手書きシートを即デジタル化…新たな学習スタイルの横国大附属中

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授業の模様
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  • DNPのデジタルペン授業支援システム「OpenNOTE」
  • デジタルペンにはセンサーが内蔵されており、対応用紙に文字を書いてデジタル化できる
  • デジタルペンとタブレットPCはBluetoothで通信。タブレットPC連携はWiFi経由
  • 先生用のPC。生徒が手書きで書いた内容を一覧で見られる
  • 電子黒板に生徒が書いた内容を表示。必要な部分だけを切り出すことも可能だ
  • 授業のテーマは「文字を使った式の利用」。3×3のマス目に書かれた数字の秘密を探る

 紙のワークシートに書いた内容を、リアルタイムにデジタル化し、電子黒板やタブレットPCで共有できる、DNP(大日本印刷)のデジタルペン授業支援システム「OpenNOTE」(オープンノート)。すでに40の自治体、約700校に導入され、さまざまな授業で使われている。今回は、先ごろ公開された横浜国立大学教育人間科学部 附属横浜中学校での授業の模様を紹介しよう。

 同校は総務省の「フューチャースクール推進事業」(平成23年~平成27年度)や、文部科学省の「ICTを活用した教育に資する実証事業」(平成26年度)の実施校に指定されており、在籍生徒は各学年3クラスで合計395名。教室には77インチ電子黒板があり、生徒ひとりに1台ずつのタブレットPCが使える最新ICT環境が整備され、生徒の10年後の姿を見据えた教育を展開しているモデル校だ。

デジタルペンで紙を使った授業で協働学習を実現

 取材させていただいたのは、1年生の数学の授業。冒頭で触れたとおり、授業はDNPのオープンノートによって進められた。このデジタルペン授業支援システムは、デジタルペン、BluetoothのUSBアダプター、オープンノート対応用紙(専用印刷ソフトでプリントも可能)、2種類のパレット(カラー/専用パレット)などで構成される。カラーパレットは生徒ごとに6色のカラーを選択でき、解答結果を色別にリアルタイムでグラフとして集計したり、アンケートとして利用することも可能だ。

 最大の特徴は、デジタル一辺倒の教育システムでなく、アナログとデジタルが融合した学習スタイルを実現できることだろう。デジタルペンの先にセンサーがあり、オープンノート対応用紙に手書きで文字を書くと、そのデータが先生用のPCに転送され、生徒全員の記述を自動集約してくれる仕組みだ。転送データは画像ではなく、文字の軌跡のベクトルデータであるためデータ量が小さく、ネットワークに負荷をかけずに、細かい文字を鮮明に映し出せる。同時に利用できる人数も最大40人超で、1クラスの生徒数に十分対応できるという。

 生徒が書いた記述内容は、タブレットPCや電子黒板で共有できる。各人の記述内容を並べたり、先生が任意の範囲を切り出して表示させることも可能だ。さらに記入順序も記録されるため、動画として再生すれば、どのようなプロセスで答えを導き出したのか、その思考過程の可視化も行えるようになる。同校ではタッチパネル付きのノートPCがひとりひとりに配られ、自由に使えるようになっている。オープンノートは基本的に先生用のPCのみでも使えるが、今回のようにタブレットPCと連携すると、より応用範囲が広がる。

思考系問題を全員で解いて共有

 さて、今回の授業のテーマは「文字を使った式の利用」。3×3の正方形のマス目に書かれた数字の秘密を探るというものだ。たとえば、マス目の左上より自然数を1から順番に入れて、最初に任意の数字を1つ選ぶ。次に、その数字の縦と横に重ならない位置にある数字を選ぶ(選んだ数字の縦横を線で引き、残りの数字を選ぶ)。これをすべての数字が使い切るまで選び、それらの数の合計を調べる。3×3のマス目の場合は、任意の3つの数字の合計となる。

