【池原照雄の単眼複眼】ホンダ、好調の米国テコに業績回復の道筋

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ホンダの米国四輪販売店「ノーム・リーブス・ホンダ・スーパーストア」
  • ホンダの米国四輪販売店「ノーム・リーブス・ホンダ・スーパーストア」
  • ホンダ メアリズビル工場(アコード・クーペ) 
  • ホンダ米メアリーズビル工場のロブ・メイ工場長 《撮影 池原照雄》
  • ホンダ NSXの組み立てライン(オハイオ州メアリズビル工場内)
  • ホンダシビックが北米カーオブザイヤーを受賞。写真はホンダ八郷社長(デトロイトモーターショー16)
  • ホンダ・シビック北米仕様
  • ホンダ リッジライン
  • 次期ホンダ シビック タイプRのプロトタイプ車

業界に逆行して今期3期ぶりの営業増益に

ホンダの業績が回復に向かっている。2017年3月期の連結営業利益は、円高影響で自動車各社が大幅減益に見舞われるなか、インド事業が好調なスズキとともに増益を確保する。前期までのタカタ製エアバッグのリコール費用が減少した影響が大きいものの、主力の四輪車部門が北米や中国で最高の販売実績となっており、業績復元の源となっている。

10月末に発表した17年3月期の営業利益予想は、3期ぶりの増益となる前期比29%増の6500億円とした。ただ、売上高(会計上は売上収益)に対する営業利益率は4.9%ともの足りなく、過去最高だった08年3月期の9531億円とは、まだ3000億円の開きがある。それでも、13年秋に国内投入した『フィット』の相次ぐリコールや、その後のエアバッグ問題で大幅減益に見舞われた過去2期から着実な立ち直りが見えてきた。

こうした業績回復をけん引しているのは新車の2大市場である中国と米国であり、16年暦年ベースでは両国とも2年連続で過去最高の販売になる。最大の販売先である米国は、秋口から市場が弱含みになっているものの、「恐らく昨年を上回って170万台(前年比7%増)に近いレベル」(北米地域本部長の神子柴寿昭専務執行役員)になる見込みという。

ホンダ内でも米国トップ銘柄になった新型シビック

先週半ばまでの1週間、ホンダの米国の事業所や販売店などを取材する機会があった。新車市場が低迷し、円高が影を落として自動車産業全般にやや元気が欠ける日本とは異なり、ホンダの米国勢からは2年連続最高更新に裏打ちされた活気が伝わって来た。

年産能力44万台と北米最大の生産拠点であるオハイオ州のメアリズビル工場は、『アコード』やアキュラブランドの上級セダンを担当している。セダン系は、ガソリン安で好調なSUVやピックアップトラックなどのライトトラック系に比べ、需要が鈍化傾向にある。だが、メアリズビル工場の稼働率は、アコードの安定的な売れ行きもあって97~98%とフル生産状況だ。ロブ・メイ工場長は「市場でセダンの販売が減少傾向にあるのは残念だが、当面は今の稼働率を維持できる」と、安定操業に自信を示した。

アコードととともにセダンの2枚看板を形成する『シビック』も、15年秋の全面改良を機に、16年モデルの北米カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、高い人気を獲得した。シビックのヒットは米国のみならず、中国や欧州などグルーバルでの販売活況をもたらし、ホンダの業績復調の立役者ともなっている。今年1~10月の米国でのシビックシリーズの販売は31万台(前年同期比13%増)と、ホンダの全車種の中でも最多になった。伝統的に日本車が強いカリフォルニア州ロサンゼルスの街中では、シビックが相当目立つ存在になっている。

販売店からは「25年で最高の商品群」との評も

年間の新車販売が9000台強と全米のホンダ販売店最大手「ノーム・リーブス・ホンダ・スーパーストア」(ロサンゼルス)のデイブ・コナン社長は、シビックをはじめとする目下のホンダ商品群は「過去25年で最高の状況」と指摘した。実際、今年の夏にはピックアップトラックの『リッジライン』、今月にはSUVの全米ベストセラーである『CR-V』も全面改良した。

グループ内の評価なので割引は必要だろうが、同店も今年は過去最高の販売達成がほぼ確実であり、コナン社長はホンダ車への高い信頼感をにじませた。現在、ホンダが販売店に支給している台当たりインセンティブは、業界では富士重工業(スバル)に次いで低く、米事業の収益性の高さを象徴する。

グローバルの需給ギャップ解消も着実に

シビックのヒットは、「グローバルではまだ需給ギャップが残っている」(八郷隆弘社長)という数十万台規模の余剰生産能力の解消にも寄与し始めている。5ドアのハッチバック車を唯一生産している英国工場からは米国向けにこのモデルを輸出、9月に発売した。17年にはスポーツモデルの『タイプR』も同様に英国から米国に供給を始める。さらに10年にシビックの生産を終えていた日本でも、17年度に狭山工場(埼玉県狭山市)でセダンの生産を再開する計画を進めている。北米に輸出するだけでなく、同年度には日本市場でのシビック復活も図る。

八郷社長は今年2月の記者会見で、グローバルな生産補完により、15年は73万台(前年比24%減)に落ち込んだ日本の生産を、早期にほぼフル稼働の「90万台半ばの体制」を目指すと強調した。足掛かりをつかんだ業績復調を確かにするには、米国の好循環を日本に引き寄せ、国内工場の稼働率(=生産性)を高めることが必須条件だが、そこへ着実に歩を進めつつある。

《池原照雄》

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