でしょうか

貝瀬:OEMメーカーやサプライヤーの戦略面で日欧の違いを感じるときがあります。GHG排出量削減を例にとると、日本ではどちらかというと1台あたりのGHG排出量、環境性能への意識が高いように感じますが、シェアリングなど車の使い方が変わってくると、都市単位でも環境性能が重要です。具体的には、1台あたりの環境性能をアップするより、渋滞を解消したほうが効果が高いかもしれません。

要素技術だけでなくビッグデータ活用やモビリティという視点での取り組みも必要です。逆に欧州では、ボッシュなどサプライヤーでも都市にフォーカスした移動をデザインする戦略を打ち立てるケースが出ています。

岩本氏:ドイツ鉄道(DB)は、ダイムラーと提携してカーシェアリングを始めていますよね。ドアツードアの移動データを利用すれば、渋滞やラッシュなど社会的課題の解決につながります。そういった取り組みですね。

トヨタもスマートコミュニティについて取り組んでいますが、これで通勤ラッシュが解決できれば本当に大きい社会貢献と経済効果につながると思います。

貝瀬氏:そうですね。北米西海岸では、プリウスの優先レーンを廃止したらGoogleの社員が公共交通機関に切り替えたという事例がありました。優先レーンなら速く移動して仕事時間を長く取れたのに、それがなくなるなら移動中に仕事ができる電車やバスのほうが価値があるということでしょう。

日本のCASEの技術には問題点はあるのでしょうか?

岩本氏:エンジンや車体、制御技術など、技術面では問題ないですが、バッテリーやモーターなどは悩ましいですね。バッテリーは中国などにシェアは奪われています。モーターも日本製はコストの問題で採用は限られます。どれも技術はあるのですが、内燃機関ほど国内製造しなくても調達できるものが増えています。

AIについては完全に中国に抜かれています。これも、AI研究や技術が遅れているのではなく、データの差です。

貝瀬氏:おっしゃるように日本の要素技術は強くポテンシャルは高いのですが、現在、問われているのは使い方を念頭においた戦略、手法です。

かつての日本の自動車産業は、系列の中でOEMメーカーがエンドユーザーの用途、価値を決めていて、サプライヤーはその指示でモノを開発・製造する構図でしたが、これからはサプライヤーも用途や価値を能動的に提案していく必要があります。技術を付加価値のある商品に落とし込むスキルが求められています。

岩本氏:最先端技術はあるが、ビジネスに弱いということですね。

貝瀬氏:日本はハードウェアに強いという特性を生かせると思っています。ハードウェアの素性がよくないとソフトウェアだけではパフォーマンスは上がりません。そして、ハードウェア開発・製造はノウハウの積み上げが必要で、後発はキャッチアップが難しい領域です。
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今後、自動車ビジネスはどう変わっていくとお考えですか?

貝瀬氏:モビリティが多様化すると、環境理論だけで動かない面がでると思っています。移動の総需要を稼働率が高いロボットタクシーなどが担うようになると、自動車全体の需要が減少します。

内訳はわかりませんが、ロボットタクシーなどが2030年ごろ数百万台規模になれば、全需はマイナスになる可能性もあります。

岩本氏:移動の意味合いも変わってくるでしょうね。国交省は移動の量とGDPは比例するという統計をだしていますが、単に移動を増やすにしても渋滞などがあるので、効率化、最適化は避けて通れないですね。

貝瀬氏:メーカーの定義も変わってくると思います。OEMは車両すべての設計、製造、販売、サポートまで抱えこんでいます。今後は、スケートボードプラットフォームのような考え方で、シャシー、パワートレイン、外装、さらにはサービスといったサプライチェーンが分化したケースも出現するでしょう。

開発だけ、製造だけ(EMS)といったプレーヤーも出てくると思います。ドイツ郵便の車両8万台をスタートアップが受注して製造する時代です。中国EVメーカーのバイドンなどは、ベンチャーですが中身はビッグ3やEUのトップエンジニアです。

岩本氏:実際、自動車関係のスタートアップは増えていますし、国内自動車業界でも再編は進んでいます。

OEMもグループとしてはトヨタ、日産、ホンダの3勢力に分けられますし、サプライヤーもデンソー、アイシン、カルソニックカンセイグループなどがメガサプライヤー化を進めています。

パワートレインの動向は何が主流になるとお考えですか?

貝瀬氏:どれかのパワートレインにシフトするというより多様性を維持したままになるのではないかと思っています。例えばe-Palleteはディーラーでは売れないでしょう。

南米のようにバイオエタノールのインフラが出来上がっている国もあります。どこか1か国の都合や理想でパワートレインシフトを仕込んでも、市場が動くわけではないでしょう。

岩本氏:内燃機関をいかに生かすかも現実的には無視できない問題です。マツダはディーゼルの効率化を追求しています。

日産はバイオエタノールの燃料電池車を開発しています。ドイツのサプライヤー、マーレはバイオ燃料事業を始めて、EVと内燃機関のデュアルストラテジーを表明しています。個人的には、バイオ燃料のハイブリッド車が、利便性を損なわずGHG排出量削減も可能で、既存産業の活用にもつながるイノベーションになりえると思っています。

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今後自動車産業が大きく変革していくことは、様々なメディアで既に報じられている通り。自動車は日本の国益を担う産業として多くの人が従事し、また多岐に渡るテクノロジーが集まってくる分野だけに、やはりその影響力は計り知れないことは容易に想像できる。

日本が再び自動車産業で主導権を握れるか否か、完成車メーカーやサプライヤーの未来予想図に着目しつつ、我々自身ももっとこれからの移動デバイスのあり方について多角度的に考えなくてはならない。
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■岩本 隆|慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻 Ph.D.。
日 本 モ ト ロ ー ラ 株 式 会 社 、日 本 ル ー セ ン ト ・ テ ク ノ ロ ジ ー 株 式 会 社 、ノ キ ア ・ ジ ャ パ ン 株 式 会 社 、株 式 会 社 ド リ ー ム イ ン キ ュ ベ ー タ( D I )を 経 て 、 2012 年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。「技術」・「戦略」・「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、 様々な分野の新産業創出に携わる。
レポート:https://www.tiwamoto.jp/report/

■貝瀬 斉|ローランド・ベルガー パートナー
横浜国立大学大学院修了後、大手自動車メーカーを経てローランド・ベルガーに参画。その後、事業会社、ベンチャー支援会社を経て、2007年にローランド・ベルガーに復職。自動車グループのリーダーシップメンバー。自動車産業を中心に開発戦略、M&A支援、事業戦略、マーケティング戦略など多様なプロジェクトを手掛ける。完成車メーカー、サプライヤ、商社、金融サービス、ファンドなど様々なクライアントと議論を重ねながら「共に創る」スタイルを信条とする。

《中尾真二》

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