車載照明機器で半世紀以上市場をリードするフィリップスの品質管理と戦略

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キセノンバルブの製造ライン。インナーチューブとアウターチューブの封入工程
  • キセノンバルブの製造ライン。インナーチューブとアウターチューブの封入工程
  • フィリップス ドイツ アーヘン工場 工場長 カール・スペキ氏
  • テクノロジー&マーケティングコンサルタント ユルゲン・メルツァー氏
  • アーヘン工場品質管理チームの山内雅史氏
  • フィリップス アーヘン工場の組織図
  • フィリップスのヘッドランプ用バルブ
  • GTDでは製造ラインの設計やプロセスの開発などを行う
  • フィリップスの自動車用照明機器の歴史

フィリップスは、世界で初めて電球ヘッドライトの量産に成功したメーカーであり、現在でもヘッドライト・補助灯・マーカー類といった車載用照明機器の市場においては世界トップシェアを誇っている。そのほとんどを生産しているというドイツのアーヘン工場に取材する機会を得た。

アーヘン工場では、ハロゲンバルブ(H1)の製造を始めたのが1962年からだそうだ。HIDとも呼ばれるキセノンバルブの製造は1990年(量産のためのパイロットライン稼働)からという。ともに世界初の量産化とのことで、現在はアーヘン工場だけで年間1億個以上の自動車用ハロゲンランプを生産している。また、キセノンバルブ(バーナーと呼ばれるランプ本体)は、アーヘン工場のみでの生産となっている。

同工場は、1)Business Center Automotive(BCA)、2)Halogen Lamp(HL)、3)Business Center OLED(OLED)、4)Lumileds Development Center(Lumileds)、5)Global Technology Development(GTD)の5つの事業部から構成されている。BCAは自動車用のハロゲンバルブとキセノンバルブのほか、マーカー類など自動車関連の灯火類を製造する事業部門である。HLは自動車以外のハロゲンランプを手掛ける。ここでは、一般向けの省電力化製品の開発や製造が行われている。OLEDでは日本では有機ELと呼ばれる発光素子を使った照明機器の応用例を含めた研究・開発を行っている。Lumiledsは、ヘッドライト・DLR(Daytime Running Lamps)を含むLEDによる照明機器の開発・製造を行う事業部。最後のGTDは、製造や開発のためのツールやラインの開発、プロセスの開発を行う部門となる。

アーヘン工場の工場長(Site Managere)であるカール・スペキ氏の言葉を借りれば、同工場は「照明機器に関していえばグループ内で世界最大規模の生産を誇る工場であり、LEDやOLEDなどの新しい技術や製品についても投資がコミットされた拠点」ということになる。

しかし、照明機器などは、家電製品として考えるとコモディティ化が激しく、韓国・中国・その他新興国メーカーの追撃が最も激しい市場ではないかと思える。フィリップスのバルブが、半世紀以上(創業からは100年弱)もグローバル市場で評価されている要因はどこにあるのだろうか。同社のTechnical & Marketing Consultantであるユルゲン・メルツァー氏によれば、「製品の精度と品質が差別化ポイントのひとつ」であるという。

例えば、発光の心臓部といえるハロゲンバルブならフィラメント、キセノンバルブならアーク放電の大きさがともに4mm×1mmと規定され、その位置や形状が厳しく管理される。誤差は±0.1mm~0.2mm以内とされている。この精度を保つため、工場では各工程で画像認識による検査が行われ、最終的には人間の目による全数検査も実施される。

さらに、フィリップスのハロゲン球やキセノン球には石英ガラスが使われている。石英ガラスは紫外線の放射を防ぐ効果があるとされるが、同社のコンサルタントであり取材の対応もしてくれた、ユルゲン・メルツァー氏によれば「紫外線を抑える効果は限定的であり、フィリップスで石英ガラスを採用する理由は、明るさや耐久性を考えてのことです。」と述べる。

石英ガラスは強化ガラスより粘りがあり、ガスの内圧を高くすることができる。ハロゲンにしろキセノンにしろ、内部のガス密度が高ければそれだけ明るさや寿命によい影響を与える。また、熱変化にも強いので、ガス封入の際には、ガラスチューブを液体窒素で冷やしながら上部だけバーナーで密閉するような加工が可能になる。こうすると、冷やされたガスはチューブの下に溜まり、上だけ加熱して密閉できるので効率よくハロゲン球を作ることができる。なお、石英ガラスは紫外線または太陽光を当てると青く光るのですぐにわかるそうだ。

電機製品・ヘルスケア製品・医療機器まで手掛けるフィリップスでは「品質=顧客満足度」という考え方が浸透している。こう述べるのは、Industrial Quality Management Directorとして同社の製品の品質管理を担当する山内雅史氏だ。なお山内氏はアーヘン工場で品質管理を担当するチーム内で唯一の日本人だそうだ。山内氏の作成する報告書はSite Managereではなく、Global Quality Managerに提出される。Global Quality Managerは文字通り、世界中の工場からの品質管理のレポートを受け取り、それをチェックする。購買部門やSite Managerが品質管理についても全権を持つことで、売上や効率が優先されることがないように、レポートラインを独立させている。

競合する新興企業とのもうひとつの差別化ポイントは、イノベーションを生み出す力、それを育てる戦略にあるようだ。現在、アーヘン工場ではLEDとOLEDの製品開発に力を入れている。取材した同社の多くのスタッフが述べていたことだが、光源としてのLED市場は確実に広がっていき、既存の光源やランプに置き換わっていくとみている。この分野での製品開発に投資をするとともに、光源としてOLEDを利用した新しいスタイルの照明機器の製品化と提案を行っている。

フィリップスといえば、古くはカセットテープの特許と規格を公開したり、CD規格を(ソニーと共同で)開発したりと、イノベーションの当事者として存在感を示してきた会社だ。ハロゲンバルブやキセノンバルブでもいち早く製品を市場に投入するなど、その伝統は受け継がれているといっていいだろう。フィリップスの戦略は、イノベーションを自ら起こすことによって、市場での長期的な競争優位性を維持するというものといえそうだ。

《中尾真二》

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