宇都宮LRT、その意義と効果は…副市長に聞く

鉄道 行政
宇都宮市の荒川辰雄副市長
  • 宇都宮市の荒川辰雄副市長
  • 宇都宮市のLRT導入予定ルート概略図を基に作成したルート図。鬼怒川付近の約3.5kmが専用軌道で、その他は併用軌道となる。併用軌道では多くの区間で道路中央を走る

宇都宮市で検討が進められている「次世代型路面電車」こと軽量軌道交通(LRT)の導入計画。同市は今夏、予定ルート沿線の従業者アンケートに基づく需要予測や採算性の見通し、概算事業費を発表した。LRT導入の意義や効果などについて、同市の荒川辰雄副市長に聞いた。

--LRTを導入することによってどのような効果を期待していますか。

荒川副市長(以下敬称略):LRT導入の効果はいろいろあり、一括りにして単純には言えませんが、まずは通勤通学環境の改善が挙げられます。現在、LRT導入ルートの沿線にある清原工業団地にはキヤノンをはじめ約1万人の従業員が、芳賀工業団地と芳賀・高根沢工業団地にはホンダをはじめ約2万人の従業員が働いています。

昔は宇都宮市内から芳賀・高根沢工業団地まで通勤するのに自家用車で90分以上かかっていた時期もあったと伺っています。その後、道路ネットワークの強化、自動車の流れを円滑にするための信号制御の改善、さらには、社員専用の通勤用借上バスやフレックスタイム制の導入などにより当時に比べれば相当程度渋滞は緩和されています。現在では朝のピーク時間帯であっても順調に行けば、JR宇都宮駅東口から清原工業団地まで30分、芳賀・高根沢工業団地まで50分程度で到着できます。

しかし、時間帯や天候によっては、駐車場入口付近で渋滞が発生し、10~15分程度余計に時間がかかることがあります。また、敷地が広大な工場の場合には、実際の駐車場所から工場内の勤務場所まで徒歩で10~15分程度かかることも珍しくないようです。

LRTを導入することにより、時間帯や天候に左右されず、JR宇都宮駅から清原工業団地まで自家用車で30分から60分かかるところを20分台で、芳賀・高根沢工業団地まで50分から80分かかるところを43分で、さらに快速が運行できれば30分台で到着できるサービスを提供できる見通しです。

--渋滞対策のほかには考えられる効果はありますか。

荒川:LRT導入の二つ目の効果は沿線土地利用の高度化です。沿線企業へのヒアリングを通じて、駐車場の確保と管理、借上バスやフレックスタイム制の導入などに、各企業は相当の負担を感じていることがあらためてわかりました。従業員が増えると、さらなる通勤対策が必要となるので、新たな設備投資を躊躇している企業もありました。

今回の従業者アンケート調査の結果によれば、LRTが導入された場合、自家用車に乗っている方のうち10~20%程度の人がLRTに乗り替えるという意向が示されましたので、現在駐車場として利用されている土地も有効活用できる可能性が出てきます。

--9月末にスポーツ用品小売大手「ゼビオ」(本社:福島県郡山市)が宇都宮における本社機能を拡張するため、宇都宮駅西口の土地約1万平方mを取得したという報道がありました。宇都宮を選んだ理由のひとつとして「LRT計画の進展」を挙げていますが。

荒川:LRT導入によって、既存の工業団地における企業の設備投資だけでなく、LRT沿線に新たな企業進出を誘発する効果も出てくることを期待しています。特に宇都宮駅周辺は、LRTが導入されれば宇都宮都市圏の南北方向と東西方向の鉄軌道の結節点になります。各方面からさらに通いやすい場所となりますので、製造業はもとより商業・業務機能としての土地利用のポテンシャルがさらに高まることが期待されます。

--LRT導入の効果として渋滞緩和を掲げていますが、一方で今回示された案では軌道敷設によって車線が減る区間があります。自動車交通に対する影響は。

荒川:この点は慎重に検討を進めています。今回、自動車交通への影響は3段階で検討しています。第1段階は道路ネットワークの各区間の「混雑度」の確認です。5年後のLRT開通時に形成されている道路ネットワークを前提に、自家用車からLRTへの転換率を3.6%として分析したところ、混雑度は総じて下がるか現況とほぼ変わらないという結果が出ています。転換率が10%になればさらに混雑度が下がることが予想されます。

「混雑度」とは、国内の標準的な道路を対象に、簡便に道路の交通容量を把握するための概念であり、実際の道路の区間では、混雑度が高くても渋滞しない、逆に混雑度が低いにもかかわらず渋滞が生じる現象が時折見られます。そこで、第2段階として「交差点需要率」を確認しました。これはLRTが導入される道路を中心に影響が予想される周辺の交差点について、車線数、左折、直進、右折レーンの有無、信号現示の時間などを考慮して、1時間で何台の自動車が捌けるかを表現した概念です。

この検討の結果、LRT敷設が予定される2か所の交差点(新4号国道交差点、野高谷交差点)については、朝夕に現在より渋滞の長さが伸びることが懸念されるため、抜本的な対策を講じることとしました。具体的には新4号国道交差点は道路の盛土部分をアンダーで交差させ、野高谷交差点は高架化することとしました。

今後、さらに第3段階として自動車1台1台の挙動をコンピューター上で再現して、より現実に近い形で交通流を分析するミクロ交通シミュレーションを実施する予定です。この分析結果から詳細にレーン形状や信号現示のあり方などについても検討していく予定です。

(取材は9月末)

【荒川辰雄】1964年生まれ。1989年旧建設省入省。福井県、在タイ王国日本国大使館、高知県勤務などを経て、2011年国土交通省都市局街路事業調整官に就任。2013年4月から現職。

【宇都宮市のLRT計画】1995年、栃木県が主導して宇都宮市内と郊外工業団地の間を結ぶ公共交通機関として新交通システムの導入を検討したのがはじまり。2013年3月に宇都宮市は「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を策定し、中心市街地西側の桜通り十文字交差点からJR宇都宮駅を経由して宇都宮テクノポリスまでの15kmを全体整備区間とし、そのうちJR宇都宮駅東口から宇都宮テクノポリスまでの12kmを優先整備区間と位置づけた。

同年10月には、隣接する芳賀町が宇都宮テクノポリスから芳賀・高根沢工業団地までの3km区間を延伸し同時に整備することを表明。11月から両市町が共同で「芳賀・宇都宮東西基幹公共交通検討委員会」を設置し、現在検討が進められている。2014年年頭の記者会見で、佐藤栄一市長は今後のスケジュールとして2016年度着工、2019年度の開通を目指すことを表明した。

《小佐野カゲトシ@RailPlanet》

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