アメリカ映画を見ているとキャデラックの『エスカレード』がしばしば登場する。要人を警護するシークレットサービスがエスカレードの列を連ねて走るシーンを見た人は多いと思う。普通のSUVとは違う使われ方をしているクルマだ。日本では三井物産が輸入を始め、後にGMジャパンが受け継いで現在に至っている。ボディはクルマとしてとてつもなくデカイ。全長が5mを超えて5155mmあり、全幅も2mを超えて2040mm、さらに全高も2mに近い1945mmというサイズだ。クルマじゃなくて山かと思うほどの大きさである。トラック系のフレーム付きシャシーの上に豪華な装備を搭載してキャデラックブランドのSUVに仕上げている。GMにとって大きな利益源となるクルマだ。大きなクルマなので乗り込むのが大変。運転席によじ登るような感じだ。乗ってしまえば着座位置が高い分だけ開けた視界が得られるが、乗降性はトラックと変わらない感覚だ。室内は本革シートや木目パネルなどを採用したラグジュアリーな空間が作られていて、キャデラックらしい豪華さがそこにある。シート配置は3列7人乗りで、ボディが大きいので3列目のシートにも大人が座れる広さがある。逆に3列目にも広さを確保しているのでラゲッジスペースの容量は小さい。荷物を積むときには3列目のシートを外しておくことになる。搭載エンジンはV型8気筒6.2リッターのOHV。これまたトラック系というか、商用車系のエンジンなので乗用車向けに洗練された感じはない。でも排気量の余裕を生かして301kW/563N・mのパワー&トルクを発生する。エスカレードの車両重量は2600kgもあるが、これだけの動力性能があれば走りは力強い。超重量級のボディをぐいぐい押し出していく感じでけっこう良く走る。フレーム付きのシャシーで全高も高いから、操縦安定性のレベルは決して高いとはいえないが、最新の電子制御サスペンションシステムであるマグネティックライドを採用するほか、横転防止機能を備えたスタビリトラック(横滑り防止装置)も付いている。これらによってトラック的な上下動は抑えられ、左右のロール感も不安を与えるものではない。むしろ重量を含めてどっしりした感じの走りである。エスカレードは日本で使うには余りにも大きすぎる上に左ハンドル車しか設定がないが、そうしたクルマを面白がって選ぶ人がいるのも事実。いろいろなクルマがあること自体は悪いことではないので、お好きな人がどうぞ、というクルマである。自宅の駐車場事情を始め、良く出かける先での取り回しなど、いろいろな状況が許す必要があるし、試乗したプラチナムの価格は990万円だから、予算も許す人でないと買えない。■5つ星評価パッケージング:★★インテリア/居住性:★★★パワーソース:★★★フットワーク:★★★オススメ度:★松下宏|自動車評論家1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。