挑戦し続けるカーAV界のフロントランナー クラリオン 70年の歩み

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日本初のカーラジオ・バス用拡声装置 1948年
  • 日本初のカーラジオ・バス用拡声装置 1948年
  • クラリオン初の純正カーラジオ『ル・パリジャン』 1951年
  • 日本初のカーステレオ 1963年
  • カセットカーステレオ 1968年
  • ナビゲーション(マップナレーションシステム)『NAC200』 1992年
  • 米マイクロソフトと共同開発した『AutoPC』 1998年
  • 日本初の車載PC『AutoPC CADIAS』 2002年
  • 業界初 iPodフルコントロール機能搭載1DIN AVセンターユニット 2005年

2010年、クラリオンは創業70年を迎える。いまではカーナビ/カーAVメーカーとして、市販だけでなく自動車メーカーへのOEM製品や業務用端末を手がけるクラリオン。その70年の歩みを、商品と事業展開を軸に振り返ってみたい。

◆創業…家庭用ラジオから

クラリオンの創業は1940年12月。現在の本社が置かれる東京都文京区で、前身の「白山無線電機」は設立された。その商号が示すように、創業時は電池式の家庭用ラジオを生産する小さな工場だったという。

大きな転機を迎えるのは戦後、1951年のこと。モータリゼーションの発達と車載向けの音響機器への需要をいち早く見て取り、日本で初めてカーラジオの生産を始めたのだ。7年後の1958年には米国向けの輸出もスタートし、これが現在にまで続くカーAV事業の礎となる。

◆1960-70年代…現社名「クラリオン」に

1960年代に入ると、高度成長期の勢いに乗り積極的な経営戦略にうって出る。家庭用オーディオの普及を見るや、車載用途への高音質ニーズが高まる機運をつかんで1963年に日本初のカーステレオを発売。カーオーディオ本格化時代の到来を告げた。

1970年には初の海外製造拠点としてマレーシアに合弁工場を設立する。また同年、商号を現社名の「クラリオン」に改称する。中世ヨーロッパで普及した金管楽器の名から取られた名称で、“音響機器メーカー”あるいは“音楽へのこだわり”を持つという現在にまで続く企業イメージの源となっている。

◆1980-90年代…開発・製造体制の拡充、お茶の間にも話題を

1983年にはフランス工場を設立し、日本国内やメキシコでも生産拠点を拡充して、製品供給体制を強化し、グローバル企業としての地位を固めていく。プロダクト面では、1987年にカーCDレシーバー『CD5000』を、さらに1992年には国内初の音声ガイドをおこなうナビゲーションシステム『NAC-200』を発売するなど、独創のモノ作りの社風は息づいていた。

またこの間、クラリオンはカー用品以外でも多くの話題を振りまいた。1975年にはキャンペーンガールの「クラリオンガール」のグランプリをスタートし、数多くの大物アイドルを輩出した。また、1976年には8トラックのカートリッジテープを使用する業務用カラオケの『カラオケ8』を発売している。

◆1990年代-現在…インターネット時代を視野に

PCとインターネットが普及する1990年代後半になると、クラリオンはいち早くIT企業とのコラボレーションへ動き出した。それが形になったのは、1998年。米国マイクロソフト社と共同で車載コンピューター「AutoPC」を開発。2002年には日本国内で「Windows CE for Automotive」搭載の『AutoPC CADIAS』を発売した。汎用OSの採用、DVDスロットやUSB、PCカードスロットなどWindowsマシンさながらのハードウエア構成に加えて、通信対応のインターフェースも揃えるなど、通信ナビ時代の到来を予見した意欲作だった。

2003年にはHDD搭載AVナビゲーションを発売し、その翌年には市販の2DINサイズとしては業界初となる7インチモニター搭載のHDD・AVナビゲーションを発売したほか、2005年にはアップル『iPod』の普及をにらみ、iPod対応AVナビゲーションを業界で初めて発売した。また、2007年には市販AV一体型ナビとして日本で初めてSDD(Silicon Disc Drive)を採用した『スムーナビ』を投入したことも記憶に新しい。

そして、2009年の『スムーナビ NX609』およびハイエンドのHDDナビの『クラスヴィア NX809』では、「オンライン交通情報探索」を新たに採用。日立製作所の提携タクシーなどの走行情報(プローブ情報)を取得・加工した交通情報をナビ端末に配信、ルート探索に活用するというものだ。通信はBluetooth対応の携帯電話を利用する。この機能により、更なる高精度・高品質のルートガイドを実現した。

◆OEM事業がビジネスの土台を固める

クラリオンの事業の柱は市販ビジネスだけではない。OEM製品や業務用の車載機器開発など、広範な法人顧客層を持っていることも特徴だ。

2000年代以降のカーナビ需要期には、メーカーオプションナビ(MOP)・ディーラーオプションナビ(DOP)を自動車メーカーと共同で開発し、OEM供給するようになる。現在では、国内外の主要メーカーにMOPナビ・DOPナビを供給している。先ごろ、J.D.パワーが北米市場で実施した「2009年ナビゲーション使用実態・満足度調査」では、フォード車に標準装着しているボイスコントロール式ナビゲーションシステム「+シリウス・トラベルリンク」が1位・2位を独占するなど、海外のユーザーからも高い評価を得ている。

