【インタビュー】集中から分散へ、スマートグリッドで災害に強いインフラを構築…横山隆一 早稲田大学教授

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クリーン発電&スマートグリッドフェア(CSF)実行委員長の早稲田大学理工学術院・環境総合研究センター 横山隆一教授
  • クリーン発電&スマートグリッドフェア(CSF)実行委員長の早稲田大学理工学術院・環境総合研究センター 横山隆一教授
  • 資料提供:早稲田大学 横山隆一研究室
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  • 2010年7月に開催された第一回CSFの展示風景

原子力発電を電力供給の核として推し進めてきた日本。誰もが電力は安定して供給されるものと考えていたそのエネルギーインフラが大きく揺らいでいる。

早稲田大学理工学術院・環境総合研究センター教授で、「クリーン発電&スマートグリッドフェア(CSF)」の実行委員長を務める横山隆一氏に、電力供給の現状、そして今後のエネルギー施策の焦点となるであろう災害に強いインフラ構築に向けた課題について聞いた。

----:原子力発電が推進されてきた背景をお聞かせ下さい。

横山:「安く、安定して供給する」ことが電力供給の命題です。このため、ひとつの発電方法に偏らない「ジェネレーションミックス」という形が取られてきました。1973年頃まで日本では、最も手に入れ易く、最も使いやすかった石油による火力発電が主でした。しかし1974年の石油ショックを受け、ひとつの発電方法に依存することが危険であることに気づきました。そこで代替燃料として、ようやく技術が成熟してきた原子力、そして天然ガス(LNG)を用いた発電を組み合わせることとしました。

今、原子力は様々な問題を抱えていますが、そもそもなぜ原子力を推進してきたのか。それは燃料となるウランの調達が安定してできることが大きなメリットだったからです。ウランは石油のように特定の国だけでなく、世界各国で採ることができます。資源も豊富で、そのまま使っても80年分はあると言われています。また増殖することで2000年間は使用できるのです。

原子力発電はゼロエミッション(CO2を排出しない)であり、電力会社としては安定して安く、綺麗な電力を提供できることが最大のメリットでした。発電にかかるコストは1kWあたり、石油による火力発電で約11円、水力発電で約12円(ダム建設含む)、LNGによる火力発電で約8円。これに対し原子力は6円以下で発電できるのです。

しかし現在、全国で54基ある原発は22基しか稼働していません。日本の電化率は現在約30%。今年中にはこれを40%にまで普及させる計画でした。(原発の)増設はできない、最稼働にも地元からの反対は避けられない、という中で安定したクリーンな電力を供給するために、原子力に替わる発電方法として有力なのがLNGによる発電です。

----:代替燃料としてのLNGのメリットとは?

横山:LNGによる発電は、「コンバインドサイクル」という形でおこなわれます。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電するというもので、設備が小規模化できる、海岸沿いに設置する必要がなく津波の心配がいらない、そしてガスタービンさえあれば4か月から半年程度ですぐに発電にとりかかることができる、というメリットがあります。

コストの面でも、従来の大規模発電所では建設するのに100万kWあたり約2000億円が必要でしたが、ガスタービン発電所では30万kW規模から建設が可能で、約300億円でできてしまう。約半分のコストです。こうしたことから、当面はLNGによる発電が電力供給の支えとなっていくと考えられています。

燃料のLNGについても、現在では大量のガスを岩盤から採掘できる「シェールガス」がアメリカで実用化されたことをきっかけに、価格も安定しています。原子力ほどではありませんがクリーンですし、資源も豊富で安い。こうした背景から、「ガス業界に追い風がくる」とも言われています。

----:電力を使用する立場の我々としては、どのような心がけが必要となるのでしょうか。

横山:自前で発電できるしくみをもつことが課題となるでしょう。これは自己防衛です。家庭用の太陽光発電(PV)に注目が集まっていますが、電力の安定供給という観点で見ると、あまり効果的ではありません。太陽光発電の家庭での有効利用率はおよそ、1日を100%とした場合、平均で30〜35%程度です。

コストの面では、設置を含めて1kWあたり約70万円。一般的な家庭で約3.5kWの電力を使用するとなると約250万円かかります。発電した電力を売る事で元が取れる、と言う業者もいるようですが、発電した全量を売ることができたとしてもせいぜい月1万円。15年、20年と使い切ってやっと元が取れるかもしれないという程度なのです。