 生徒たちは、配布されたオープンノート対応用紙で3つの数字を選び、それらを合計した結果を確認。担当の関野真教諭が、生徒の記述を電子黒板に一覧表示させると、すべての答えが15になるという結果になった。この時点で生徒たちは、かなり興味津々だ。導き出された結果をもとに、今度は4×4や5×5などマス目で、数を変えて数字を順番に入れたり、また数字をランダムに入れたり、条件を変えて自分で問題をつくり、その答えがどうなるのかを検証。この課題は3、4人の班編成で進められ、自分でつくった問題を班内の他の生徒に試してもらい、結果を共有していた。

 自分の問題を他の生徒に試してもらう際に便利なのがタブレットPC(ノートPC)だ。タブレットPCには、生徒がオープンノート対応用紙に書いた内容が表示されるが、その画面横のインターフェースから、他の生徒のタブレットPCの画面をワンクリックで呼び出せるのだ。そのため自分がつくった問題を、他の生徒のタブレットPCに映して容易に作業できる。こういったコラボレーションが可能な点もオープンノートの大きなメリットだと感じた。

 生徒同士の検証結果は、前の課題と同様に教室に設置されたスライド式電子黒板に映し出される。検証でわかったことは、マス目の数字の合計が同じになる場合と、異なる場合に分かれるということ。この結果を受けて、次はマス目の数字の合計が同じになる際の共通点を考える課題が与えられた。たとえば「5×5などマス目の数を変えた場合で、数字を順番に配置したときの計算結果はどれも同じになる」といった仮説を立てていく。

 この授業は、単に生徒に計算をさせて終わるものではなく、ある条件から導き出される結果から一定の法則を推論し、仮説を立てて、それを検証していくという流れだ。生徒たち自らが「考える力」を養うことができる授業であると強く感じた。こういった授業は、マンツーマンならば実現できるかもしれないが、数十人単位のクラスでは個々人に目が届きにくいため、かなり難しいだろう。

「オープン・エンド・アプローチ」の実践に適したツール

 授業のあと、関野真教諭に話を聞くことができた。教える側の立場から、オープンノートのメリットについてどのように考えているのだろうか。

 関野教諭は「一番大きなメリットは、生徒たちが題材に興味をもってくれるようになったことです。今回の題材は数学的なテーマとして面白いものですが、その結果を全員で確認して共有することで『本当に凄いね!』ということが伝えられます。生徒たちの学習意欲の動機づけを強化してくれるという点に意味があると思います」と説明する。

 また、生徒同士のコラボレーションという点も重要なポイントだ。「自分が導き出した結果と他人の結果を比較することで、仮説が立てやすくなります。仮説を立てるためにはデータが多ければ多いほどよいのです。そして他人の情報を共有し、班で話し合うこと。このような文化を子どものうちから身に付けていると、社会に出てから役立つと感じています」(関野教諭)。

 一方、学ぶ側の立場から生徒はオープンノートについてどのように感じているのだろうか。「別のクラスですが、オープンノートを利用した授業の感想をアンケートで聞いたところ、ほとんどの生徒が『楽しい』『いつもより集中して勉強ができた』と答えてくれました。最初のうちは単純に機械に触れて楽しいという生徒が多いと思いますが、彼らの興味を確実に引き出せるツールになっているようです。1年生のうちは物珍しさが先行するかもしれませんが、2年生や3年生になるとツールに慣れてくるため、授業にも本格的に活用できると思います」(関野教諭)。

 これからオープンノートを使って試したいことが数多くあるという関野教諭。「教育分野には“オープン・エンド・アプローチ”という手法があります。1つの題材で、多様な考え方を共有し、最終的に考え方を集約していこうというアプローチです。特に今回のような思考系問題では、答えに辿り着くまでに多くの解き方があるため、オープンノートのようなツールを使うと、大変効果があると思います」と大きな手ごたえを感じているようだった。

 実は生徒たちは、このオープンノートを使った授業は今回で2回目だ。しかし、あっという間に操作にも慣れ、自ら積極的に問題に取り組む姿勢が見られた。今後、授業の回数を重ねるごとに、生徒たちがどのように変化していくのか、その成長ぶりが楽しみだ。

アナログとデジタルを融合した学習スタイルを実現…横浜国大附属横浜中

《井上猛雄》

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