【アストンマーティン ラピードS 試乗】これがホントの4ドアスポーツカー…中村孝仁

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アストンマーティン ラピードS
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アストンマーティンが『ラピード』を発表した時、そのライバルについて尋ねたことがある。勿論こちらはポルシェ『パナメーラ』を想定しての質問だったのだが、答えは思いがけないものだった。

アストンマーティンの開発者曰く、「ライバルなんかいないよ」。そこで、ポルシェ・パナメーラは?と畳みかけて質問。すると、「パナメーラをライバルになんて、想定もしていない。何故なら、我々が作ったのはリアルな4ドアスポーツカーだけど、パナメーラはただのセダンだからね」ときた。

確かにパナメーラはスポーツカー的な車高じゃないし、インテリアだって4シーターの独立したシートという点ではラピードと同じだが、ぐっと快適そうでラゲッジスペースも広く、リアシートは折りたたみ式ではるかに使い勝手も良さそうだ。

そうした点でラピードは同じ4座ながら、まるでフロントシートと同じようなリアシートを備え、ラゲッジスペースは段差がついて使いにくそう。勿論シートが折りたためても、段差は解消されない。何よりも車高が80mmも低い(パナメーラ・ターボとの比較)。だから本当にスポーツカーに見える。ただ、だからといってその車高は『DB9』並かといえば、さすがにそれはなく、乗降性を考えてDB9よりはやはり80mm近く高い。また、2+2(アストン車はほとんどが狭いながらもリアシートを備える)車と比べて決定的に違っていたのは、他のモデルがいずれもフライオフ式のハンドブレーキを備えていたのに対し、ラピードだけが電動パーキングブレーキを備えていたことだ。この点だけはラピードを高級サルーンに見せ、スポーツカーとはいえ、やはり性格の違いを物語っていた。

4ドアのスポーツカーと言われ、他にライバルが見当たらないことからどう評価してよいものか、迷ってしまう。何故ならまずこのクルマは高級サルーンとして分類されない。そもそもそこまでのレベルの居住空間を有していない。だから、居住性は多少犠牲になっている。そして、少なくとも静粛性という点では、高級サルーンの概念に当てはめたらほとんどNGのレベル。とにかくフロントに野獣一匹飼っているという印象で、スロットル開度を小さく保っているうちはいいが、勢い良く踏み込むとその野獣が目を覚まし、とんでもない咆哮で唸る。それはDB9や『ヴァンテージ』と大差ない。そうした点では完全にスポーツカーである。

確かにトランスミッションはタッチトロニック3だから、プッシュボタン式のDさえセレクトしておけば、スルスルと走り出してあとは、ギアセレクトに悩む必要はない。官能的かどうかを別にして、野獣の咆哮を聞きたければアクセルをぐいと踏み込んでやれば、咆哮だけでなく、その走りも突如として野獣に近いものとなる。そしてパドルを駆使すれば、今回は走らなかったが、サーキット走行もそれなりに楽しめるレベルだそうだから、それはまさに4ドアスポーツなのだ。

何もパドルを使わずとも、センターコンソールに付くスポーツモードボタンをセレクトすれば、タッチトロニックはより高回転まで引っ張り、その隣のアダプティブダンピングサスペンションで、サスペンションの設定を変えれば、ハードコーナリングもお手の物だ。そして驚かされたのは、サスペンションをスポーツの設定にしても乗り心地がほとんど損なわれず、非常に快適なことである。これがラピードが他の2+2アストンマーティンと決定的に異なるところかもしれない。

エンジンは他のアストン同様6リットルV12。出力は「S」となって、552bhpに向上したから、「DB9GT」よりも上だ。勿論車重も重く1990kgなので性能的にはチャラ。タッチトロニック3は8速を備えているから、アストンの中ではヴァンキッシュと並んで最も進化したタッチトロニックを装備することになる。するすると走るのはこいつのおかげもありそうだ。

驚いたことに、今、アストンマーティンは日本での年間販売が150台ほどだというが、その4割がこのラピードSなのだという。つまりは今一番人気のアストンマーチンということだ。やはり誰も世界で唯一の4ドアスポーツカーを味わってみたいと思うのかもしれない。

■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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