また、震災などで電力供給が止まった際に太陽光発電は有効と見られていますが、実際には電力会社が停止すると太陽光発電システムも停止させる決まりになっています。いわゆる「自立運転」に切替えても使用できるのは、専用コンセントからの1.5kWのみです。家中の電力がまかなわれるわけではありません。太陽光発電さえあれば大丈夫、という考え方は危険といえるでしょう。

このほかには燃料電池やガスエンジンなどがあります。燃料電池は1kWあたり約300万円と高価ですが、安定供給という面では有効です。また臨時発電設備として小型のガスエンジンは役に立つでしょう。屋台などで使われているもので800W、価格は5〜6万円程度です。コンセントさえ確保できれば、と考えるのであればコスト面のメリットも大きいと言えるでしょう。

電力供給側が「ジェネレーションミックス」という形を取ってきたように、家庭や事業所単位でも自前の発電設備を備えるなど、自分たちで「エネルギーミックス」をおこなっていく必要があるということです。

----:災害に強いインフラ構築のためには、どのような取組みが必要なのでしょうか。

横山:我々は電力供給において、あまりにも電力会社に依存し過ぎたと言えます。安い電力を求めた結果、設備は巨大化し市街地には作る事ができなくなりました。結果、発電設備そのものだけでなく、送電設備にも大きなコストがかかるようになってしまいました。そして、電源を集中化したことで、今回のように一度災害が起きると末端への供給全てに障害が発生するという事態になったのです。輪番停電についても全く同じしくみです。

より小さい単位で、より安く、かつリスクを分散できる電力供給のしくみを電力網の末端部分でも考えていかなければならない。つまり、市町村単位で発電し、生み出された電力はその市町村で使う、地産地消型のいわば「おらが村発電所」こそ、今必要とされている発電のしくみであり、被災地の復興においても重要となると考えています。

例えば、まず規模もコストも抑えられるガスタービン発電所を作る。これは現在の大規模な発電所のように海岸沿いに作る必要はありません。そしてその周りに、市役所や避難所、病院、公民館を配置する。そしてさらにその外側に住宅や企業がある。つまりエネルギーを中心とした街づくりを行うということです。

こうすることで、電力会社からの供給が災害で途絶えても、最低限の電気、水、通信装置を確保することができるのです。発電は、太陽光でも風力でも地熱によるものでも良い。地域にあった発電方法を採用すれば良いのです。自然エネルギーを利用したものであれば、燃料はいらずCO2排出量の心配もいりません。

こうした「クラスター」を点在させ、クラスターごとに最低限のインフラを確保するという方法により災害によるリスクを分散させていくことが重要だと考えます。

----:その中で「スマートグリッド」はどのような役割を果たすのでしょうか。

横山:しばらくはどうやって節電をおこなっていくかが重要です。工場や企業は、エネルギー管理者が調整すれば電力を15%抑えることは簡単にできます。しかし一般家庭については「お願い」するにとどまっている。信頼がおけないわけです。ここにICTを組み入れスマートグリッドを活用することで、効果的かつ少ない負担で節電・省エネができるのです。

考え方は簡単です。各家庭に、家の中の電気の使用を把握するためのホームサーバを設置します。そしてスマートメーターを設置し、電力の「見える化」をおこないます。これにより、今どこで、どれだけの電力が使用されているかが把握できるわけです。そして電力供給のピーク時などには、生活の上で優先度の低いものから電力の供給をストップさせるのです。輪番停電では地域毎に電力が停止しましたが、家庭の中で、システムが自動的に「優先停電」をおこなうことで、効果的な節電、省エネをおこなうことができます。

これを普及させるにあたっては、こうした優先停電契約にする代わりに電気料金が安くなる契約など、利用促進を図る施策が必要となるでしょう。

----:スマートグリッドの普及は一連の災害を受け、加速して行くと思われます。昨年に引き続き、10月に開催されるCSFはどのような展示となるのでしょうか。

横山:今回は「自然災害に強いスマートグリッド」というテーマが中心となります。昨年の展示では、スマートグリッドが期待を持って受け入れられたという実感を得ることができました。これからは実証していく段階に入ります。

電力が安定して供給されるものという前提は崩れました。これからは自治体や家庭など、より小さな単位で電源について考えて行かなければなりません。ジェネレーションミックスからエネルギーミックスへ、集中型から分散型へと移行して行く中で、エネルギーの見える化や節電を促す技術としてスマートグリッドが効果を発揮するでしょう。

CSFは災害を踏まえ、改めて節電、被災地の復旧、そして地方が強いインフラをつくるための手段としてスマートグリッドというものを認識してもらう良い機会となるでしょう。

《宮崎壮人》

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