取材する側が「後手」と感じたのは…
トヨタ自動車の『プリウス』などハイブリッド車をめぐるリコール問題は、多くのメディアから同社の「後手」が非難された。今回の問題ではクレーム情報の収集や事象の検証、そしてリコールの決定に至るまで、他の案件に比べて決してトヨタがグズついたわけではない。
それでも、取材する側が後手との印象を強めたのは、豊田章男社長自らが語るタイミングが遅れたことが大きい。逆風時のトップによるアカウンタビリティーの重さが改めて浮き彫りにされた。
1月21日に米国でアクセルペダルのリコールを発表して以来、リコールに対するトヨタの対応がちぐはぐになって行った。アクセルペダルのリコールは、ユーザーに良かれと、対策が決まらないうちに届け出を優先した。米運輸省に対策を提示して了承を得るまでは情報発信ができなくなり、その5日後には業績にも直結する販売停止に踏み切らざるを得なくなった。
◆平時のリコールならまだしも
情報が途絶えるなかで筆者は「トヨタで何が起きているのだろう」と取材に出かけたが、多くのメディア関係者も同じ思いだっただろう。そうこうするうちにプリウスのブレーキに関する苦情問題が表面化。5日夜になってようやく豊田社長の緊急会見がセットされたのだが、そこに至るまでの事情説明は品質保証担当の2人の役員に委ねられた。
リコールはユーザーの安全を守る制度であり、自動車産業では日常的に起こりうる。その判断も営利を追求する部門とは独立するかたちで、品質保証部門が担っている。豊田社長が「もっとも詳しく説明できる人」を起用したのは、いわば“平時”のリコールの場合なら妥当であり、問題はなかった。
だが、大量のリコールが発生してトヨタの品質への疑念が膨らみ、株価も続落する事態では、リコール問題で社長が会見したことはないという前例を、早い段階で打ち破ることが必要だったように思う。
◆豊田社長、カイゼンに踏み出す
9日の2度目の会見は、豊田社長が「私流のカイゼンとご理解いただきたい」と述べたように、自らの出番が遅れたことを率直に反省し、会見時間にもリミットを設けることなく記者団の質問に答え続けた。
10日付の新聞報道では冷ややかな論調も目立つが情報量は多く、トヨタと豊田社長が何を考え、何をしようとしているのか、ステークホルダーには十分伝わったはずだ。
トヨタは一昨年まで恒例化していた夏の経営説明会や年末会見を取りやめた。創業期以来の赤字転落という「嵐のなかでコンパスをもたない船出」と自らの社長就任を表現した豊田社長は、まずは「現地現物」を優先して現状把握に乗り出した。非常時なので、それは理解できる。
ただ、5日の会見で何度も強調した「顧客第一」を標榜するなら、顧客あるいは株主といったステークホルダーとトヨタのコミュニケーションの橋渡しとなるメディア対応は極めて重要だ。豊田社長との距離が縮まるよう、多くのメディア関係者が今後のカイゼンにも期待している。