日本の自動車販売店はほどんどが受注販売だが、タイでは中国や米国と同様に在庫販売が一般的だ。
タイでトヨタ車ディーラーを営む住友商事系の販社トヨタ サミットは、バンコク市街の南東部郊外に位置するスリナカリン店に広大なストックヤードを造設し、同社が運営する他の2店舗分の在庫をここに保管。注文を受けた車両はここでアクセサリー装着や新車点検を受けたのち、各店舗に配送される。
今回の取材では、スリナカリン店のバックヤード改善事例から、アクセサリー装着や新車点検といった一連の工程を標準化し、いかに効率向上を果たしたのかをレポートしたい。
◆タクトタイム18分で洗車・フィルム施工・アクセサリー装着・新車点検を完遂
注文を受け、カーナビやフィルムなどのアクセサリー付帯作業を受ける車両は在庫ヤードから作業待ちヤードに移される。サミット店では、入庫車両を足車として在庫ヤードに搬入しながら、次の投入車両を在庫ヤードから抜き出すことで、可能な限り歩行が最小限になるような「つるべ方式」の移動が徹底されている。
アクセサリー類など付帯装備の装着も含めた一連の作業をおこなう「新車点検(新点)ライン」は、従来中古車加修場として使われていたスペースを改装したものだ。
新点ラインで重視されるのはタクトタイムの算出だ。サミット店の場合、1日あたりの平均販売台数は16台。1日の稼働時間を280分(4時間40分)として16台で割ると、1工程あたりに要する時間(実行タクトタイム)は18分になる。
付帯作業のうち、もっとも作業に時間がかかるのはフィルム貼付作業だ。車両のサイズや形状によって作業量が大きく異なるため、工数差が大きいフィルムのカット工程を付帯作業工程から除外して外段取り化した。洗車(タイヤワックス、エンジンつや出し含む)、小付帯(バイザー類装着、マット引き、室内つや出し)、新車点検(検査・室内清掃含む)はそれぞれ18分のタクトタイムで可能だが、フィルム貼付は33分が標準作業時間のため、ここだけは2名での作業として全工程を18分に収めている。全4工程でかかる時間は72分ということになる。
◆“からくり”駆使した手作りツールで作業効率改善
新点ラインでは、カウントダウン形式のデジタル時計表示が掲示され、作業開始から18分が経過するとメロディが流れる仕組みになっている。
またバイザーなど付帯装備をセットにしたトレイをピットに流す「部品シューター」はイレクターで組み上げた手作り品。ゆるやかな傾斜が掛けられ、バイザー部品を取り出して作業台に置くと、トレイが押し出されて隣のピットに流れるような工夫や、マット類を取り出してトレイ内が空になると重心の移動を利用して元の発車地点に戻る“からくり”も備える。
同展ではこれまで、新車点検については決められたルールがなく、標準化されていなかった。今回の改善で新点ラインの最終工程に車内清掃と共に組みこまれ、アクセサリーの装着がしっかりなされているか、フィルム施工の精度など入念なチェックを経て、各店舗へ配送されオーナーの元に届けられる。
以前紹介した車両抜出し工数の削減、新点ラインでのタクトタイム管理、そして新車点検の標準化といったバックヤードでの改善は着実に効果を上げている。8月の導入開始から約2か月を経て、店舗配送の納期遵守率は49%から98%にまで向上、サミットセールススタッフに向けた内外装品質満足度アンケートでは外観が77%から94%、内装が75%から89%と上昇している。
品質の向上と納期の遵守という、文字通りの両得という結果を得たが、サミット店プレジデントの細谷真吾氏は「情報流通改善部の尽力により、導入2か月で着実な成果を上げることができた。今後は品質を維持し続ける努力とさらなる改善に向けた意欲の醸成といった人材育成を視野に入れた活動をおこなっていきたい」と気を引き締めていた。