また、クラリオンはバスや運送用トラックなど業務用車両の端末も手がけている。路線バスのオートガイドシステムや表示器、料金収受用の非接触ICカードリーダー・ライター、観光バスの音響システムなどがその代表例だ。2007年には耐久性や拡張性を高めてプロユースに特化した業務用ナビ『Solid Navi』を発売。これらの業務用車両にとってクラリオンの機器は、車両運行をサポートする“縁の下の力持ち”として、なくてはならない存在となっている。

◆次世代ナビの開発の手は休めない

2000年代に入り、カーナビ開発を取り巻く環境の変化と技術の進化は一層激しさを増しているが、こうした状況のなかでもクラリオンは次世代ナビゲーションの開発の手を休めてはいない。

まず組織面では、日産と日立の合弁企業として設立され、後に日立の完全子会社となったザナヴィ・インフォマティクスを2007年に完全子会社化。2009年には同社を吸収合併して両社に分かれていた開発リソースを一本化する。

2008年11月には、「モバイル・インターネット・ナビゲーション・デバイス」の頭文字をとった『ClarionMiND』を北米に、翌2009年春には欧州市場へ投入した。LinuxベースのOS(Moblin)にインテル『Atom』プロセッサーを採用、WiFiや3G携帯電話網など通信対応のインターフェスも備えることで、「My Clarion」と名付けられたポータルサイトからPOIや音楽などオンラインの膨大な情報やコンテンツを取り込むことができる画期的な情報端末だ。

また国内では、ネット地図とカーナビをリンクさせた地図情報コミュニティサイト「チズルとススム」(http://chizu-route-susumu.jp/)を2007年12月にスタート。ルートや観光スポット検索や、ドライブプランの作成の他、クラリオンの市販ナビ・ディーラーオプションナビとの連携も実現している。『クラスヴィア』等に採用される“ピクチャービュー”と同様に、地図画面の下にスポットの画像が表示され、直感的に操作できるよう配慮されるなどUI面でも工夫が凝らされている。

これらのコンテンツは、カーナビの常時接続時代を見越して、車載端末への配信も視野に入れたサービスとなっている点が特徴だ。

◆Clarion H.M.I.の思想がいよいよ試される

歴史的変遷と事業展開という、いわば縦軸と横軸という視点でクラリオンを見てきた。これまで見たように、ニーズや流行に対していたずらに“迎合”するのではなく、ニーズを“創造”するべく積極的なイノベーションを提案をしてきたという点がクラリオンの社風を物語っている。この“先鋭性”を担保することができたのは、確固たるビジネスの柱があったからに他ならない。

つまり、業務用向け端末やOEM製造といった“黒子”に徹したビジネスで企業としての土台を固める一方で、アフターマーケットの分野では常にニーズを先取りし、先鋭的なプロダクトを生み出す。自動車メーカーへの提案力や顧客のニーズに柔軟に対応する開発力、そして製品の信頼性・耐久性は、“toB”と“toC”との両輪で独自のポジションを築いてきたメーカーだからこそ得られた強みであり、この二面性が80年代以降の成長エンジンとなったことは疑いない。

しかし、2010年代を目前に控えた今日、カーナビメーカーを取り巻く環境は厳しさをいっそう増している。欧米市場を中心としたPND(Personal Navigation Device)の急速な普及や、スマートフォンの飛躍的な機能向上、製品価格の低落と世界同時不況による消費の冷え込み、オンライン地図の普及…。“通信とナビゲーションの進化と融合”によってもたらされる変化は、昨日までのビジネスモデルをあっという間に過去のものにしてしまうほどに急速だ。クラリオンは、この時代をどう乗り越えようとしているのか。

クラリオンでは、ブランドの目指すべき方向を「Clarion H.M.I.」と表現している。つまり、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の思想をさらに多層化・立体的に拡大し、音と情報を移動空間で結びつけ、楽しく快適な空間に進化させるというものだ。

「新しいニーズを生み出し」、「斬新な発想と技術で新製品・新サービスを作り出し」、そして「利用者の声を製品に反映させUIづくりに真摯に取り組む」ことがクラリオン70年の伝統だった。Clarion H.M.Iは、そのDNAをテレマティクス時代において明確に具現化するためのスローガンだ。

この時代の変化はかつてないほどのインパクトをクラリオンに与えているが、Clarion H.M.I.をキーワードに、次世代情報端末のスタンダードをいかに生み出すか。他社にはないビジネスモデルと発想力で、クラリオンは節目の70年目を乗り越えるべく奮闘する。

《北島友和》

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