【ATTT12】通信負荷の最適分散へ…NTTドコモ 辻村清行副社長

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NTTドコモ 辻村清行副社長 講演(ATTT12)
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次世代のクルマ作りに必要不可欠なテクノロジーの筆頭格に位置づけられているのが情報通信技術、いわゆるITである。

NTTドコモの辻村清行副社長は、先ごろ行われた第3回国際自動車通信技術展(ATTT12)の席上で、近未来の移動体通信の技術ロードマップとサービスのビジョンについて語った。

携帯が通信サービスのハブに

「スマートフォン(スマホ)の普及のスピードは本当に早い。2015年にはドコモのスマホ契約数は4000万台に達するでしょう。そのうちクロッシー(NTTのLTE高速通信サービス)対応契約は3000万台になると見ています。携帯は単なる通信機器ではなく、いろいろなサービスと連携した社会インフラになっていく。携帯のクラウド化がいろいろなサービスをシームレス(つなぎ目なし)に結び、新しい市場を創造するでしょう」。

辻村氏は携帯キャリアにとって、今が大きな変革期だと語る。そのきっかけは最近話題のスマートフォンの爆発的普及であることは明らかだ。PCに近い水準の機能が盛り込まれ、ネットワークとの接続性も良いスマートフォンがメインとなれば、今まで端末の制約で展開してこなかったサービスをどんどん実現できる。見方を変えれば、従来の携帯のビジネスモデルに固執している企業は必ず沈むということでもある。

「通訳電話」や「ワンタイム保険」も携帯で

「NTTドコモは1999年、iモードというインターネット接続機能を備えた端末を世界に先がけて発売し、幅広いユーザー層にモバイルインターネットを提供してきました。その意味では日本は携帯の先進国であり、その経験はスマホにも生かせるとみています」。

辻村氏は、現在βテストを行なっているものや、すでに一部提供を始めている事例をいくつか紹介した。音楽配信、映画配信、電子新聞、電子チケット、電子クーポンといったメジャーなものだけでなく、NTTドコモの新しい試みもあった。異なる言語を使うユーザー同士が普通に会話することができる通訳電話、携帯端末から1日単位で加入できる自動車保険「ドコモワンタイム保険」、スマホで撮影した写真をネットワーク上に蓄積し、タブレットPCで簡単に共有できるサービス等がそれだ。

「今後、携帯キャリアに求められるサービス内容は、動画や画像、音声などのリッチコンテンツが主体になる可能性が高い。タブレットPCで見る電子書籍などもITが大きな力を発揮するサービスとなるでしょう。ニューヨーク・タイムスは今日、電子書籍化されて創刊号から全部をタブレットPCで見ることができるのです。たとえば1905年6月2日、日露戦争で日本海海戦に勝利した東郷平八郎元帥に同紙の記者がインタビューした記事なども。タブレットPCのディスプレイが高精細化すれば、雑誌もタブレットで読むことになると思います」。

ネットワークへの負荷に対処するには

こうしたリッチコンテンツがサービスの主体になれば、通信トラフィックも爆発的に増える。カーテレマティクスがそこに加わればなおさらである。高まるネットワークへの負荷をどう処理していくのか。

「通信そのものに関しては、2009年度から11年度の3年でトラフィックの許容量は1.7〜2倍になりました。今後は3Gのなかでも高速なLTEを普及させることでパイプラインが3倍になり、使える電波の周波数が12年度以降は2倍になります。さらに通信速度制御やデータオフロードWiFiなどの技術でさらに2倍とします。すべてをかけ合わせると、15年度には現在の12倍程度に持っていきたい。その先は下りの転送速度が最大1ギガビット/秒の4G技術、LTE-Advanceを投入して対応します」。

現在、モバイルのデータ転送量はスマホ普及によって日を追って増大している。それらの高速通信だけを利用するのではなく、既存の技術も活用するという。

「最も効果的なのはWiFi/WiMAXなどの無線LAN活用でしょう。携帯の通信だけに依存せず、ホットスポットでは高速なLANを使ってデータの送受信を行うようにすれば、ネットワークの負担は減ります。現在、ドコモが使えるホットスポットは全国で約7000か所ですが、12年上期には3万、さらに将来はニーズを見ながら10万を目指そうと考えています。設置場所も新幹線をはじめとする鉄道やカフェバー、コンビニなど、いろいろなニーズをカバーできるように工夫します」。

通信負荷の分散に向け、場面に応じたサービス利用を

携帯端末の無線LAN利用は、できれば便利なのではないかと言われてきたが、キャリアはおしなべて自社に通信料が入る通信形態を好み、あまり積極的ではなかった。が、辻村氏の説明を聞く限り、今後は積極的にハイブリッド通信に取り組んでいく構えに捉えられた。方法論的にはカーテレマティクスでデファクトスタンダード獲りを目指すトヨタと軌を一にしている。

「もうひとつ重要なのが、ネットワーククラウド。たとえば翻訳電話や音声エージェントサービスは音声認識、意図解釈、音声合成など、多くの処理をやらなければならない。それを端末とネットワークで分散処理していくことが必要です。また、教育サービスの面でもクラウドは重要なカギを握るようになる。我々も10か所あまりのところで電子黒板やタブレット教材の実験をしていますが、シンガポールや韓国などではもっと盛んに行われています。インターネット利用のマルチデバイス化が進むにつれて、コンテンツ、メール、電話帳、ストレージをクラウド上に置くクラウド化も早晩進んでいくと思います」。

クルマをはじめ、社会全体をつなぐ機能を期待されるなど、モバイルキャリアに対する時代の要請はどんどんハイレベルになってきている。それに応えるためにはどのようなソリューションが適しているのかということについて、今、世界で議論が沸騰している。NTTドコモの考案したITのロードマップが世界をリードすることになるか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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