『フォーカス』と言えば歴代、その類い稀なダイナミック性能で、高く評価されてきたモデルである。復活なった新型でも、その期待が裏切られることはない。
排気量2リットルのエンジンは、諸元だけ見ると「今どきダウンサイジングターボじゃないんだ」なんて思いが頭をもたげるが、これとデュアルクラッチギアボックスの6速パワーシフトの組み合わせは、十分な低速トルクと微妙なアクセルワークにも、しかと応える繊細なレスポンス、そしてスムーズな吹け上がりなど、あらゆる面で満足させてくれる。
ではフットワークはと言えば、初期応答性が殊更シャープというわけではないが、切れば切っただけすんなりと曲がっていくナチュラルさが光る。リアの接地感の高さにも驚かされた。容易に破綻しそうな気配を見せることなく、常にしっかりとリアが落ち着いているからこそ、安心して切り込んでいくことができるのだ。
いたずらに硬められているわけではないサスペンションは、乗り心地も快適である。これが同時に4輪をしたたかに路面へと押しつけ、高いスタビリティを発揮しているのだ。総じて、走ることが好きな人には堪らない仕上がりと言えるだろう。
一方で、外観は、誰もがすぐにフォーカスとわかる個性が反映されているものの、全体に少々煩雑な印象も。インテリアも然りで、広さは前後席とも十分だが、特に前席は、デザインのおかげで囲まれ感が強調されている。これは好き嫌いが分かれるところかもしれない。
逆に荷室は、容量316リットルとクラスの平均値よりは相当小さい。但し、今や珍しいダブルフォールディング式の後席を倒せば、広さは1101リットルに跳ね上がる。この辺りも使い方によって判断は違ってくるはずだ。
装備はカーナビゲーションシステム以外は、標準でほぼひと通り揃う。低速用衝突被害軽減ブレーキシステムのアクティブ・シティ・ストップも標準装備なのは評価できるポイントである。
但し、運転席周辺に、まさにそのカーナビゲーションシステムを設置するのに適した場所が無いのは欠点だ。どうせならオーディオを省いて、2DINくらいの空きスペースにしてくれた方が良かったのでは?
気になるところと言えば、燃費もそう。JC08モードで12.0km/リットルという数字では目をひくことはできない。更に言えば、293万円という価格。装備の差などについては重々承知の上で言えば、『ゴルフ』や『Aクラス』、『V40』などがそれよりリーズナブルな価格設定で出ている中で、先代からの乗り換えではない、新たなユーザーにアピールしたいとすれば、この価格では難しいだろう。中身はそれに十分値するのだ。しかし少なくとも25万円くらいは値下げしてくれないと、現状では自信をもってオススメとまでは言えないというのが正直なところである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★
島下泰久│モータージャーナリスト。
クルマの基本である走りの楽しさから、それを取り巻く諸々の社会事象、さらには先進環境・安全技術まで、クルマのある生活を善きものにするすべてを守備範囲に、専門誌から一般誌、各種ウェブサイトなどに執筆。著書に『極楽ガソリンダイエット』(二玄社刊)、徳大寺有恒氏との共著『2011年版間違いだらけのクルマ選び』(草思社刊)。