装着感は良好、操作性には改良の余地あり
実際に本機を使って、ジョギングと自転車のトレーニングに使ってみた。まず本機を箱から取り出し、手に持ってみて驚いたのがその軽さだ。ボディサイズが大きくなっているから重くなっているだろうと勝手に予想していたのだが、実際は違っていた。調べてみると、本機の重量は72グラムで、これまでの最上級モデルであるForeAthlete 610とまったく同じなのだ。本体の大型化、50m防水となったこと、バッテリー寿命が2.5倍に増えたことを考えれば、この軽さは驚異的といえる。
続いて初期設定をするのだが、ここで少し手間取った。どうも操作に慣れることができず、誤操作を連発してしまったのだ。本機には側面に5個、正面に2個、合計7個のボタンがある。前述のとおり触れるだけで操作できるタッチベゼルやタッチスクリーンは廃止されたので、操作性は従来モデルとは別物だ。とはいっても例外的に良好だった操作性がごく普通になっただけなのだが、いかんせん、本機のボタンはどうも押しにくい。
本機の側面のボタンはゴムのような弾力のある素材で覆われていて、押すにはかなり力が必要だ。この点では軽快なクリック感とともに操作することができた『ForeAthlete610』のボタンが圧倒的に優れている。50m防水なので仕方ないとも言えるが、正面の2個のボタンは押しやすいので、全てこれと同じボタンにして欲しかったところだ。
ちなみに、初期設定のうち自分の体重などのプロフィールはGARMINがユーザーのために運営しているWebサイト「GARMIN CONNECT」で設定し、本機に転送することもできる。
GPSの捕捉が速くなり表示も改善、従来の不満点を一掃
ジョギングに使ってみた。まず電源を入れて衛星が補足されるのを待つ。筆者はこの待ち時間で簡単なストレッチをするのが習慣だ。ところが自分なりのストレッチのルーティンが半分も終わらないうちに衛星の補足が完了。これは速い。衛星の補足に要する時間はさまざまな要因で変化するので安直な評価は禁物だが、2週間ほど本機を使用した印象ではやはり従来モデルよりかなり速いと感じた。
続いて「START」ボタンを押して走り始める。このボタンは本体正面にあって非常に押しやすい。手動でラップを刻む時の「LAP」ボタンも同様だ。設定の変更をするときなど本体側面のボタンを押す操作は少々やりにくい面もある本機だが、トレーニング中に必要になるボタン操作については非常にやりやすい。
腕への装着感も非常にいい。筆者は腕が細いので大きめの腕時計をつけるとどうにも落ち着かないのだが、本機は腕にぴったりフィットし、違和感が少ない。これは重量が軽いことと、気のせいかもしれないが、大きいことで腕との接触面積が広いことがいい方向に作用しているように感じる。大きいといえば、表示面積の広いディスプレイも快適で、走りながらでも表示を見やすい。GARMINのランニングコンピューターはどれもそうだが、モノクロの液晶の視認性は晴天の昼間でも夜間でも最高だ。さらに本機だけのユニークな機能として、ディスプレイの上あたりを指で2回叩くとバックライトが点灯する。これは便利だ。
ディスプレイに表示できるデータは最大4個までで、ページ切り替えによりさらに多くのデータを表示できる。しかも、表示するデータの個数や種類は自由にカスタマイズ可能だ。競技としてのトレーニングならラップタイムや走行ペースを、ダイエット目的なら消費カロリーを大きく表示するといったことができる。
また、本機には各種のアラート機能があり、あらかじめ設定したデータの範囲を超えると音やバイブで知らせてくれる。筆者の場合は有酸素運動をしたいので、心拍数の上限を設定し、それを超えるとバイブが作動するようにセットしている。心拍数というのは意外と自分ではわからないもので、ゆっくりしたペースで走っていてもバイブが作動して驚くことが何度かあった。どうやらウォーミングアップを不十分なまま走りだすと急激に心拍が上がってしまうようだ。こういったことに気づかせてくれるのもランニングコンピューターのメリットといえる。
