トヨタの新型『プリウス』のプロトタイプに試乗し、その進化の度合いに感心した。
車体が強化され、サスペンションはリアにダブルウィッシュボーンを採り入れ、全体的に走りの質が向上した。しっとりとした落ち着きのある乗り心地となり、操縦安定性が向上し、操舵に対するフロントタイヤの的確な応答も感じられる。
また、発進してからしばらくの電気モーターのみによるEV走行も、アクセルペダルをより深く踏み込んでも持続され、日常的な運転の中でのEV走行時間が長くなったのを印象付けられた。しっかりとした手ごたえの走行感覚と合わせて、プリウスが一段階上の上質さを手に入れたと感心した。
一方で、気がかりな点もある。バッテリーを、なぜリチウムイオンに統一しなかったのか。試乗をしてみると、明らかにリチウムイオンバッテリーの方がニッケル水素バッテリーより回生による充電の効率がよさそうだ。実際、エンジニアに尋ねてみると、バッテリーの内部抵抗は少ないという。
1997年に、プリウスはなぜ誕生したのか? それは、燃費性能を従来の2倍に高め、環境性能を一気に進めるためではなかったか。ならば、回生の性能に優れるリチウムイオンバッテリーへ全て移管していくことは、「~に先駆けて」というプリウスの車名にも合致する。
もう一つ、なぜセンターメーターにこだわり、カーナビゲーション画面をダッシュボード中央に残したのか?
今後、5~6年先までこのプリウスが売り続けられるとするなら、「つながる」と言われる様々なコミュニケーション機能がその間にさらなる充実を求められるはずで、アウディ『TT』は、メーターパネルを液晶化することでドライバー正面に情報を集めることを始めている。「~に先駆けて」というクルマなら、初代からの形にこだわるのではなく、先駆けた機能を見せてほしい。
そういう意味で、成熟はしたが、新型プリウスは、その車名の意義を失いつつあると感じた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
お勧め度:★★★
御堀直嗣|フリーランスライター
玉川大学工学部卒業。1988 - 89年FL500参戦、90 - 91年FJ1600参戦。94年からフリーランスライターに。主な著書は『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップワークス』『図解エコフレンドリーカー』『快走・電気自動車レーシング』『ホンダF-1エンジン』『ポルシェへの頂上作戦』『自動車ニューテクノロジー集成』『クルマの基礎知識』など。