雪上の高速競技、アルペンチェアスキーの魅力とは…KYB 鈴木猛史選手インタビュー

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アルペンチェアスキーの鈴木猛史選手(KYB)
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ウインタースポーツの花形といえばスキーだ。スキーは2本の足で立ってするのが基本だが、足に障害があって立てない人もいる。そういった人たちのために考案されたのが、座って斜面を滑る「チェアスキー」だ。

椅子に1本のスキー板を取り付け、雪面を駆け下りる痛快なスポーツで、障がい者による競技も盛んに行なわれている。日本を代表するチェアスキーヤーであり、世界を舞台にした大会でも活躍をしているのがKYBに所属する鈴木猛史さんだ。

小学2年生のときに交通事故で両足を失った鈴木猛史さんは、次の年にチェアスキーと出会った。最初は楽しく滑る遊び感覚だったが、福島県障害者スキー協会から誘われて競技に出場するようになる。そして中学3年生のとき、世界選手権に初参戦した。初めて挑んだ大回転で、鈴木猛史さんは見事に3位入賞を飾るのである。

その後は日本代表として世界中を転戦した。トリノで開催された国際大会に出場したのは高校2年生のときだ。大きなプレッシャーのなかで、滑降ではメダルにあと一歩の4位入賞を果たしている。大学に進学し、迎えた次のバンクーバーで開催された国際大会ではめまぐるしく変わる天候に翻弄された。だが、大回転で待望の銅メダルを獲得している。

2012年と2013年、鈴木猛史さんはワールドカップのアルペンチェアスキー競技で年間ランキング1位に輝き、チャンピオンとなった。そして2014年のソチで開催された国際大会では滑降で銅メダルを獲得。最後の回転競技では念願の金メダルに輝いている。その鈴木猛史さんに、チェアスキーの魅力と今後に向けての意気込みをお聞きした。

◆速く滑る秘訣はクルマと同じ


----:チェアスキーのアルペンスキー競技の魅力は、どのようなところでしょうか?

鈴木猛史さん(以下敬称略):アルペン競技には5つの種目があります。滑降、スーパー大回転、スーパー複合、回転、そして大回転です。一番の魅力はスピードが出ることだと思います。滑降とスーパー大回転は高速系の競技です。ソチ滑降で125km/hくらいのスピードが出ていました。健常者の女子と変わらないくらいのスピードなので面白いと思います。

----:タイムを縮める秘訣はありますか?

鈴木:クルマの世界と同じで、ドリフトよりグリップ走行させたほうが速いんです。スキーの板をいかにずらさずにグリップさせ、コーナーを抜けていくかが大事になります。健常者より目線が低いので、より速いスピードに感じるんですね。技術系と呼ばれている回転競技はテクニックが問われます。これはターンが決め手になります。

----:本番の1時間前にコースの下見が許されますが、何をチェックするのですか?

鈴木:本番前の下見では、ゆっくり横滑りをしながらコースの状態を確認していきます。目からだけでなく、板からの情報も確認します。また、ポールを立てる人によってクセがあるので、違いを読み取ることも大事なんです。

グリップ走行を心がけていますが、スピードが出すぎて板をずらしてしまうことがあります。速くコーナーに入ってしまったときは、意識してスピードを抑え、次のコーナーからはグリップ走行にするなど、走り方を調整していきます。でも、雪面の状態は刻々と変わっていきますから、本番の時間の雪質を読むことも重要になるのです。スタート順によっては2時間待たされることもありますから。

----:鈴木さんのように全5種目にエントリーする選手は珍しいのではないですか?

鈴木:健常者で5種目出る人は珍しいですが、障害者スキーチームは健常者ではしていない事をしようということで5種目すべてに出場しています。ただ、高速系の種目は、日本では練習する場所が少ないので育ちにくいと思います。

----:チェアスキーは専用品を使うのですか?

鈴木:なるべく市販のものを使います。私はできるだけ簡単に手に入るものを使い、多くの選手と同じ条件で戦いたいと思っています。選手によってはアルミのネジをチタンに替えたりしています。軽量化するとバネ下が軽くなるので、スイングスピード、切り替えるターン中のスピードが速くなるんです。でも、高速系のダウンヒルや滑降では重さがなくなり、飛んだときにバランスを崩すことが多くなるデメリットもありますね。

----:最近は空気抵抗にも気を遣っていますね。

鈴木:私たち日本チームも、ソチの後からエアロダイナミクスの研究を始めました。チェアスキーを風洞実験室に持ち込み、きれいに整流するようにしています。

----:チェアスキーのカウル(カバー)やシート(座っている部分)は鈴木選手のための専用品ですか?

鈴木:はい、カウルとシートはカーボンファイバー製ですね。破損したときに現場で修復しやすいように、私はウエットカーボンを使っています。

◆KYBのエンジニアと協力して臨むレース


----:衝撃を吸収するショックアブソーバは、ソチのときは他社製を使っていましたが、今はKYB製ですね。

鈴木:私と森井大輝先輩は新しいもの好きなんです。KYBから「使ってくれないか」と言われ、ソチの後の世界選手権で使うことに決めました。15年のワールドカップではこのショックアブソーバを使って金メダルを取ることができました。KYBは同年8月から全日本スキー連盟のオフィシャルスポンサーになり、私も社員になっています。

----:KYBのエンジニアにはどのようなことを伝えるのでしょうか?

鈴木:今は練習が終わってホテルに引き上げたときに、楽しく会話しながらアイデアを出しています。担当エンジニアの石原亘さんとは年も近いので、友だち感覚で付き合えるのです。ふとしたときに、友だちのように相談できるのがいいですね。「こういうふうにしたい」というと、すぐに手を入れてくれます。

セッティングは、乗って奥が固いとか、ターンが速いなどと伝えます。今の容量で、もう少し軽いものになれば最高ですね。日本チームは仲がいいので、選手同士でショックアブソーバのデータを共有することもあります。

----:ショックアブソーバは何セット持って行くのでしょう?

鈴木:一人2台です。高速系と技術系の種目で使い分ける人が多いのですが、私はショックアブソーバのセッティングを変えていません。

----:競技の前に、ショックアブソーバのセッティングをやり直すことがあるのですか?

鈴木:アジャスターで伸び側と縮み側の減衰力を変えて調整します。滑降だと、3回の練習があり、そのあとが本番です。その間に調整するのですが、ほとんどの場合は微調整だけで済みます。

----:回転競技で、鈴木選手はストックを使って向きを変えていますね。

鈴木:私は回転を得意としているのですが、アウトリガーと呼ばれるストックを使って向きを変えています。この技術を使っているのは日本人では私だけです。手を上げることによってリズムを取り、手を下げることでターンのきっかけを作っています。

----:テストや練習はどこで行うのですか?

鈴木:合宿は長野県の菅平などで行います。このときに新しいショックアブソーバもテストします。また、南米のチリなどで高地トレーニングも行います。標高3600mのところで練習なので大変です。ホテルも3000m近い場所なので、事前に国立スポーツ科学センターで低酸素トレーニングを行います。

----:KYBの社員になってよかったと思うことは何ですか?

鈴木:スキーに集中できるようになったことが大きいですね。所属先を変えていなかったら、ここまで戦えなかったと思います。トレーニングだけでなく、用具のことも考えなくてはならないのです。今はいい環境になりました。今後の大きな大会では、応援してくれた人たちのためにもいい成績を残したいと思います。

KYBのホームページはこちら

《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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