◆転がしておくだけでデータをアップロード
走行後は自宅に帰り、本機を机の上に転がしておけば自動的に走行データがGARMINのWebサイトであるGARMIN CONNECTにアップロードされる。もちろん事前に設定や準備が必要だしパソコンの電源が入っている必要があるが、それでもこの機能は本当に便利。本機はバッテリー寿命が長いから充電のためにケーブルを接続するのも数日おきでよく、ほとんどの日は何も接続する必要がない。
さっそくアップロードされたデータを見て驚いた。走行軌跡の表示が非常に正確なのだ。本体が小さく、常に振り回され、しかもカーナビのようなマップマッチングもないランニングコンピューターは、測位精度はそれほど高くないのが常識だ。ところが、本機はそんな常識を覆す測位精度を実現している。地図を見た限りでは、誤差は常に5m以内に収まっているようだ。
本機はGPSを補完する日本の準天頂衛星「みちびき」の電波を捕捉できる。これが測位精度の高さにつながっていることは間違いないだろう。ただし、みちびきは3機揃って完成するシステムだが、まだ1機しか稼働していない。測位精度の高さはやはり本機の総合的な性能によるところが大きいように思える。衛星補足の速さといい、この測位精度の高さといい、GPSの性能が底上げされているのは本機の大きな魅力だ。
ちなみにGARMIN CONNECTはアップロードされたデータから地図上に走行軌跡を表示したり、走行ペース、心拍、勾配を折れ線グラフにして表示するなど、さまざまなデータの分析が可能だ。さらに、SNS的な機能も持っており、自分の走行データを他の会員に公開したり、その逆に他人の走行データを参照することができる。同じようなサービスを行なっているサイトは他にもあるが、GARMIN CONNECTは会員数が多く、機能や操作性も優れているといえる。
◆リアルパートナーが復活、トライアスロンのための機能も
本機にはまだ紹介していない機能が他にもたくさんある。注目すべき機能をいくつか選んで紹介しよう。まず嬉しい機能として、リアルパートナー機能が復活した。これは、自分の、あるいは他人の過去の走行記録データと画面上で仮想的に競争できる機能だ。毎日、昨日の自分と対戦し、勝ち続ければ記録をどんどん更新していけることになる。もちろんそれは不可能だが、それでもこの機能はモチベーションアップに非常に大きな効果がある。
この機能はForeAthlete 410には搭載されていたのに、その上位モデルであるForeAthlete 610ではなぜか廃止され、代わりに設定した一定のペースで走る相手と競争できるヴァーチャルパートナー機能が搭載されていた。この機能は目標とするペースにスピードアップしたい場合には非常に有効だが、登り坂でも一定速度を保つ仮想の相手とは競争しにくい。ForeAthlete 910XTJはリアルパートナーとヴァーチャルパートナーの両方が搭載され、好みや目的で使い分けられるようになった。さらに、リアルパートナーのデータを一定の割合で遅くする、あるいは速くするといった調整も可能だ。
水泳関連の機能にも触れておこう。この新しい機能では本体に内蔵されたGセンサーを駆使して、水泳のモニターを行う。屋外のプールや海ではGPSデータと併用、屋内プールではGセンサーのみでストローク数、ラップタイム、泳法などのモニターが可能だ。GPSなしでもラップタイムを計測できるのは不思議だが、ターンするときの動きをGセンサーで検出するようだ。
もう一つ、絶対に紹介しておかなければならない機能がマルチスポーツモードだ。本来は設定画面で変更しなければならないスポーツモードの変更が、「LAP」キーを押すだけで可能になる。実質的にはトライアスロン機能といってもいいもので、スイムからバイクへ、そしてランへと進んでいくなかで、その動きをまったく妨げること無くスポーツモードを切り替えることができる。