トヨタ『パッソ』およびダイハツ『ブーン』の開発を指揮した鈴木敏夫チーフエンジニアによれば、デザインテーマは「素の美しさ」。なるほど4つのタイヤがボディの四隅に踏ん張る健康的な2BOXフォルムなのだが、「素」を主張するにしてはちょっとキャラが濃い。
ヘッドランプがちょっと複雑なカタチだったり、ショルダーラインが弓なりのカーブを描いていたり……。スッピン美人というより、「私、可愛いでしょ? お洒落してるでしょ?」と語りかけてくるデザインだ。
そんな印象はインテリアでさらに強まる。インパネは長方形を基本に、そこからトレイ部分をくり抜いたようなロの字型。ドアには大きな円のモチーフ。矩形や円といった幾何学形状を多用してシンプルに見せつつ、そのシンプルさをファッションに昇華させているところが、このインテリアの特徴だろう。シンプルだがスッピンではない。しっかりメイキャップして、「シンプルな可愛さ」を演出している。
そう考えるうちに、新型パッソ/ブーンはスズキ『ラパン』やダイハツ『ミラココア』と同じカテゴリーのクルマだと気づく。女性ユーザーが7割近くを占める軽自動車のなかでも、20代女性の支持を集めるのは、ちょっと前まではラパンだけだった。そこにココアが挑戦し、今度はひとつ上のリッターカークラスで新型パッソ/ブーンが上級移行の需要を狙う。トヨタ/ダイハツ連合軍の、そんな戦略が見えてくるのも面白い。
実際、新型を走らせていちばん印象的だったのは、先代に比べてNVHが格段に向上していること。先代の乗り味は「これならミラと大差ない」という印象だったが、新型はミラやココアよりひとつ車格が上と実感できる。
ロングセラーのラパンを卒業する人が上級移行する受け皿として、デザインだけでなく乗り味も「なるほど」なのだ。ただし、この乗り味にして、いまだグローブボックスにフタがないのはちょっと疑問。フタを付けたら、インパネが「ロの字型」ではなくなってしまうのだが……。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★
オススメ度:★★★
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。